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クラスの女子全員+俺だけの異世界召喚  作者: うなぎ
悪魔王編

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148/410

お肌に優しい中世洗剤


 勇者の屋敷、俺の部屋。

 ベランダでは魔族、ダグラスが掃除を続けている。まじめな奴だ。

 そして――


「……と、いうわけだ」


 俺はエリナに改めて現状を説明した。

 魔族のこと、究極光滅魔法メギドのこと、この都市に残された時間と、魔族からの使者ダグラスについて。

 複雑な情勢だ。でも俺はなるべくわかりやすく懇切丁寧に教えたと思う。ひょっとすると教師の才能があるかもしれない、なんて自画自賛してみたり。

 さて、そんな俺の一流講義を一身に受けた生徒エリナは――


「ZZZZZZZZZZ」


 寝ていた。

 椅子に座りこみながらの居眠り。だらだらと垂れた涎のせいで、スカートが濡れている。

 俺は血管がブチ切れる音を聞いたような気がした。


 エリナは話を聞かない。

 ここに来る前、つぐみがダグラスの件をすでに話そうとしたらしい。しかし、『魔族が匠の近くに……』と話したただそれだけで飛ぶように俺のところへ走っていたようだ。要するに暴走しすぎてどうしようもなかったというわけだ。


 俺はエリナの金髪ツインテールを掴んで、ぶらぶら左右に揺らした。女の子にこんなことするのは失礼かもしれないが、彼女になら許される。


「おきろー、朝ですよー」

「……んあ、あ、うん! 聞いてた! 全部聞いてた!」

「…………」


 もう突っ込む気も失せたからその涎を拭いてくれ。


 若干白い眼の俺はとりあえず話を進めることにした。この子が寝ていた件は……無視だ。


「とにかく。魔族とはもうすぐ決戦を行うことになっている。空に奇襲を仕掛けられたらいいだが、この世界では飛行機もミサイルもない。敵の思惑に乗るのは癪だが、ここはその決戦に乗って勝利を掴み取り――」

「はいはいはーい!」


 エリナが、まるで教師に質問する学生のように手を上げた。どうやら何か提案があるらしい。


「なんだ? 何か対抗策でも思いついたか?」

「ペットボトルロケットだ! ペットボトルね、100個、ううん1000個くらいくっつけて大きなロケットを作る! その中にあたしが入って、空を飛んで魔族のところへ切り込む! 空中決戦だ!」


 お……おう。

 目をキラキラとさせているエリナは、誰がどう見ても冗談を言っているようには見えない。そのお花畑の頭の中では、ロケットに乗りながらつばぜり合いをしている自分の姿を想像しているのだろう。



「いろいろ突っ込みどころ満載だが、まず何より先に問わなければならないことがある。ペットボトルなんてどこにあるんだ?」

「…………自動販売機に!」

「……ふっ、じゃあこの銀貨あげるから俺とエリナの分のジュース買ってきてくれ」

「任された。うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 エリナは猛烈な奇声を上げながら、部屋の外に走っていった。

 外の廊下や足元から、物の壊れる音と使用人の悲鳴が聞こえる。気のせいだろうか。

 しばらくすると、汗でブラウスを濡らしたエリナが戻ってきた。


「大変だ匠君! この屋敷、自動販売機がない!」


 そこは『この屋敷』じゃなくて『この世界』と言ってほしかった。俺の屋敷がダメ屋敷みたいに聞こえるじゃないか……。


「…………」


 まさかここまでとは。

 俺はエリナとあまり親しい方ではないが、このクラスに転移する前から彼女のことを知っている。


 子供をしかりつける父親に襲い掛かったり。

 子猫を助けるため、急ブレーキですでに止まった後の車をぼこぼこにしたり。

 犬や猫の命を守るため、保健所を襲撃したり。

 

 よく暴走するのだ。

 頭が心配になってくるレベル。それで聖剣使える実力者だと言うのだから始末が悪い。

 エリナは扱い辛いキャラなのだ。


 こほん、と咳払いした俺は、改めて事情を理解していない彼女に現状を説明することにした。


「あのねエリナ。自動販売機は機械なの、マシーンなの。ここは異世界。『中世』ヨーロッパっぽい世界。コンピューターとか電気とか……そんな便利なシステムないの。お分かり?」

「中世? ちゅうせい……洗剤! お肌に優しいこの世界!」

「…………」


 うーん、どうやら歴史の授業なんてまるで聞いていなかったらしい。世界史テスト10~15点周辺をうろうろしている俺でさえ、古代中世近世はなんとなく分かってるぞ?

 俺は頭が痛くなってきた。


「と、とにかく自販機はないんだ。だからペットボトルロケットは作れない。その辺りは分かったな?」

 

 まあ仮にペットボトルがあったとしても、それだけの力で成層圏まで到達するのは不可能だ。おまけに大気組成とか気圧の問題もあるわけで、生身でそこまで吹っ飛んでいったら体が危ない。


「この世界にはペットボトルがなかったなんて……。……知ってたなら教えてくれればよかった!」

「教えるって……エリナ話を聞く暇もなく突っ込んでいっただろ。俺にどうやって引き留めろって言うんだ」

「……ぐすん、匠君がいじめる」


 エリナが涙目になった。

 い、いや、いじめてるわけじゃないんだぞ? 俺は最もな正論を言ってるだけだ。


「とにかく、俺としてもいいアイデアがあればそれに乗っかりたいんだが、今のところ決戦に臨むしか方法がない。エリナそのつもりで、コンディションを調整しておいてほしい……」

「……閃いた」


 ……ヤメロ。

 と心の中で思ったが、もしかすると妙案かもしれないので、一応黙って聞いてみる。


「匠君と他の女子が、風魔法を使う。あたしはそれに乗って空をうおおおおっ、って飛ぶ! そのまま魔族のところに到達して奇襲!」

「うおおおおおお、ってそのまま墓場まで突っ込むな」

「さらに閃いた! 気球を作って……」


 俺は、そんなエリナの思い付きを何度も何度も適当にあしらいながら、無駄な時間を過ごしたのだった。



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