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魔法革命の完成

いけない、二日置き投稿になるかも。

 グラウス共和国は東と南を海、北を山脈、西を隣国に囲まれた国である。

 西に位置する隣国の名は、マルクト王国。この国の最東端、すなわち国境近くにはマーリン区という行政区分がある。

 この地には、つぐみによって追放されたグラウス王国の王侯貴族たちが集まっていた。


 一種の亡命だ。だが王族たちと王国の関係は必ずしも良好ではない。

 革命が波及するのを恐れ王族を保護したが、その程度の関係。そもそもグラウス王国とマルクト王国は時には刃を交えたことすらある間柄だ。素直に国を助ける気などないし、新興国である共和国とも今のところ争うつもりはない。


 やっかいな客人、というのが亡命貴族たちの立場だ。


 ここはマーリン区に存在する、とある屋敷群。かつて貴族の子弟たちが住まう別荘として扱われていた場所だ。

 当時貴族が使っていたそこは、今、グラウス王国からの亡命貴族が住まう所となっている。


「ふぅ……」


 王弟フェリクスはこの地に赴いた。タクミから逃げ、魔族にこの近くまで運んでもらい、こうしてやっと戻ってきたのだ。

 

 道を歩いていると、幾人かの貴族たちに声をかけられる。

 

「おお、お戻りになりましたかフェリクス公爵」

「お待ちしておりました」


 皆、友好的だ。

 そもそもフェリクスは王弟として王に最も近い権力を得ている人間。こと貴族たちの間において、その力は絶大である。

 

 並ぶ建物の中で、最も大きい屋敷に入る。

 ここには三人の人物が住んでいる。この地に住まう亡命者の中で、特に重要な三人だ。


 王弟フェリクス。

 国王。

 そして賢者。


「ふぇ、フェリクスよ」


 小柄な、それでいて小太りの男。少しだけ白髪が混ざり、脂ぎった頭髪。近づくと鼻につくチーズの腐ったような臭いに、フェリクスは思わず顔をしかめた。

 国王だ。


「首尾はどうであった?」

「いやはや、予想外に異世界人たちの抵抗が強く、上手くいきませんでした。難しいですな」

「…………無能めが」


 瞬間、フェリクスは国王の腹を蹴った。


「ひ、ひぃ……」

「私は申し上げたはずです。『女と言えど集まれば危険』、と。異世界の女が欲しいなら1人か2人、多くても5人程度にしろと。私の忠告を無視し、17人も女を連れ込む許可を与えたあなたの罪は重いっ! 恥を知れっ!」 


 異世界人召喚は賢者が行う。

 その際には、水晶を覗き込み候補の選定を行い、魔法陣を出現させる。つまり、教室の女子を巻き込んだのは予定調和の展開だったのだ。

 もっとも、同じ教室で勉強をしているなどとは気が付かなかったが。


 もう少し注意深く観察すればいろいろなことに気が付けたかもしれないが、異世界を覗く魔法はかなりの技術と魔力を要する。それほど悠長に眺めてはいられないのだ。


「余だけではない、ウォーレン公爵やサルディニア伯爵も同罪だ! それに10人でも100人でも関係ないわ! お、女ごときに負けるとは、やはりお前は無能よフェリクス!」

「その糞ったれな脳みそでどうかお考えください陛下。下半身だけではままならぬ世の中なのですよ」


 フェリクスは魔剣フルスを掴み取った。力を解放はせず、そのまま国王の頬を張り付ける。


「だ、誰か、余を助けよっ!」


 国王は建物の近くに集まってきた貴族たちへと呼びかけた。

 しかし、誰も動こうとはしない。

 もともと国王を慕っている者などごく少数。そしてフェリクスのように魔法や魔剣が使える者などほんの一握りだ。


 国王は王権奪還の神輿でしかない。わざわざ強いフェリクスと対立してまで助ける義理はないのだ。


「さて陛下、今日はご報告があります」


 フェリクスは剣を収め、温和に笑った。


「レオン公爵です。どうかお見知りおきを」


 フェリクスが手を振ると、扉から一人の男が入ってきた。ガタイの良い大男だった。


「…………」

 

 男は全く喋らない。無言のまま、国王のことをじっと見つめている。


「なんだこの貴族は? 余は顔をしらぬぞ? 田舎の成り上がり貴族か」

「…………」

「おい、貴様。国王の前であるぞ。礼儀も知らぬのか? まずは頭だ。その頭を余より下に――」


 瞬間、男は吠えた。

 『吠える』という言葉が今の衝撃を最も端的にあらわしているだろう。その声は空気を震わし、まるで突風のように国王を吹き飛ばしてしまった。


「王は貴様ではないのかフェリクスよ? 我は思い違いをしておったぞ」

「はっはっはっ、御冗談を。私が王であったなら、王国がなくなるなどいう失態は存在しなかったでしょう」


 柱に激突した国王は、その体をゆっくりと起こした。

 目の前の公爵を名乗る来訪者を見る。


「……?」


 国王は目をこすった。

 彼の、レオンと名乗る男の姿が……変化しているのだ。


 黄金の牙。

 黄金の瞳。

 黄金の髪。


 国王はその姿を見て体を震わせた。 


「そ、その姿。おお前は……まさか」

「…………」


「魔王、獅子帝レオンハルトっ!」


 魔王、獅子帝レオンハルト。

 レグルス迷宮の地下、もっとも深く最も広い部屋にある玉座に鎮座しているという、最強の魔族。


「いかにも。人間の王よ、我は魔王である。魔王の前であるぞ、礼儀も知らぬのか?」


 国王は大慌てで飛び起き、フェリクスに詰め寄った。


「ふぇ、フェリクス! 魔王がなぜここにいる?」

「同盟を結んだのです、陛下」

「ど、同盟? 魔王は人類の敵であるぞ! フェリクス、貴様本当に正気か?」

「誰が原因だと思っているのですか?」


 フェリクスは国王の胸倉をつかみ上げた。

 

「我々は追い詰められている! もはや手段は選んでいられないのです! 綺麗ごとを仰るなら、そもそも女を奴隷になどすべきではなかった! 陛下は何もかも中途半端なのですっ!」


 勇者一紗が邪魔な魔王。

 異世界人が邪魔な貴族。

 

 両者の利害は、今、この時だけは一致しているのだ。


「フェリクスよ、此度の同盟に深い感謝を……」


 魔王レオンハルトは頭を下げた。彼にとってもこの度人間と手を結ぶのは助かることなのだろう。


「してどうする? 我はまだ何も準備をしておらぬぞ? 適当に人間を殺して欲しいというのであれば、すぐにできるが」

「ご安心ください。すでに策は打っております」


 魔王が皆殺しにした土地を取り戻しても無意味だ。民の心は二度と戻って来ないだろう。


 フェリクスは民に愛されたいと思っているわけではないが、余計な反乱を起こされて煩わしい思いをしたくないとは思っている。賢い人間は敵を作らない。『穏健派』などと呼ばれ、女性たちに優しくしていたのはそのためだ。

 しかしその上下関係すら否定しているわけではない。世界は王族や貴族のような特権階級によって支配されるべきだ。男女差別はその良きツールになる。 


 魔王レオンハルトは優秀だが扱いづらい駒だ。暴走されれば国自体が滅んでしまいかねない。

 今はまだ、動かすべきではない。


「奴等のその手を、血に染めてみせましょう」


 計画はすでに動き出している。

 フェリクスはレオンハルトを連れ、屋敷の奥へと向かって行った。



 ――そして。


 グラウス共和国最高学府、国立魔法科学研究大学にて。


「やった」


 一人の少女が歓声を上げた。

 ブレザーの制服の上に白衣を身に着けた服装。長い黒髪は手入れが行き届いていないため少し癖がついているが、それが彼女の美貌を衰えさせることはない。白衣越しでも分かるプロポーションの良い体系、整った鼻筋、艶のある唇。美人、というのが最も彼女を良く表しているのだろう。

 

 両腕を伸ばし、あくびをかみ殺す彼女。これまでずっと不自然な姿勢で実験を続けてきたから、いろいろなところが凝っていた。


 周囲には何人かの白衣姿の男性がいる。


「理論上は存在するとされているものの、今までその姿を捉えることができなかった光精霊。偏光板の立方体を利用し光精霊を捕らえたあの時は、年甲斐もなく感動で涙がでてしまいましたな」

「光精霊と仲の良い火精霊。そして、光精霊の光子と火精霊の火が反応すると白い炎が出現する。この性質を利用して光精霊の検出を試みたサラマンダー・ツーハイブリッド法。失敗はしてしまいましたが、その発想力にはまったく驚かされました」

「風魔法を利用した風力遠心分離機。炎精霊を押し込んだ内燃機関。その叡智、我々の頭脳を遥かに超えております」

「発想の転換に次ぐ転換。いやはや、マイスター殿は全く素晴らしい」


 マイスターと呼ばれた少女は、次々に白衣の男性たちから喝さいを浴びている。


 彼女の名前は大丸鈴菜。

 匠たちとともにこの世界にやってきた異世界人。女性でも魔法が使えるようになる、精霊誘導型魔法促進ブレスレット――通称〈プロモーター〉の発明者でもある。

 

 多くの技術を発明した彼女は天才中の天才。この大学ではマイスター鈴菜と呼ばれ、その名声をほしいままにしている。ここで彼女を手伝っている男たちは、本来なら大学で講義を行えるほどの頭脳を持つ助教授や教授たちだ。


「誰かつぐみに連絡を! 〈プロモーター〉が完成した」


 この日、魔法革命は完成した。

 その性質上、扱うのが困難とされていた光精霊。数か月に及ぶ長い研究の末、ついにこの精霊を装置に屈服させることができたのだ。


「これですべての女性が光魔法を使える。革命だ! 僕はやった。やったんだっ!」


 鈴菜は笑った。

 研究がはかどることほど、嬉しいことはない。


乃蒼編、操心術編、フェリクス編。

いろいろ考えましたが、内容的には操心術編ではないかと思うので、ここまでを『操心術編』とします。



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[気になる点] 頭足りてない勉強のできる馬鹿って言うのが当てはまるキャラ来たな
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