突然の来訪者
楽しい食事が終わり、各々が仕事場に向かい、夕食を食べてお風呂に入ってそして――
夜になった。
勇者の屋敷、俺の部屋。
主に不釣り合いなほど豪華なその部屋。寝室というにはあまりに広く、小市民な俺にとって若干不安さを煽ってしまうような造りだ。
そして何より特徴的なのは、窓よりの位置に置かれた巨大ベッド。ピンク色の天蓋で覆われたソイツは、クラスの女子全員が入っても問題ないぐらいの広さを誇っている。
「まだ寝ないの?」
「……眠い」
「早くしてほしい、明日も仕事が……」
「ミーナさん、早くぅ~」
ベッドの中で、五人の美少女たちが体をくねらせている。
イヌを模した、着ぐるみ風のパジャマを身に着けた乃蒼。下着姿の鈴菜。薄手のネグリジェを身に着けた璃々、つぐみ。すでに全裸の一紗。
そして、枕を持った雫が俺の部屋にやってきたの……だが。
「な……」
雫は、そのベッドの光景を見て絶句した。
「こ、ここで……寝る?」
驚きのあまり、手に持った枕を落とした。
「お、おおおお、お前はこんなベッドで寝てるのか? クラスの女子五人……しかも一紗まで……」
「…………」
全裸の一紗が、気まずそうに布団の中に潜り込んだ。友人にこんな姿を見られることは、彼女としても恥ずかしかったのかもしれない。
うん、そうだね雫。
君の主張は正しいさ。常識的に考えれば、こんなベッドで美少女数人侍らせてる俺はどうかしてる。
普通に二、三人浮気してるだけならままあること。しかしこの人数は、もはや怪しい宗教団体か何かと疑ってしまうレベルだ。
昔のつぐみや璃々なら『不潔! 変態! 死刑!』とかわめいていたに違いない。一紗や鈴菜も冷たい目でこっちを見たりしそう。乃蒼は俺が何をやっても許してくれそうだが……。
なんだよクラスの女子全員入れるベッドって。作った奴頭おかしいだろ……。
俺はなんだか憂鬱になった。冷静な第三者目線で訴えてくる雫のせいで、常識的な思考を取り戻してしまった。
「羽鳥さん、緊張しなくていいよ。匠君に任せてれば……」
「匠君と一緒に寝れば気持ちいいのにな」
「そうです! ミーナさんはすごいんです!」
などと、乃蒼たちが優しく声をかけてはいるが、緊張した面持ちの雫には通用しない。
誰がどう解説しても、雫にとって難しいことだと思う。
「……き、ききき今日は一人で寝る! 一人で寝るから!」
雫は脱兎のごとく部屋から逃げだした。
…………うーん、やはりこうなったか。
ここで俺が追いかけて部屋の中まで入ったら、それこそ無理やり迫っているように見えなくもない。雫には時間が必要だと思う。今は、そっとしておこう。
「ご主人様の子種が欲しいの!」
「今日はこのウィッグを身に着けて私の相手をしてください!」
つぐみ、璃々が両腕にしがみついてきた。
両腕を塞がれた俺は、そのままの勢いでベッドへと押し倒される。すると近くにいた乃蒼が俺の唇を塞ぎ、一紗が体を絡ませてきた。
「……あたしも、あんたの子供早く欲しいし」
……雫、何とかしてやらないとな。
俺はそんなことを考えながら、女の子たちともみくちゃになった。
目覚めると、朝だった。
昨日はいつもより激しかった気がする。若干の疲労が残っているのは気のせいじゃない。
……俺の体、大丈夫かな。
すでに乃蒼、璃々、つぐみ、鈴菜は部屋の中にいない。乃蒼は屋敷の掃除や朝食の準備、璃々とつぐみは官邸での仕事が控えている。寝坊はできないのだ。
鈴菜がここにいないのは、俺が寝坊したせいだろ。
さてと。いくら待機命令が出ているといっても、ここでぼんやりと時間を貪っているのは時間の無駄だ。
俺はゆっくりと起き上がろうとして、すぐに止まった。
一紗だ。
俺の腕を絡めながら寝ている。
「ZZZZZZZZZZZZZ」
幸せそうに寝息を立てている。よだれがシーツに落ちてて汚い。
「おらー、お前の好きなブロッコリーだぞ。食えー」
そう言って、人差し指を一紗の唇に突っ込む。
「うう……うう、ブロッコリー。……よくも、魔族めー」
勇者一紗は魔族にブロッコリー攻めされているらしい。どんな夢を見てるんだろう?
……むなしい。
俺、何やってんだろ。
「……食堂行こうか」
俺は近くにあった部屋着をまとって、食堂へと向かうことにした。
大浴場にいってすっきりしたい気持ちもあるが、まずは食事が先だ。
と、ドアを開いた俺は……すぐに足を止めた。
「匠君」
ドアの前に乃蒼が立っていた。もうメイド服を着ているところを見ると、朝食の準備でもしていたのかな?
珍しいな、一度出て行ってからこの部屋に戻ってくるなんて。
「朝食ができたのか? それとも何か別の用事?」
「あのね、お客さんが来てるの」
客。
おいおい、どこのどいつか知らないがTPOをわきまえて欲しい。今何時だと思っているんだ。
俺は勇者、要人よ。面会はアポを取ってからにしたまえ。
……なんて嘘嘘。ちょっと調子に乗って偉そうにしてみました。
「やあやあたっくん!」
突然、死角からりんごが現れた。
うおっ、近くまで来てたのか。
うう……なんかりんごと顔を合わせるのが辛い。昨日あんなに乱れて穢れまくっていた俺を、そんな純粋な瞳で見ないで欲しい。
い、いかん、部屋の中には全裸の一紗が。りんごは俺たちのことを知ってはいるが、この状態を見られるのは恥ずかしい。
俺はゆっくりと廊下に出て、ドアを閉めた。
「珍しいな、りんごがこの屋敷に一人でやってくるなんて。雫のとこに遊びにでもきたのか? 部屋に案内しようか」
「……んと、あのね」
「ん?」
なんだ?
何か言いにくいことを言いたそうにしている、ように見える。
「たっくんあのね、私も……この屋敷で暮らしたいの!」
「え……」
俺、まだりんごに何もしてないぞ? 何故俺の屋敷で暮らしたいと?




