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クラスの女子全員+俺だけの異世界召喚  作者: うなぎ
勇者の屋敷編

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132/410

雫の決心

 一紗が俺と雫の関係に気がついた。

 

 このままでは俺も雫も悪人になってしまう。二人で関係を持ちながら、友人であり婚約者である一紗に話をしなかったわけだから。

 

 だから俺は考えた。

 どうすれば自分と、そして雫が救われるか。このままでは俺が浮気者で、雫は親友を裏切った大悪人のような扱い。

 それだけは、それだけはまずい。

 

 考えた結果、答えは――


「みんな、見ての通りだ。今日からその、雫も……俺と付き合うことになった」


 夜、勇者の屋敷にて。

 一紗と合流した俺たちは、町を兵士たちに任せて首都へと戻ることにした。

 戻るころには深夜になってしまった。乃蒼やつぐみたちは俺のことを心配して起きていたが、魔族に関する詳細な報告は明日ということになった。

 そして最大の案件、雫と俺の関係についての回答がこれ。屋敷の前でかがり火をたいて待っていた婚約者たちに、俺は雫の事を紹介した。


 雫は、俺との関係がばれて一緒に暮らすことに抵抗を示していた。

 だが一紗との件で俺たちの関係を隠すことは難しい。乃蒼だけに話をするつもりだったが、もうばれてしまったのだから堂々と話すつもりだったことにしよう。


 すまない雫。

 しかしこのままでは、俺もお前も重罪人。後から話すつもりだったということにすれば、問題なく話が進むんだ。

 あまり大きな声では言えないが、乃蒼以外の全員が後から来たわけで……。今の雫と同じように、後から話をした経緯がある。

 つまりこれがもっとも自然な流れ。魔族に襲われて大ピンチだった俺と雫は、自然と距離が縮まって仲良くなりましたと。みんなにも帰ったら報告するつもりでしたと。

 これで完璧。


 俺の考えを全く察していないであろう乃蒼が、両手を叩いて雫を歓迎した。


「羽鳥さんの部屋も用意しますね」

「あ、待ってくれ乃蒼」

「…………」


 乃蒼が不思議そうに首を傾げた。

 うん、うんうん。いつもの流れだと確かにそうなるよな。だがちょっと待って欲しい。雫はそれではまずいのだ。


「……いや、その、無理にみんなで一緒に暮らす必要はないんじゃないかなって」

「匠君?」

「この屋敷は広いけどさ、もう五人も暮らしてるわけだし。雫はさ、この家来なくてもいいんじゃないかなって」

「え……」


 女の子たちが騒ぎ始めた。


 ままままずい、なんか変な空気になったぞ。俺が雫を特別扱いしたから、変に思われてしまったのか?

 よくよく考えたら、俺はどうするんだ? 週に一回雫の家に通ったりするのか? 


 それは、一人だけ家に呼ばれなかった少女への憐憫か、はたまた特別扱いに対する嫉妬か。俺や雫に会話の内容は聞こえない。

 俺はみんなを信じてるから、決して悪口を言ってるわけではないとは思うんだが……これは。


「匠君! 羽鳥さんがかわいそうだよ!」

 

 乃蒼が、珍しく頬を膨らませながら俺に詰め寄ってきた。


「君は彼女の気持ちを考えたことがあるのかい?」

「まったくだ。匠のことを考えながら、一人で夜を過ごすなんて……。私には耐えられない……」

「サイテーです!」


 などと、一紗を除いた四人から罵られた。


 あれ? なんか俺が雫を遠ざけた風になってる? 気を使って俺から言ったつもりだったんだけど、矛先がこちらに向くとは思っていなかった。


 唯一事情を察している……と信じたい一紗は、独り言をブツブツと呟きながら全く介入してくる気配がない。悩んでる、的な?

 おい一紗! フォローしてくれ! このままでは俺が悪人だぞ! 


「……待って」


 詰め寄る婚約者たちと困惑する俺。そんな様子をずっと見ていた銀髪ツインテール少女――雫が、小さな声でそう呟いた。


「……私も、匠と一緒に暮らしたい」

「…………」


 雫ううううううう! 俺を裏切ったなああああああ。お前が言い出したんだろおおおおおおお……。


 なんて文句を後で言ってやろうかと思ったが、雫の顔を見てすぐにその気持ちは消失した。

 若干引きつった顔に、体をプルプル震わせている。


 ……いかん。こいつ絶対無理してるわ。


 雫がこの場を鎮める方法は二つ、『私も一緒に暮らしたい』と言うか、『一緒に暮らしたくない』と言うかこの二択。

 でもよく考えたら、『お前らと一緒に暮らしたくない』なんて、あまり気分のいい言い方じゃないよな。

 つまり、雫には初めから選択肢なんてなかったのだ。

 

 うーん、話だけして一緒に暮らさないスタイルは、無理な話だったのだ。一紗に事が露見した時点で、すべてを察するべきだった。


「羽鳥さんの部屋を用意しますね!」


 深夜なのに、乃蒼は飛ぶように屋敷の中へと戻っていった。鈴菜、つぐみ、璃々は眠かったようで、屋敷の中に戻っていく。


「すまんな雫、結局こんな話になってしまって」

「ホントよ雫。あんた大丈夫なの?」 

「……くくく」

「いやほんと大丈夫か?」

「大丈夫だ。慣れない人との集団生活ぐらいちゃんとできる。中学の修学旅行だって何も問題は起きなかった。くくく、お前は私を馬鹿にしすぎだ愚か者!」

「…………」


 それ、りんごにフォローとかしてもらったんじゃないか? なんて心の中で思いながらも、俺は突っ込む気になれなかった。


 そういえば雫に、あのクラスの女子全員入れるぐらいでっかいベッドの話してないな。夜のこととか……。

 やべぇ、雫のこと考えると俺まで気が重くなってきた。


 結局その日、雫は新しい部屋で、俺は自分のベッドで他の五人と一緒に寝た。

 諸々の話は、明日することにしよう。


ここからが『勇者の屋敷編』になります。

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