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クラスの女子全員+俺だけの異世界召喚  作者: うなぎ
大侵攻編

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白と光の一族

 魔族、暗澹のギートと名乗る敵に追い詰められた俺。

 〈黒煙シュバルツラオホ〉は霧のような黒いものを発生させる奴の純魔法らしい。俺の聖剣、魔法攻撃は完全に吸収され、なかったことにされてしまう。

 闇はすべてを阻む。魔法や聖剣をはねのけたこの力が、生身の肉体に当たればどんな影響を与えるか火を見るより明らかだ。

 無事では済まない。おそらく……俺は死んでしまうだろう。


 ……雫。

 ちゃんと逃げてくれただろうか?

 不甲斐ない俺のミスで、一紗たちと離れ離れになってしまった。願わくば罪のない彼女だけは無事でいるよう、俺は神に祈った。


 いつの間にか、闇は俺との距離をさらに縮めていた。もはや前後左右、三歩歩けばそこは黒い霧。


「くそっ!」


 この間、ずっと攻撃を繰り返してきたが全く突破口は見つからない。俺にできることと言えば、悪態をつきながら無意味な攻撃を繰り返すことだけ。


 俺は死を覚悟した。

 俺がいなくなっても、屋敷にいる女の子たちは大丈夫だろうか? 特に乃蒼が心配でならない。もともと自活能力が低かったうえ、御影のせいであんな事件が起こってしまった直後だ。その上で俺がいなくなったら、その悲しみは海よりも深いものになるかもしれない。

 

 そうなると雫も心配になってきた。俺を見捨てて逃げた、なんて言われたりしないだろうか? いや、俺の屋敷にいる子たちはそんなに性格が悪くはない。そんなことは知っている。そう信じたいが……、大切な人間の死は時として冷静な判断を失わせる。


 ああ……やはり俺は死んでは駄目だ。


 そんなことを思いながらも、でもやはりこのどうしようもない現実に、絶望を覚えていた……その時。


 俺は、隣に立つその子に気がついた。


 〈白き刃の聖女〉。


 と、俺が呼んでいるこの白い着物を着た少女。かつて祭司ミゲルに追い詰められた時、俺に新技を授けて助けてくれた謎の女の子だ。

 生きてはいない。おそらくは聖剣の精霊的な存在なんだと思う。


〝これを、あなたに……〟


 そう言って彼女が俺に渡したのは、一本の剣だった。

 それは俺がもともと持っていた聖剣ヴァイスよりも一回り小さい、形状はショートソードといったところだろうか。


〝――闇を切り裂く聖剣リヒト。私の眷属、『白と光の一族』の聖剣〟


 剣から、剣が生まれた?

 少女の持つ聖剣リヒトを握ると、力がみなぎってくるのを感じる。この場を打開する、それ相応の力をもった剣であることは疑いない。

 

 もはや一刻の猶予もない。闇はこうしている間にも俺の近くまで迫っており、このままでは押しつぶされてしまう。

 力を示せ、聖剣。


「――解放リリース、聖剣リヒト」


 瞬間、世界が光に包まれた。


 聖剣リヒトは光の剣。ヴァイスが白い刃で攻撃をするように、この剣は光の技を扱うことができるのかもしれない。

 頭の中に、文字が浮かび上がってくる。聖剣を扱うものが感じることのできる、必殺技だ。


「――〈光刃〉」


 俺は聖剣リヒトを振るった。

 その小ぶりな剣からは想像もできないような強烈な光の刃が生まれ、魔族ギートの放った闇の霧を貫いた。

 出現した闇の穴を、俺は決死の力で走り抜けた。背後の闇は握りこぶし程度の大きさまで収束し、やがて完全に消失してしまった。

 あれに巻き込まれていたら、体がつぶれて死んでいたかもしれない。


 いつの間にか、〈白き刃の聖女〉は消えていた。彼女はこの聖剣ヴァイスに宿った存在……であるとは思うけど、まともに会話をしたことないから分からない。せめて意思疎通ができれば、戦いをもっと有利に進められると思うのだが……。


 雫は……、洞窟の入り口にいるな。

 あのバカ、逃げなかったのか? いや、俺のせいで余計な緊張と混乱をさせてしまったのかもしれない……。


「…………」


 魔族ギートは俺のことを見たまま動かない。あまり表情が豊かな魔族ではないと思っていたが、無言のその様子は怒っているようにも喜んでいるようにも見える。

 ともあれ、窮地は脱した。


 闇と光。単純にゲームっぽく考えるなら、属性の優劣が存在するのかもしれない。聖剣が奴の闇を破れたのはそのせいか?


 魔族ギートは再び黒い外套を広げた。俺に攻撃を加えるつもりらしい。

 この聖剣があればあれは防げるかもしれない。しかし忘れてはならないが、他の魔族たちもあいつの後ろには控えている。あまり連携して攻撃してくるようには見えないが、どちらにしても人間である俺たちの敵であるということには変わりない。


 戦況が変われば、必ず介入している。

 ここは……。


「雫っ! 逃げるぞ!」


 俺は固まった雫の手を取り、駆け出した。彼女は混乱しているのか無言のままではあるが、とりあえず俺の手を握り一緒に走ってはくれる。

 

 村人は心配だ。一紗だって心配だ。でもそのために俺……そして雫が死んでしまっては本末転倒だ。俺たちは、まず第一に生きて帰らなければならない。


 転移門を潜って迷宮へ戻ろうかとも考えた。しかしこの様子なら、他のどの転移門も似たような状況だと思う。出口を変えても無駄だ。結局は魔族たちに見つかって、戦う羽目になる。

 それならば、比較的森の木で見通しの悪いこの出口を選んだ方が……逃げれる確率が上がるはず。


 俺たちは、森の奥へと駆けて行った。

 まずは、木の中に隠れながら一紗たちがいるはずの村まで行こう。

 すべては、そこからだ。


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