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クラスの女子全員+俺だけの異世界召喚  作者: うなぎ
大侵攻編

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123/410

迷宮の出口

 レグルス迷宮、中層にて。

 羽鳥雫は歩いていた。


 目の前には下条匠。聖剣を持ち前衛として戦える彼であるから、この配置が一番自然になる。

 雫は上着を脱いだ匠の後ろ姿を見ながら、悶々としていた。


(う……うう……)

 

 下着姿を、匠に見られた。

 普段強気な口調で彼と会話をしている雫にとって、その事実は到底許せるものではない。頭を叩いてその記憶を忘れさせることができるなら、死ぬまで彼を殴り倒しているだろう。

 だが、そんなことをして記憶がなくなるはずもなく。というかそもそも、匠は先ほどの出来事を気にしている様子すらない。


(……ノーリアクション)


 雫は知ってる。

 匠は勇者の屋敷と呼ばれる自らの家に、クラスの女子を連れ込んでハーレムを形成している。つい数週間前一紗を含めて女子たちが戦地に赴いたのも、嫁である彼女たちが狙われていることが大きく関係していた。

 一緒の屋敷、一緒の寝室、一緒の生活。健全な体を持つ男子と女子であれば、何が起こっているかは想像に難くない。それこそキスや抱擁では済まされないそれ以上のことも、経験済みであることだろう。

 雫の友人、一紗は誰がどう見ても美少女だ。テレビに映るどんなアイドルよりもかわいいと思う。それほどではないにしても、同じように屋敷に住んでいる女子たちはいずれも整った顔立ちをしている。


 雫は自分の容姿についてよく分からない。りんごや一紗は『かわいい』と褒めてくれるが、小さくて色気のないこの体を異性が喜んでくれるとはどうしても思えなかった。強い口調とは裏腹に、心の中では自信がなかった。

 現に匠は、今も何も反応してくれない。下着姿になったのが一紗だったら、きっと目を離せなかっただろう。


 島原乃蒼が匠と一緒に暮らしていることは知っている。彼女は雫より幼い体つきをしているから、ひょっとすると匠は手を出していないのかもしれない。同情や哀れみで、養っている可能性がある。


(なんで匠は、私を……)


 雫は匠の上着に包まれた自分の胸に両手を当てた。あるべきものがそこにない。揉んでみると柔らかいような気がしなくもないが、お腹や手のひらの感触と大して変わらない。身長だって匠を少し見上げなければならないほどに低い。そしてこの年では、もはやこれ以上の成長を望むのは厳しいだろう。

 これでは自分は、匠に――


(今日の私はどうかしている)


 雫は悩まし気に頭を抱えた。

 

 匠のことを普段から馬鹿だとかクズだとか罵っている雫であるが、心の中では彼が悪者でないことをよく理解している。助けられたあの時、否、それよりもっと前から彼のことが気になっていた。

 雫は人見知りではないが、人付き合いが良い方ではない。友人は一紗、りんご、小鳥……そして匠を除いて皆無だ。自分と唯一接点を持つ異性。いろいろと、人に言いにくいことを考えたこともある。


 雫がスライムに服を溶かされて以降、迷宮脱出は順調そのものだ。魔族とは全く出会わず、時々野良魔物や罠っぽいものに遭遇する程度。それさえも注意していればなんてことはない。

 そしておそらく、もうすぐ外に出ることができるだろう。迷宮の通路が明らかに変わってきている。そして、気のせいかもしれないが、どこかで見たことあるような通路ですらあると感じていた。


 そう、終わってしまうのだ。

 匠と雫、二人だけの迷宮が。


 それを理解した瞬間、雫は胸が苦しくなるのを感じた。


(匠……)


 雫は、無意識のうちに彼から借りた服の袖を顔に近づけていた。

 匠の匂いがする。

 この匂いを嗅ぐと、彼に抱かれているかのような高揚感を覚えた。本人の前では絶対に言えないことだが、それはどんな時間よりも心地よいと思えた。


(……優しい、よな)


 匠は多くの人を救った。迷宮でも雫の心配をしていたことが多い。

 少なくとも、遊びでハーレムをやっているわけではない。一紗も、そして他の女子たちも望んであの場にいるのだろう。


(私は……)


 ハーレム。

 自分がその一員になる姿を妄想し、雫は頬を赤めた。



 ******


 俺たちの迷宮脱出は滞りなく進んでいる。

 この整備されていない通路は明らか上層。この辺りは見覚えがある。


「ここだな」


 俺、そしてその後ろにいる雫が立ち止まった。

 転移門だ。


「ここがたぶん、入ってきた転移門だ。雫、地上に戻れるぞ」


 俺は雫にそう声をかけたが、とうの彼女はまるで考え事でもしているかのようにぼんやりとしていた。


「……雫? どうした、大丈夫か?」

「……な、なんでもない!」

 

 顔を赤らめて否定する雫。

 やはり服を溶かされたのがショックだったのだろうか。早くどこかの町に行って、新しい服を買ってやらないなと。

 俺の汗臭い服、気になってるみたいだし。


 俺は雫の手を握った。


「行くぞ」

「あっ!」


 俺は戸惑う雫を連れて、転移門に近づいた。

 ドアのような形で、中に青い膜が張ってあるこの構造物。こいつの中を潜り抜ければ、外に出ることができる。

 俺はそいつに潜ろうとして……気がついた。


「これは……」


 転移門に張り付けてあったのは、手紙だった。

 一紗より、と書かれている。一紗の置手紙だ。


 ――先に地上へ戻るわ。

 ――東の村で待ってるから、この手紙を見たらすぐに来ること。


 という内容だった。

 東の村、というのは俺の記憶にも存在する。この転移門にたどり着く直前、通りかかった小さな村だ。

 

「一紗たちは無事に地上へ出たみたいだな」


 心につかえていた不安が、一気に霧散した。

 

「……良かった」

「俺たちのことを心配してるかもしれない。早く戻って安心させてやろう。それに……」

 

 魔族たちの件もある。


 期待半分、緊張半分。

 俺たちは転移門を潜って外に出た。


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