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クラスの女子全員+俺だけの異世界召喚  作者: うなぎ
大侵攻編

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118/410

大侵攻、前触れ


 結晶宮殿、中央ホールにて。

 

 中央ホールは巨大なスペースを持つ広場だ。いくつもの細かい鉱床がさながら芝生のように床を覆い、色さえ付ければ地上にいると錯覚してしまうかもしれない。


 第八階層迷宮伯爵、万壊のブリューニングは広場の隅に腰掛けていた。主である刀神ゼオンの命に従い、ここにやってきたのだ。

 どうやら呼ばれたのは自分だけではないらしい。顔見知りもそうでもない者も含めて、かなりの魔族たちがこの地に集まっている。


「なんだ、今日の集まりは?」

「しらねぇぞ、例の『黒き災厄』か?」

「魔王陛下はいずこへ? 最近、姿を見ないが……」


 爵位を持つ魔族は知性が高く、そして実力もけた違い。配下の統率もあるため、そう簡単に持ち場を離れるわけにはいかない。

 だからこそブリューニングは不思議だった。今ここに集まっている者の多くが爵位持ち。話が分かり、そしてある程度配下を引き連れている……責任ある者たちなのだ。


「……静まれ」


 しん、と静まるホール。

 ここにいる知能ある魔族たち全員が、逆らうことのできない強者の命令だからだ。

 彼らは魔王ではなく、主不在の宮殿を統べる魔族三巨頭。

 

 刀神ゼオン。

 大妖狐マリエル。

 悪魔王イグナート。


「――時は来た」


 ゼオンの冷たい声を受け、場の緊張が一気に高まった。

 何か途方もない事態が始まろうとしている。誰もが、そう思ったのだ。


 続いて、イグナートが前に出た。


「すべての魔族に、魔王陛下よりの勅令を下す。大戦じゃ! 本日をもって、すべての魔族は迷宮から一匹残らず外へ出よ!」

「戦い、そして死に果てろ。すべては、魔王陛下のため」

「魔王陛下に栄光あれ」


 皆が、息を止めるのを感じた。


 大戦。

 死に果てる。

 勅令。

 

 今まで聞いたことのないような、強い言葉だ。これほど明確に人類へ宣戦布告するのは、おそらく初めてのことだろう。


「……お」


 一人の魔族が、肩を震わせながら口を開いた。


「おおおおおおおおおおっ!」


 雄たけびだ。

 一人、二人、と立て続けに声が上がっていく。

 幾重にも連なる声が、まるで洪水のように空気を震わせた。

 

 喝采が響くその傍らで、ブリューニングは青い顔をしていた。


「おいおいおい……本気かよ。大戦だなんて、今まで聞いたことがないぞ」


 ブリューニングは幾多の魔族たちの例にもれず好戦的な性格である。戦いは嬉しいし、そのためなら決して臆病になることはない。 

 だが、今回の戦いは何かが違う。

 死ぬまで、という命令など初めてだ。


 自分たちは迷宮で生まれ、迷宮で過ごしてきた。迷宮宰相亡きあとは若干物資搬入が滞ったが、その仕事もすでに何人かの上級魔族たちに引き継がれた。もはや何も問題なく生活しているといっても過言ではない。

 それを、外に出て過ごせと言うのは……あまりいい気分にはならない。


「……人間」


 あの日、迷宮宰相ゲオルクを倒した人間の事を思い出す。正義感溢れ、好感を持つことができた彼と戦わなければならないのだろうか……?


「柄じゃないな……」


 ブリューニングは己が迷いを断ち切った。手元の巨大な斧をスクリューのように振り回し、周囲の魔族たちと同じように雄たけびを上げる。


 大戦が、始まる。

 この日、魔物たちは順番に地上へと侵攻を開始した。




 ********


 大統領官邸にて。

 俺はつぐみに呼ばれて大統領官邸にやってきていた。

 そばにはりんご、雫、そして一紗がいる。要するに迷宮へといつも向かう勇者メンバーが呼ばれたのだ。


「少し、話をしたいことがある」


 椅子に腰かけながらこちらを見るつぐみは、いつになく真剣な表情をしているように見える。

 俺や一紗に簡単な話をするなら、家ですればいいだけだ。わざわざりんごたちを集めてここで話をするということは……重要な内容なんだろうな。


「魔族の活動が活性化している、という報告がある」

「活性化? 迷宮の外に出てきてるってことか?」

「そうだ。……何かの勘違いであれば良いが」


 珍しいな。

 迷宮から魔族が這い出して来ることはかなりまれだ。奴らは地下迷宮にこもってあまり出てこないし、だからこそこの世界の人類が生きているといっても過言ではない。

 俺たちはそのめったに起きない事態を想定し、時々魔族たちと戦っているわけだが……。


「俺たち、この前迷宮行ったけど特に何も感じなかったぞ?」


 俺は子供を亡くし、乃蒼は悲しみに暮れている。しかしだからといって役割を放棄するわけにもいかず、少しずつではあるが、迷宮に向かうようになっていた。


「雫もそう思うよな?」

「…………」


 ……うっ。

 そういえば、最近まともに会話してなかったな。最近俺の身に起こったこと、どの程度知っているんだろうか? 


 雫は無言のまま、こくり、と頷いた。俺と同じことを考えていたらしい。

 短期間であるがあそこに向かった者の感想としては、それほど変化がないように思えるのだが……。


「近くの他の都市からは、そのような報告を受けている。さすがに他国の分までは分からないが……」

「きっと、あたしたちの使ってるとこが悪いのよ」


 そう、一紗が言った。


「入口、転移門のことか?」

「あそこ、超遠くない? 魔族も弱い奴ばっかで、絶対誰も使ってないのよ」

「……確かに」


 俺たちがいつも使ってる転移門、もしかすると魔族たちにとって使い勝手が悪いのかもしれないな。一紗助けに行くときもやたら遠かったし。


「じゃあ今度は別の転移門から向かってみるか? そうすれば違いが分かると思うけど……」

「少し離れた位置になるが、国境近くにもう一つ転移門が存在する。地図はこちらで用意しておこう」

「わかった」

「危ないと思ったら戻ってきてくれ。もし本当に魔族たちが大挙して押し寄せてきているのであれば……大事件だ」


 大げさだな。

 俺も一紗も魔族の本拠地まで突撃したことがあるんだぞ。並みの敵ならどうにかなる……はず。


 俺たちはいつもと違う場所から迷宮へと向かうことになった。


ここからは大侵攻編になります。

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