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クラスの女子全員+俺だけの異世界召喚  作者: うなぎ
不幸を呼ぶ四人編

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102/410

混乱する俺たち

 グラウス共和国大統領つぐみは、軍を編成した。マルクト王国マーリン地区に攻め込み、元貴族たちを完全に屈服させるためだ。


 その数は1000人。


 もちろんその気になれば十万規模の兵士を集めることは可能だった。しかし大軍を他国に集結させ、合意の上とは言え攻め込むことは余計な緊張を生む。春樹やつぐみはもっと兵士を集めたかったようだが、咲がそれを許さなかったのだ。

 そのあたりの政治・国際的なやり取りはよく知らない。ただ、隣の国が十万人の兵士を近くの島に集結させたら、俺だってちょっと怖いと思う。その辺の理解はあるつもりだ。


 そんなわけで、俺はこの1000人と一緒にマーリン地区へと向かう。

 春樹と優、つぐみはもちろんのこと、乃蒼、鈴菜、璃々、一紗も一緒にだ。フェリクス公爵に俺のハーレムだと告げられた彼女たち。御影に狙われてしまう可能性があるからだ。 


 1000人と一緒に行軍。

 戦略シミュレーションゲームとかで軍が1000人なんて、どちらかといえば少なく感じてしまうが、実際こうして目の当たりにすると圧巻だ。


 軍は街道沿いに進み、すでにマルクト王国の領地へと入っている。

 明日には、貴族居住区へ攻め込めるだろう。


 夜。


 マルクト王国マーリン地区近郊、とある村。

 俺たちはそこで休んでいた。

 田舎の村だ。1000人全員が泊まることは不可能だし、仮にそうなれば村人すべてを追い出してしまうことになる。普通の兵士たちは近くの広場で野営、俺やつぐみたちは村の空き家を借りて寝ることとなった。


 なんだか俺たちだけ特別な扱いを受けて、悪い気がする。しかし狙われている俺や大統領であるつぐみが危険な場所で過ごすわけにもいかず、これが要人警護の観点からももっとも適当だと判断されたらしい。


 というわけで、俺はこの建物で過ごしている。

 観光地のコテージみたいな建物のベランダで、俺は星を見ていた。

 

 明日、戦争が始まる。

 御影のスキルはどんなものなのだろうか? 向こうはさすがに、もう俺たちのことに感づいているか? そうでないと信じたいが……そこは賭けるしかないな。

 

「よっ」


 後ろから、声をかけられた。


 優だ。

 話をする機会はあった。そうしなければならないと思っていた。ただ、目先の忙しさに囚われ、ひたすら声をかけるのを先延ばしにしていた。

 悪いことだとは思う。でも、一体どうやって声をかければいいんだよ、俺。


「食うか?」

 

 そう言って、優は干し柿のようなドライフルーツを俺に差し出してきた。村の人からもらったんだろうか?

 俺はそいつを齧った。甘いような渋いような、変な味がする。


「……匠、覚えてるかブルスト。俺SSRのゼウス引いちまったよ。うらやましいだろ?」

「え、すげーなそれ。お前それ強運過ぎだろ。世界が狙えるヤバさだわ」


 〈ブルーストーリープロジェクト〉と呼ばれるそのスマホゲームは、俺が元の世界にいた頃によく遊んでいたゲームだ。ブルスト、と俺たち、というか世間では省略して呼んでいる。


「いくらかかったん? バイトの金突っ込んだり?」

「五周年記念で、無料ガチャ100連引けてさ。そのおかげだな。匠ももう少しいれば、あのガチャ引けたのにな」

「えっ、マジで? お前それずるくない? 俺の分は?」

「お前のスマホなんて知らないから俺」

「はああああああ? ちょ、待ってそれおかしい。っていうか五周年ってまだ早くない?」

「……それなんだが匠。春樹が赤岩さんと話してて気が付いたらしいんだけど、どうも、時間の流れが違うみたいでさ。お前らこっちに来て過ごした時間と、俺らが向うの世界で過ごした時間が合わないんだ」

「えっ?」


 そ、そうだったのか?

 いやでも加藤は……。と、思ったけど加藤とはそれほど話もしてなかったか。


「……ま、その話はいいよな。俺、お前と話さなきゃいけないことがあるし」


 その時、優は真面目な表情で俺を見据えた。正直時間差の件はいろいろ聞きたかったけど、そんなことも言ってられないぐらいだ。


「お前さ、クラスの五人と付き合ってるって聞いたんだけど、ホントか?」


 きた。

 ここからが、本題だ。


「魔剣の影響で暴走してるとかじゃなくて? 例のヒゲ公爵がそんなこと言ってたけど、春樹は嘘だって」

「こんなこと言っても信じられないかもしれないけど、合意の上だ。魔剣なんて関係ない。乃蒼も、鈴菜も、つぐみも、璃々も、…………一紗も」

「すげーな」

「止めろよ」


 冷静に自分を見つめなおしてみると、異常だ。とても胸を張れる状況じゃない。


 優は手すりに腰掛けると、最初の俺と同じように夜の星を眺め始めた。

 

「一紗からさ、話聞いた」


 声は、落ち着いていた。

 一紗の話題は、優にとってデリケートな話題だ。口にすることだって、かなり神経を使っているはずなのに。


「アイツさ、必死にお前の事庇うの。愛してるとか寂しかったとか、もうさ……いや、なんでもないんだ、何でもないんだ。ただ、これだけは伝わった」


 ため息を漏らしなら、優は言った。


「……ああ、一紗の中には俺がいないんだって」


 優……。

 形だけ見れば、俺が彼女を寝取ったことになる。それは許されざる悪行だ。どれだけ謝っても、どれだけ罵られても罪は贖えない。


「俺たち、お前が死んだって思っててさ。それで許されるわけじゃないのは知ってる、俺を罵ってくれてもいい。けど……一紗は……」

「まあ、俺、しばらく元の世界に戻れないし、お前だっていろいろ忙しいよな?」

「…………」

「……正直さ、今、ちょっと混乱中でさ。あんまり、『一紗は渡さねー!』とか、『一紗を頼む』とか、はっきりしたこと言えないんだ。お前だって、今、御影の件とかでいろいろ忙しいだろうし」


 一紗を頼む、なんてご都合主義の台詞を吐いてくれるのは偽物だけだ。優は一紗を愛していた。その想いは、そう簡単に断ち切れない。


「……いいさ、俺だって御影の件で混乱してる。気の利いた言葉も思いつかないしな」

「……だな。お互い、目の前の仕事を片付けてからだ」


 そう言って、優は立ち去っていった。


 何も解決しなかった。

 でも、この件は根が深い。今この状況で、変にこじれてしまっては御影との戦いに暗い影を落としてしまう可能性すらある。


 明日、俺たちは決戦を迎える。


 御影のスキル。

 フェリクス公爵。

 魔族。

 

 謎も不安も緊張も多い。おそらく明日、世界が動くだろう。

 俺は勇者で、乃蒼や一紗たちの婚約者だ。守るべき者は守るし、そのためなら命だって惜しくない。

 俺は守る。

 俺の築いてきたすべてを、かけがえのない人たちを守る、そのために。


気が付けば100話超えてた。

前作は100話あたりでちょうど真ん中ぐらいだったが、今作は前半の終わりぐらいという(予定)。

まだまただ頑張るのです。

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