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チートな俺がクラスの女子を守るんだ……って思ってました

 

 いつもの学園、いつもの授業。

 俺、下条匠しもじょう たくみは教室にいた。今は休憩時間で、もうすぐ生物の授業が始まる。

 この教室には俺とクラスの女子しかいない。

 他の男子はみんな物理を選択したため、俺一人だけ教室を移動せずここに残っていた。


「匠ぃー、教科書貸して教科書」


 そう言って俺の肩に抱きついてきたのは、幼馴染の長部一紗ながべ かずさ。金髪を赤色のリボンで留めたツーサイドアップ。体の発育がいいらしく、先ほどから俺の背中にたわわなメロンが当たっている。

 彼女のリボンが俺の頬を撫でる。


 こいつが馴れ馴れしい時は、大抵気持ちよくない用事を持ってくる時だ。

 俺は警戒感を強めた。


「俺も同じ授業受けてんのに、教科書渡せるわけがないだろ。『見せて』とか言って隣に座るとこじゃないのかそこは」

「いいじゃない、あんた授業なんて聞いてないでしょ? 教科書が泣いてるわよ? 『助けて一紗』ってあたしに言ってるわ」

「俺には別の声が聞こえるね。『あの女の人、怖い』ってさ。おーよしよし教科書ちゃん。手放したりしないから泣くのをお止めなさい」

「キモ、コイツ教科書から声が聞こえるって。病院行った方がいいんじゃない?」

「……お前が言い始めたんだろ」


 一紗は不機嫌そうに眉を吊り上げなら立ち去った。たぶん、鈴菜あたりから教科書借りるんだろうなきっと。


 さてと、無事教科書を確保したから授業の準備を始めよう。

 俺はノートを開き、シャーペンと消しゴムを……。

 おっと、消しゴム落としてしまった。


 コロコロとどっかのおむすびのように転がっていった消しゴムは、隣の席に座る女子の足元で止まる。


「……あ」


 島原乃蒼しまはら のあ

 背は一紗よりもずっと低く、小学生と間違えてしまうかのような容姿。黒い髪は腰辺りまで伸びるロングヘア。


 島原さんは消しゴムを拾い上げ、蚊の鳴くような小さな声でこう囁いた。

 

「消し……ゴム、落ちたよ」


 島原さんは俺の机にそっと消しゴムを置くと、すぐにその手を引っ込めた。顔を真っ赤に染めて、目を瞑って視界をシャットアウトしている。


「サンキューな、島原さん」

「……(こくり)」


 島原乃蒼は触れ合わない。

 恥ずかしがり屋、人見知り、言い方はいろいろあるがそんな感じだ。


 でも、島原さんは優しい。物を落とせば拾ってくれるし、教師に当てられたらこっそりとフォローを入れてくれる。

 俺たちの机は離れている。でも、互いを気遣う心が繋がっている。


 この距離感が、心地よかった。


 なんてことを考えていたら、またしても消しゴムを落としてしまった。恥ずかしい。これでは俺がドジっ子か何かみたいじゃないか。

 今度は俺の足元に着地したため、取り戻そうと手を伸ばした――


 瞬間、床が発光した。


「……なっ!」


 これは、魔法陣?

 

 見慣れた教室だったはずの場所は、一瞬にして様変わりした。

 幻? 夢? いやまさか――


 転移したのか? 


「ここ……は?」


 なんだここは? 

 例えるなら、RPG系ゲームによくある玉座の間みたいな場所だ。白い大理石でできた部屋に赤いじゅうたん。足元には先ほどの魔法陣があり、周囲には時代錯誤の貴族っぽい服を着た多くの人々が集まっている。

 

「おお……成功したのか?」


 なんだか杖を持った賢者っぽい男がそんなことをつぶやいた。そして彼は俺に近づくと、頭を下げてこう言った。


「助けてください、勇者様。魔王に滅ぼされようとしているこの世界を救うことができるのは、あなた様だけなのです」

「お、俺ですか?」


 これはあれか。異世界から勇者召喚します系ファンタジーか。

 

 賢者が杖を振ると、空中に四角い画面のようなものが現れた。

 読めた! この人は今俺のステータスを調べてる!


「な、なんということだ。魔法全属性が最高レベルのSランクっ! 我が国最高の魔術師、否、この世界のどの人間にも勝る適性ではないかっ!」

「……こちらをどうぞ」


 次に将軍っぽい人が俺に剣を渡してきた。なんだかキラキラ輝いてる白い剣と黒くて禍々しい剣の二つだ。


「おお……おおおお……。信じられないぞこのお方。聖剣、魔剣に二つとも適性を持つなど聞いたことがないっ! 異世界人は適性に補正がかかる、とは聞いたことがあるが……まさかここまでとは」

「加えて、やはり異世界人の男であるから、固有スキルも持っているな……。素晴らしい、このお方なら魔王を倒すことも可能」


 ふっ、テンプレかよ。

 どうやら俺はこの世界においてチートで無双な存在らしい。なんか俺つえええええええしながら魔族とか悪い人間ボコボコにするとこまで展開が読めた。

 テンション上がってきたぜ! 勇者やってやろうじゃないか!


「あ、あの……」


 おずおずと手を上げたのは、一紗だった。


「あたしたちは?」


 そう。

 一緒に召喚されたはずなのに、これまでずっと女子たちは無視され続けてる。俺は自分が褒められすぎてすっかり忘れてしまっていたが、ちょっと不自然ではないだろうか?


 俺とずっと話をしていた賢者っぽい男は、今初めて彼女たちが視界に入ったかのように反応を示した。


「この女どもは勇者様の妾ですかな? それとも奴隷か何かで?」

「え、奴隷?」


 どうやら賢者含めこの部屋にいる人間は、皆女子たちの事を奴隷か何かと勘違いしているらしい。なんでだろう? スカート履いてる人は奴隷、とか変わったルールがあるのかな?

 これが文化の違いというやつか。


「俺のクラスメイト……あ、一緒に勉強してる学友です」

「ご学友? 御冗談を、女子に学問など習わせてどうするのですか?」


 は?


「家事か夜伽の勉強でしょう。学問、とは言い間違いなのでは?」

「近頃王宮のメイドが減ってしまいましたからな。新しく仕入れた、という形にしては?」

「いや待て。サルディニア伯爵の性奴隷が変死しておっただろう? あのお方は変態ですからな。新しいおもちゃを高く売りつけてやりましょう」


 え?

 あ、いや、俺がすごい勇者だったのはめっちゃ嬉しかったんだけど。こいつらなんか人でなしの発言しまくりなんだが、だ、大丈夫なのか?


 雲行きの怪しい発言に怯えまくっている女子たちへ、一人の貴族っぽい男が近寄っていった。


「この服はウール? いや、変わった材質ですね。素晴らしい、大変興味がわきましたぞ」


 まるでセクハラか何かのようにブレザーの制服を撫でまわす男。撫でられている女子は『ひぃ』と声を漏らすだけで、抵抗できていない。


 賢者が両手を叩いた。


「さあ何をしているのだお前たち。ウォーレン公爵が服を御所望だ。脱げっ! 早くその服を献上するのだっ!」


 あぁ……。

 なんだか、分かってきた。

 これは要するにあれだ。この世界では女子の地位みたいなのがものすごく低いんだ。みんな奴隷で当然だと思ってるし、ましてや身分の高い公爵の命令は絶対。

 先ほどまで女子を撫でまわしていた公爵は、どうやら飽きたらしい。次のターゲットを探そうと、濁った瞳を左右に揺らし、その手を伸ばして……。


 吹っ飛んだ。


 一紗だ。

 一紗がその足で公爵を蹴り飛ばしたようだ。 


「触んなこのハゲデブっ! ぶっ殺すわよ」

「こ、この……女の分際で……」


 お、おい一紗。それまずいって、絶対まずいって。この人公爵って偉そうな感じだし、下手に反抗したら絶対に報復食らうぞ。


「兵士よ、この女を捕らえろ! もはや服だけ奪い取るのでは気が済まん。拷問だっ! 体中の毛という毛をむしり取ってくれるわ」


 ほら来たこれ。後先考えてから行動しろよな!

 公爵の命に従い、周囲を固めていた兵士たちが一紗へと詰め寄った。


「ちょ、ちょっと待ってください」


 俺は激昂する公爵と一紗の間に割り込んだ。


「その子たちは俺の友人なんです。勇者の友人! あまり手荒なことはしないでくださいっ!」


 強くそう抗議したものの、賢者たちの反応は薄い。


「はぁ? 勇者様、頭は大丈夫ですか?」

「友人? 男女の間に友人などいるのですかな?」

「お可哀そうに。元の世界でよほどひどい洗脳を受けたのだろう。女は奴隷、男の所有物。この世界でゆっくりと教えて差し上げましょう」


 や、ヤバい。

 この人たち、俺が洗脳か何かされてると思い込んでる。どうやらよほど男尊女卑の根強い世界らしい。男女平等男女平等連呼して通用するとは思えなかった。


 どうすればいい?

 このままじゃ、皆服を脱がされて変態伯爵に売り渡されちゃうぞ。いくら異世界新世界って言っても、顔見知りがそんな境遇で暮らしてるなんて生きた心地がしない。

 なんとかしなければっ!


「ま、間違えました。その子たち皆俺の奴隷ですから。俺のものですから手を出さないでくださいっ!」


 これでどうだ?


「勇者様? 先ほどまでの発言と矛盾するようなのですが?」

「そ、その、異世界では女性が大切に扱われていると聞いたので、勘違いして隠してたんです。こいつら皆俺の奴隷ですから。ほ、ほんとですよ?」


 この言葉を聞いた瞬間、それまでざわついていた賢者たちが一斉に落ち着きを取り戻した。


「脅かさないでください、勇者様。我々は心配してしまいましたぞ」

「才気あふれる勇者殿だ。やはり英雄には女が群れるもの」

「勇者様の所有物なら仕方ありませんな。今後は金銭や交換を視野に入れた交渉を行うことにしましょう。それでよろしいですな?」

「こ、交渉なら」


 ここで断るとまた変に疑われそうだからな。後先考える俺は、適当に話を合わせておくのです。


 こうして、波乱はあったものの事なきを得た俺たちは、勇者の屋敷と呼ばれる俺の家へと移動することになった。 


 なんだか俺の事を警戒しまくってる女子たちが印象的だった。

 貸すとか話出しちゃったからな。後でしっかりフォローいれとかないと。

 なあに、問題はない。なんたって俺はSランク適性魔剣聖剣持ちのハイスペック勇者だからな。願って叶わないことはないっ!

 

 そう、チートな俺がクラスの女子たち守りながら活躍するんだ。もしかしてゆくゆくはハーレムとかになっちゃったり? いやぁー、なんか顔見知りとそうなるって恥ずかしいなぁ。


 ……なんて、その時は浮かれたことを考えていた。



 ――半年後、この世界に革命が起こった。

 男女の地位は逆転した。


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