カジノの騒動《2》
前回のあらすじ:カジノで目的不明の賊を発見
「つっても、どうすっか、ジゲル」
「ふむ……確かに困りましたな」
魔族の双子ちゃん達と、その護衛を任せた燐華と夜華を賊がいないと思われる場所に退避させた後、俺とジゲルは、それとなく周囲を警戒しながら相談を続ける。
「これ、手を出してもいいんだけどさ。マッチポンプを疑われるよな。正直、こっちに被害が無いなら放っておきたいんだけど。どうよ」
「……難しいところですが、様子見はありでしょうな。何かしらの事態が発生した際、我々が手を出さずとも、こちらの警備の者達がただ指を咥えて黙っている、ということはないでしょうから。このカジノは、仮にも裏の顔役達が信用して会議の場に選ぶ程の場所です故。――ですが逆に、我々だけで制圧してしまうのも手かと」
「へぇ? どういうことだ?」
「賊に気付いているのは、まだ我々だけの様子。なれば、事態が発生しない内に全て排除してしまい、後程報告致せば、疑いも軽くなるかと思われます」
ふむ……悪くないな。
「……よし、それでいこう。気に入った。勝手にやって勝手に恩を売り付けてやるとしよう」
「では、そのように。位置はお分かりになられますか?」
「位置は……結構広がってるな。要所要所で固まっているところを見るに、このカジノの構造は把握しているっぽいぞ」
数は、表に十五人程、裏に入り込んでいるのに八人程。思っていた以上に潜り込んでいる。
守衛の出入口に多めの人数が割かれ、待機所などはすでに制圧に動いていたようだが、そっちはたまたま居合わせたセイハとネアリアに阻止されたようだ。
この動きからすると、かなり綿密に組まれた計画らしいな。
「四方向にある、表と裏を繋ぐ従業員出入口に固まってるヤツらはお前らに任そう。近付けばわかるだろうから、皆で連絡取り合って排除してくれ。客に紛れているのはちょっとわかりにくいだろうから、俺がやろう。バレないように、な」
「畏まりました。バレないように、ですな」
ニヤリと口端を歪めた俺に、ジゲルは獰猛にすら見える微笑みを浮かべた。
* * *
「――おっと、ジジィから指示が来たぞ。『賊はぶっ殺せ。ただしバレないように』、だとよ。アタシらは裏に展開しているヤツらを殺れってさ」
「排除で決定したようですね。わかりました、ならば私達はすぐに動くべきですね。早々にけりをつけてしまいましょう」
そう言って、どこからともなく二本のダガーを取り出すセイハ。
牢から出たネアリアもまた、普段隠し持っている小型のハンドガンにサプレッサーを装着し、肉厚なナイフをアイテムボックスから取り出して腰に差しながら、隣の同僚に向かって口を開く。
「バレずにっつーことは、また隠密だろ? ったく、たまには何も気にせず弾をばら撒きてーもんだ」
「貴方のその、火力至上主義はどうにかした方がいいと思います。大体いつも、オーバーキルが過ぎます」
「何言ってやがる。チマチマやるよかデカいのを一発叩き込んだ方が、手間も省けるし危険も減るし、何より快感なんだろーが」
「……異論を挟みたいところですが、その辺りの議論は平行線を辿りそうですので今はやめておきましょう。それよりネアリア、マスターにご迷惑をお掛けした分、しっかり働いてくださいね?」
「わかってるって、精々真面目にやりますよ。――じゃ、セイハ、道案内頼んだかんな」
「では、まず出たすぐの扉裏にこちらの様子を窺っている賊がいますので、その者の排除をお願いします」
「あいよ」
ネアリアは無造作にハンドガンを構えると、外に繋がる木製の扉に向かって引き金を数度引く。
「ッ――!!」
木の裂ける音の後に、数瞬遅れて何かがドサリと倒れる音。
「……見もせずによく弾を当てられますね」
「アンタが扉裏っつったんだろ。んで、次は?」
「こちらです。ここと同じような守衛の待機所などを優先的に狙っているようですね。ここ以外のところはまだ襲われていないようですが……この詰所の制圧が終わってから、動き出すつもりだったのでしょうか」
「へぇ、そりゃラッキーだ。んじゃ、異変に気付かれる前にとっとと終わらせちまおう」
そして二人は、廊下に倒れ伏す敵に一瞥をくれることもなく、詰所を出て行った。
* * *
「――ファーム、玲、排除の指示が来ました。他のお客の方々に気付かれない内に処理しろ、とのことです」
「お仕事!」
「わかりんした、メイド長様。気付かれない内に、となると……ファームの洗脳魔法が良いでしょうか。ウチのデバフと掛け合わせれば、恐らく通るやと」
「えぇ、同感です。それで行きましょう。では、私が気を引きますので、その間に玲が耐性ダウンのデバフを。ファームは、その後に洗脳魔法をお願いします。賊は固まっているようですので、範囲魔法を使ってもいいですが、他のお客の方々を巻き込まないよう気を付けてくださいね?」
「りょうかーい!」
「了解です」
「それじゃあ、玲は私と手を繋ぎましょうか。ファームは、玲の肩に乗っていてくださいね?」
「はーい!」
「……メイド長様、ウチ、それちょっと恥ずかしいんじゃけども……」
「フフ、これもお仕事ですから。我慢してください」
「お仕事だぞー! 我慢しなさーい!」
「…………」
有無を言わせないニコニコ顔と、面白がって囃し立てるファームに、玲は恥ずかしそうに少しだけ頬を赤くしながらも、シャナルから差し出された手を握る。
――そして、彼女らは動き出した。
玲の肩にファームが乗り、玲とシャナルで手を繋ぎ、まるで仲睦まじい家族のような雰囲気を醸しながら、カジノの中を進む。
目標との距離がある程度近付いたところで、シャナルはわざとよそ見をして、トン、と軽く目標に肩をぶつける。
「あっ、ごめんなさい。フフ、少々、酔ってしまったようで……」
身体がぶつかった目標――玲とファームがずっと尾けていた、カジノ内部に潜り込んだ賊の男の一人に、シャナルはニコリとほほ笑んで会釈する。
男は一瞬、シャナルの美貌に見惚れたように呆けてから、ハッと我に返ったように慌てて口を開く。
「っ、あ、あぁ。気にすッ――」
――その言葉途中で、唐突に男から一切の表情が失われる。
まるで能面のような無表情で、ブランと手を下に垂らし、棒立ちとなる賊の男。
それは周囲にいた男の仲間達も同様で、シャナルと会話を交わす男にその仲間達の意識が向かった一瞬の間に、玲とファームの発動した魔法に掛かったのだ。
シャナルは、二人が段取り良く賊達を洗脳したことを理解すると、妖艶な――寒気がする程に妖艶な微笑みを浮かべた。
「それでは、皆様。しばらくお静かにしていてくださいね? ご安心を、事が終わりましたら解放してさしあげますので。――まあ、その時に縛り首になっているか、見せしめのために五体を引き裂かれているかはわかりませんが、そこはお諦めください」
「あーあ、かわいそー。ねね、シャナル、この人達どうするー?」
「棒立ちのままだと少々注目を集めそうですので、皆スロットでもしていてもらいましょうか。ファーム、お願いしますね」
「わかったー!」
元気な返事をしてファームがヒョイと指を動かすと、連動して洗脳魔法の掛けられた男達が一斉に動き出し、近くのスロットの台へそれぞれ座り、無言で遊び始める。
「さ、次に行きますよ、二人とも。ユウ様が今、客に混じった賊の排除に動いているそうです。私達は北西側と南側の従業員出入口に固まっている賊を排除しろとのことですが、早めに終わらせてユウ様のお手伝いに向かいましょう」
「! ご主人手伝う! 頑張る!」
「わかりんした! メイド長様、早く不届き者を排除して、主様のところへ行きましょう!」
「フフ、気合いっぱいで何よりです」
可愛らしい二人の様子に、先程とは違った、慈愛の感じられる様子で、シャナルはニコリと微笑んだ。




