カジノへ
「ね、あんちゃん! 見て見てー!」
「ご主人、見て見てー!」
子供用だが、しっかりとした造りのドレスを着込んだ燐華と、特注サイズのドレスを着たファームの二人が、自身のドレスを見てもらおうと両手を広げて俺の前でクルクルと回る。
ファームは飛びながらクルクル回っているので、何だか神秘的にすら見える。
「お、よく似合ってんぞ、お前ら。美人さんだ」
「えへへぇ、ありがと、あんちゃん! あんちゃんも、おっとこ前ぇ!」
「ご主人、男前ー!」
「ハハ、そうか。ありがとな」
俺もまた、現在はいつもの暗殺者フォームや町人変装フォームではなく、よくあるタイプのタキシードに身を包んでいる。
――というかまあ、俺と燐華だけではなく、我がギルドの仲間達は現在、皆フォーマルな装いに着替えている。
若干、この国の礼服とかからは形や質が違っているが……まあ、こういうのは高級そうな恰好だったら、別に何でも大丈夫だろう。
「……マスター、どうでしょうか?」
「……あのな、セイハ。すごく似合っているし、見惚れる程には綺麗だと思うが……その仮面は、被ったままなのか?」
「これがないと、私は動けません。マスターをお守り出来なくなってしまいます」
「そうかい」
彼女の言葉に、思わず苦笑を浮かべる。
ドレスに仮面……ま、まあ、仮装パーティ的なところだったら普通にいそうな恰好だし、高貴な身分の女性っていうのは、公の場では顔を隠すこともあるからな。
そういうもんだと思っておけば、そうおかしくもないか。
……おかしくないよな?
「ほら、玲、出て来ませんと」
「あ、その、ウチは……」
と、次に現れたのは、玲とシャナルの二人。
二人もまた綺麗なドレスを着込み、もじもじしている玲の背中をシャナルが押して現れる。
「玲もシャナルも綺麗だ。全く、目の保養になるな」
「ふふ、ありがとうございます」
「~~っ」
慣れた対応を見せるシャナルに対し、かぁっと顔を真っ赤にさせる玲。
うーん、可愛い。
――そう、俺達がこんな正装をしているのは、これからカジノへと潜り込むためだ。
一般にも公開されているカジノではあるが、しかしやはり、カジノとは基本的に金持ちの遊び場だ。
故に、恰好もちゃんとしたものにしておかないと周囲の客層から浮くことになるし、普段着でも入れないことはないのだが、わざわざ浮く恰好をする理由もないだろう。
「……あ、あの、私達も、こんな綺麗なものを着ちゃって、いいんでしょうか……?」
「…………きれい」
自分達の着込んだドレスを見ながらそう言うのは、新人メイドのルヴィと瑠璃の双子。
彼女らもおめかしをして、子供用のドレスに身を包んでいる。
二人はこの国では差別の対象だが、現在彼女達はゲームにあった種族の見た目を変装する指輪を付けさせているため、その外見は普通の人間と一緒になっている。
「あぁ、当たり前だ。二人とも俺達の仲間だからな。一緒に行ってもらうぜ?」
彼女らは、楽しいことをほとんど知らずに生きて来たからな。
こういうところで、十分に楽しんでもらいたいものだ。
「……むぅ。きゅーくつ」
着込んだドレスの裾を引っ張り、不快そうな表情を浮かべるのは、狼獣人の夜華。
「いや、まあ、ちょっとだけだからさ。我慢してくれ」
そう言って、彼女の頭を撫でてやっていると、その俺達の様子を見ていたネアリアがこちらに声を掛ける。
「オイ、そろそろ行くぞ、頭領」
「あいあい。……お前、何でタキシード着てんだ?」
元々顔立ちは整っているし、スタイルは良いので、むしろ男の俺より似合ってはいるが……。
「あ? ドレスなんてヒラヒラしたもの、着れる訳ねーだろ。動き難過ぎるってんだ。……それに、カジノだろ?」
「え? おう」
「なら、袖のある服を着ねぇとな」
「……お前、イカサマして捕まっても助けてやんねぇからな?」
「ハハ、冗談だ、冗談」
ニヤリと笑みを浮かべ、肩を竦めるネアリア。
……ホントに頼むぜ?
* * *
――王都の一角を丸ごと使われた、そのエリア。
「ほぉ……すげぇな」
俺は、目の前に広がる光景に魅入りながら、思わずそう言葉を溢す。
――地下カジノは、俺の想像以上にどデカい場所だった。
豪華絢爛、という言葉がピッタリ来るような内装に、ひっきりなしに出入りする人の影。
事前の調査の通り、皆それなりに整った恰好をしているのを見る限り、やはりここにいるのは富裕層が多いのだろう。
地下カジノというぐらいだから、そこまで広さはないだろうと高を括っていたのだが……一番近い例えは、巨大ショッピングモールだろうか。
それぐらいの建造物が、圧倒される規模でここには広がっている。
この世界の技術じゃ、こんな地下空間を造り上げるのは無理だと思うのだが……恐らくは、魔術が使われた建築なのだろう。
中々すごいもんだ、魔術ってのも。
「あんちゃんあんちゃん! すっごーい!」
「あぁ……これは想像以上だったな。すげぇわ。ラスベガスもこんな感じだったんかね」
「らすべがすー?」
「いや、こっちの話だ」
と、そうして地下カジノの入口で圧倒されていると、こちらに近寄る人影が二つ。
「ユウ様、お待ちしておりました」
現れたのは、先にカジノに向かってもらっていたジゲルとレギオンの二人。
彼らもまた正装に身を包んでおり、二人とも丈があるので、かなりサマになっている。
割とマジでハリウッドスターみたいだ。
「こちらが、皆様の分のVIP会員証です。中に入る前に、お付けください」
「悪いな、二人とも。こんな雑用をやらせちまって」
「いえ、これが仕事です故」
『お気に、なさらず』
彼らが俺達より先行して向かったのは、VIP会員のみ入ることが可能なエリアで必要になる、この会員証を得るためだ。
目標である悪の親玉達に近付くためには、一般会員には解放されていないここに入ることが必須となる。
手続き自体は、現在一応の協力関係にある第一王子に話を付けることで、すでに終わらせておいたのだが、その会員証の登録をここで一度行う必要があったそうなので、俺達を煩わせないようこうして先に二人が済ませておいてくれたのだ。
全く、ウチの男性陣は本当に仕事が出来るヤツらだな。
「これがありませんと、不審人物として通報されてしまうようですので、くれぐれも無くさないようお願いします。――貴方達、いいですね?」
ジゲルの言葉に、子供組がそれぞれ返事をする。
「……ネアリアも、問題を起こさないようにお願いします」
「オイジジィ、何でアタシにそれをピンポイントで言いやがる?」
「いえ、何となく言っておいた方が良いかと思っただけですので、わかっているのであれば構いません」
ジゲル、その心配は当たりだ。
オオゥ? とジゲルにガンを飛ばすネアリアと、それを涼しい表情で受け流すジゲルの二人の様子に笑ってから、俺は皆に向かって口を開いた。
「さて――それでは諸君、行動を開始しよう!」




