突撃!!隣のギャング屋敷!!《4》
「お? 頭領――頭領、そりゃいったい何だ?」
「察せ」
怪訝そうにこちらを見るネアリアに、俺は何とも言えない表情でそう答える。
――双子の少女の傷を治し、アイテムボックスに入っていた適当な替えのTシャツをそれぞれ着せてから俺は、片腕ずつで彼女らを担ぎ上げ、下へと降りて来ていた。
この二人はどうやら、こちらの世界で『魔族』として定義されている種族であるらしい。
頭からは羊のような捻じれ角、腰からは悪魔らしい黒の尻尾が生え、彼女らが人間ではないことを主張している。
人間の国とは戦争中という話だし、恐らくはどこかで捕まって奴隷にでも落とされたのだろう。
その首には首輪が巻かれ、先程の寝室の端に二本分の鎖が壁から伸びて床に垂れていたのを見るに、普段はそこに繋がれていたのだと思われる。
……今の彼女らは、上級ポーションと共に上級解毒ポーションも併用して使ったので、ただ穏やかに寝息を立てて眠っているが……クソ、嫌なものを見ちまった。
ここまで胸糞悪い思いをしたことが、今までにあっただろうか。
そんな俺の胸中を汲み取ってくれたのか、ネアリアは特にそれ以上双子に関して問い掛けて来ることなく、別の問いを口にする。
「……んで、何でこっちに? もう目標物、見つけたのか?」
「見つけてはないが、ここのボスを締め上げて居場所を聞き出して来た。地下倉庫にしまってあるってさ」
そう言って俺は、双子を抱えたまま、彼女に書斎から盗って来た鍵束を見せる。
「それがその鍵ってか?」
「そういうこと。セイハは?」
「今アンタが言ったヤツを見つけて、確認に行った。アタシはここで見張り。まあ、多分全員敵は殺したけど。――お、噂をすれば」
彼女が見ているのと同じ方向に視線を向けると、ちょうど一つの扉の奥から、こちらにヒョコッと頭を覗かせるセイハ。
「ネアリア、扉がありましたが、鍵が閉まって――? マスター?」
「その扉の鍵を見つけたから降りて来たんだとよ。んじゃあ、さっそく下降りてみっか。――頭領、アンタはどうする?」
チラリと俺の抱える双子の方へ視線を送ってから、そう問い掛けて来るネアリア。
「……マスター、その子達は……」
「ちょっとな。……俺も行こう。元より目的はそっちだ」
セイハの問いを誤魔化してから俺は、少し周囲を見渡して華美なソファを見つけると、そこに双子を横たえ、アイテムボックスから家具アイテムの『毛布』を取り出して彼女らに掛ける。
「よし、さっさと回収して、さっさと帰ろう。……なんか、つい最近もこんなこと言ったな」
「森でな。――あぁ、そういや頭領、冒険者のランク、アタシら上がるってよ」
「へぇ? 何て言われたんだ?」
「熊の功績と、例のルーキー狩りのヤツらがルーキー狩りをやったっつう証拠が挙がってな。んで、アタシら三人ともⅩ級から一気にⅦ級だとよ」
「そりゃ、冒険者ギルドに行けば更新してくれんのか?」
「あぁ。近い内来てくれって」
「了解、明日にでも行こう」
「ランクは、皆様揃えておいた方がよろしいのでは? それに差が出ると、同じパーティ内でも受注が不可能になる依頼がある、とのことですが……」
「あー……そう言えばそんなことも言ってたっけか。そうだな、他のヤツらにも暇を見て受けさせておくか」
そう会話を交わしながら、地下倉庫への階段を降りて行くと、すぐに底に辿り着き、目の前に扉が現れる。
俺は、先程の鍵を再びポケットから取り出すと、それを扉の鍵穴に通し、扉を開く。
中は真っ暗だったので、お洒落アイテムとしてアイテムボックスに入っていたジッポライターを用いて、置かれていたオイルランプに火を灯し――。
「――あった」
数多の武器が壁に立てかけられ、様々な形式の鎧が所せましと置かれた、武器庫らしい地下倉庫。
その中心に設置された台の上にあるのは、厳重に鎖が巻かれている、毒々しい紫色の刀身を持つ一本の剣。
『禁剣フルーシュベルト』。
その外見はやはり、ゲームで存在したソレと、全く同じものである。
……これがここにある可能性として考えられるのは、俺と同じようなヤツがこの世界にもいて、コイツを何らかの理由によって手放したか。
もしくは……武器自体が、俺達と同じようにこの世界へと漂流して来たか。
事実を知るためには、この武器を入手した者に、直接話を聞くしかないだろう。
――次の方針は決まったな。
俺は今しがた使った鍵束を再度使い、鎖を固定している南京錠を解くと、フルーシュベルトの柄をヒュッと掴み上げる。
「あ、お、おい頭領。そんな無造作に触っていいのかよ」
「装備しなきゃ大丈夫だ」
ちょっと焦った声を漏らすネアリアに、何でもないようにそう答える。
武器や防具は、持っているだけじゃダメ、というヤツだ。
あのゲームにおいても、例えばこのフルーシュベルトは『両手剣』に分類される武器であるため、両手で柄を握って、両手で構えなければ武器を装備したことにはならず、その効果も発動しないのだ。
そのため、両手剣を片手ずつの計二本持って、などをしてもゲーム時代では何一つ効果を発揮せず、初心者が双剣でもないのに武器を二本構え、そして殺される、ということがよくあったものだ。俺です。
フルーシュベルトを握ったまま、次にアイテムボックスを開いた俺は、いつもゲームでやっていたように、それをヒョイと画面に向かって投げ入れる。
すると、まるでその画面に吸い込まれるようにしてフルーシュベルトはこの場から消え去り、アイテムボックスメニューに表示されているアイテム欄の一番新しいところにその名前が表示されていた。
「――よし、回収完了。お疲れ、お前ら。撤収するぞ」
「マスター、他は回収なさらないのですか?」
「やめとけやめとけ。どれも質が悪いったらありゃしねぇから、潰して鉄にするぐらいしか使い道はねぇぞ。レア金属も無さそうだし」
「……確かにそうですね。すみませんマスター、何でもありません」
俺はセイハに手をヒラヒラ振ってから、ネアリアへと口を開く。
「ネアリア、C4よろしく。魔塵入りのヤツ」
その俺の言葉に、彼女は一瞬ピク、と眉を反応させると、今度はニィ、と口端を笑みの形に変える。
「ヘヘ、あいよ、ボス。すぐに準備してやる」
そう言ってネアリアは、メニュー画面を開くと、何がしかの操作――恐らく、『整備士』である彼女しか使えない『整備メニュー』をしばらく操作してから、やがて出現させたソレをポンとこちらに投げ渡す。
「とりあえず四つ作った。まだいるか?」
「十分だ。適当に設置しながら帰ろう。お前ら、万遍なく設置して来てくれ」
「了解」
「わかりました」
その言葉に二人は、俺より先に倉庫を出ると、二手に別れて屋敷の内部へと散って行った。
俺もまた、彼女らに続いて地下を出ると――先程ソファに横たえた、少女達の下へと向かう。
――まあ、もうギルドに連れ帰るしかないよな。
双子の少女のいる部屋に辿り着き、俺は未だ眠ったままの二人を見下ろす。
その後の身の振り方に関しては、彼女らが意識を取り戻してから考えるしかない。
帰る場所があるのであれば、そこまで送って万事解決だが、しかし仮に、どこにも行き場が無いようであれば……あそこで見捨てずに、回復させたのは俺である。
ならば、俺がトップを務める、ウチのギルドで面倒を見てやるってのが、筋というものだろう。
幸い、二人ぐらいメンバーが増えたところで、生活の余裕という点に関しては全くの無問題だしな。
小さく息を吐き出してから、俺は近くにあった一番大きい柱の根本にネアリアから貰ったC4を設置すると、双子の少女を両肩に抱え、入って来た正面扉から屋敷の外へと出る。
それから少し待つと、セイハ達の方も無事設置が終わったようで、数分もせずに各々別のところから姿を現し、俺の隣に並ぶ。
「終わったか。帰るぞ」
「ほら、頭領」
三人並んで歩きながら、ネアリアがヒョイとこちらに投げ渡したソレ、C4の起爆装置を受け取った俺は、屋敷の敷地から出たところで――そのスイッチを、押し込んだ。
――轟く、爆発音。
一瞬にして夜の闇が真っ赤に染め上がり、発生した激しい爆風と熱が、距離を取った俺達のところにまで届く。
――少ししてから、チラリと背後に視線を送った俺の視界に映るのは、轟々と燃え上がり、その形を大きく崩して、天高く煙を上げる、クソどもの巣窟。
ゲームにあった、特殊爆薬――『魔塵』。
これは、十数種類ある爆弾系統アイテムの威力を著しく上昇させることが可能な仮想爆薬で、整備士系クラスのみが扱うことが出来る。
これの良いところは、爆弾を『魔塵入り爆弾』として造り変えると、威力が上昇することの他に、その爆発を指向性にすることが可能となり、味方を巻き込まないなどの余計な被害を出さずに使用出来るようになるところだ。
爆弾系アイテムは威力が高いんだが、その威力故に自分達のいるフィールドの設置オブジェクトも破壊してしまうので、場合によってはさらに不利になってしまうことがあったんだよな。
この『魔塵』というアイテムが実装された当時は、一時期ゲームの街の中に整備士クラスがメチャクチャ増えたものだ。
使用可能武器がかなり限られるので、すぐに消え去ったが。
他人から搾取し続けた汚い金で、贅の限りを尽くした悪徳商人の最後を飾るには、これぐらい派手に吹き飛ばしてやるのが、良い塩梅だろう。
「――で、頭領。結局連れて来ちまったのか、その双子。どうすんだ?」
「……どうしようね」
「オイ」
ジト目をこちらに向けて来るネアリアに、俺は慌てて弁明するように口を開く。
「……い、いや、どこにも行き場がないようなら、ウチでメイド見習いとして雇おうかなー、とは考えてるけどよ」
「どんだけ使用人を増やすつもりなんだよ。今の状態でも十分ウチは回ってんぞ。シャナルにセイハ、ジジィもいるし」
「……ダメですかね?」
「いやまあ、頭領のギルドなんだから、好きにすりゃいいけどよ……。オイ、セイハ、この行き当たりばったりなボスに、アンタも何か言ってやれ」
「私は、マスターの命に従うのみ。共に置いていただけるのであれば、私が言うことは何もありません」
「……あぁ、うん。アンタはそういうヤツだったな。聞いたアタシがバカだった」
苦笑を浮かべ、やれやれと言いたげに首を左右に振るネアリア。
――そんな会話を交わしながら、俺達は。
少しずつ騒がしくなっていく周囲の喧噪を全く気にした様子もなく、王都の闇の中へと溶け込んでいく。




