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情報収集《2》

 大前提として、主人公達はまだ全く本気で戦っていません。

 戦闘が技も何もなく武器の火力任せになっているのは、それが理由です。しっかりと暗殺らしいことは、もう少し話が進めばさせますので、悪しからず。



 カランコロン、と音を立てて扉を開き、冒険者ギルドの中へと入る。


「――お、お前らか。早かったな。その様子だと依頼は上手く行ったのか?」


 そう声を掛けて来たのは、冒険者登録の際に出会った、例の極悪顔スキンヘッドのおっさん。


「あぁ。これぐらいはまあ、余裕だ」


「ハハ、言うねぇ、ルーキー。物はこっちに出してくれ」


 ニヤリと笑うおっさんが指差したカウンターの上に、ポンと麻袋を投げる。


「とりあえずそれが、依頼のゴブリンの耳、十体分だ」


「ふむ……確かに。これで初依頼達成だな。おめでとう」


「どうも」


 麻袋の中身を確認し、手元の書類に記入してから、おっさんは言葉を続ける。


「それで、とりあえず、って言ったな? ということは、まだ何かあるのか?」


「あぁ。確か、依頼中に討伐したモンス――魔物とかは、買い取ってくれるんだったよな」


「おう。その方がギルドの利益になるからな。ということは何か遭遇したのか」


「セイハ」


「はい、マスター」


 そう俺が彼女の名前を呼ぶと、少し後ろに控えていたセイハがアイテムボックスを開き、でん、と熊のモンスターの死体を冒険者ギルド内にある素材置き場に出現させる。


 人前で普通にアイテムボックスを使ったが、似たような『収納』という魔法がこの世界にはあるらしく、珍しい魔法ではあるがいるところにはいる、とのことだったので、俺達の中でセイハのみ人前でアイテムボックスを使わせることにした。


 流石に、全員が収納の魔法が使える、となったら珍しいだろうからな。


「こ、こりゃあ……『ブラッティ・ホーン・ベア』か! よく倒せたな!」


 それ、知らない間に部下が片手間でぶっ殺してました。


 より状態を(つぶさ)に確認するためか、おっさんはカウンターから出て来ると、熊のモンスターの死体を吟味し始める。


「胸に大穴が開いているが……それ以外の状態はかなり良い。報酬は期待してくれていいぞ」


「おっさん、実はもう一つあるんだ。セイハ、残りも頼む」


 そして次に彼女は、ドッグタグ――冒険者証と武器をジャラジャラとその場に出現させる。


「……これは?」


 それを確認した瞬間、その意味するところを瞬時に理解したおっさんは表情を引き締め、鋭い眼差しをこちらへと送って来る。


「途中で初心者狩りの一団に出会ったから、ぶっ殺して装備を剥いだ。犯人の一団と被害者の分。犯人の冒険者証と装備はこっちだ。被害者のはこれで全部かはわかんねーが、とりあえず見つけた分だけは回収しておいた」

 

 初心者狩りのヤツら、犯罪者のクセに全員身元のわかる冒険者証を身に付けていた辺り、そのお粗末さがわかろうというものだ。


 どうも、冒険者は冒険者証を携帯しているのが一般常識らしいが、犯罪者ともあろうヤツらが一般常識に縛られてんじゃねーって話だ。


 このお粗末さ加減だと、恐らく俺達が()らなくとも近い内勝手に自滅したことだろう。


「……なるほど。チッ、最近出没報告は確かにあったが……悪いが、これには真偽確認が必要になる。お前達も襲われた身であるのかもしれんが、少し話を聞かせてもらうことになるかもしれん。発見者がお前達ということも控えさせてもらうぞ」


 まあ、そりゃ目撃者は俺達以外いない訳だしな。

 当然、俺達の言のみを鵜呑みにする訳にはいかないだろう。


 ただ、問答無用で衛兵の詰所まで連れて行かれる、ということが無い辺り、初心者狩りが横行していること自体は、おっさんが呟いたように冒険者ギルド側も把握していたのだろう。


 被害に遭ったヤツらの死体でも、発見していたか。

 獣などの野生生物に負わされた傷と、人間に負わされた傷ってのは、全く違うものだからな。


「別にいいぞ。こちらとしては隠すこともないし」


 ……いや、襲われたんじゃなく、俺達が襲った側だってことは、隠した方がいいことか。


「助かる。ブラッディ・ボーン・ベアの素材報酬も合わせて、後日また来てくれるか。とりあえずこれは、ゴブリンの依頼の報酬だ」


 そう言っておっさんは、数枚の銅貨をカウンターに並べる。


「確かに。じゃ、また明日辺りにでも来るぞ」


「あぁ、わかった。それまでにはこちらも対応出来るようにしておこう」



   *   *   *



「あんちゃんお帰り!!」


 泊まっている宿の部屋に入った瞬間、元気良く飛び付いて来る燐華。


「おっ、ハハ、ただいま」


 俺はニコニコ顔の彼女の頭に手を置くと、その触り心地の良い髪をわしゃわしゃと撫でる。


「燐、頭領はお仕事終わりなんじゃから、あんまり甘えるのは……」


「ほーら、玲、お前の頭も撫でてやろう」


「……あ、主様、その……み、皆様が見ている前で、そ、そういうことは……」


 頬をかぁ、と真っ赤に染め、口ではそう言いながらも、決して俺の手から逃れようとはしない玲。


 あぁ……癒される。


「……頭領、アンタやっぱり、ソッチの――」


「断じて違います」


 コホンと咳払いをしてから俺は、部屋のソファに腰を下ろす。


 ――この部屋は、王都セイリシアにあるホテルの、九人全員が寝ることの出来る大部屋の一室だ。


 この都市に来た際、衛兵がオススメの宿として紹介してくれただけあり、調度の設えは良く、部屋全体の雰囲気も落ち着ける空気を醸し出している。


 サービスの質も思っていた以上に良好で――というか、俺がお忍び貴族だとでも思われているらしく、ここの従業員に、そういう上位者に対する振る舞いをされている節がある。


 何か、ジゲル達が部屋を取る時にでも言い含めたのかもしれない。

 あんまり気を遣われ過ぎると、逆に恐縮しちゃうのだが。


 ちなみに部屋を分けず全員同じ一室にしたのは、俺達がこの部屋で寝起きをしていないためだ。


 すでにウチのギルドへの扉を端に設置しており、ここの従業員にも、部屋の手入れはこっちでやるから、ということで一切の出入りをしないように言いつけてあり、ルームサービスの類も全て断っている。


 この王都にずっと留まるかどうかは全く決めていないが、その内拠点に関しても考えておかなければならないだろう。


 本拠地はウチのギルドだとしても、その扉を置く場所は必要になる訳だからな。


「お疲れ様です、ユウ様。二人とも。何かお食べになりますか?」


「そうだな、ずっと動きっぱなしだったから、ちょっと腹が減った。何か俺達三人がつまめるものでも作ってもらおうかな?」


「畏まりました。すぐにご用意いたします」


「お、いいねぇ。やっぱシャナルの作るモンが一番美味いからなぁ」


「同感です。その技術をどうにか盗みたいものです」


「フフ、いいですよ。セイハには殿方の心を掴む料理を、しっかりと教えてあげましょう」


「……! 是非、お願いします」


「あ! シャナ、燐華も教えて!」


「ファームもー!」


「う、ウチも是非教えて欲しいです、メイド長様」


「アタシは食べるの専門でいいが」


「では、今度お料理教室でもやりましょうか。勿論ネアリアも含めて」


「えっ」


 うむうむ、我が配下達が仲良さそうで、何よりだ。


 その後、シャナルはギルドの扉の向こうへと姿を消し、俺達は部屋でゆっくりとしていると、突然ピク、とセイハが反応する。


「――マスター。お二人が戻ったようです」


 彼女がそう言ったそのすぐ後に、コンコンと部屋の扉がノックされる。


「ただいま戻りました」


『戻り、ました』


 扉を開けて入って来たのは、ジゲルとレギオンの二人。 


「お疲れジゲル、レギオン。シャナルが軽く何か作ってくれてるから、お前らも座れよ」


「ありがとうございます。それでは、失礼いたします」


 俺の言葉に、二人は小さく頭を下げ、空いていた近くの椅子に腰を下ろす。


「――んじゃあ、帰って来て早々で悪いが、さっそく報告を聞こうか。ジゲル、どうだった?」


「結論から申しますと、やはりユウ様が仰っていた武器、『禁剣フルーシュベルト』と、この王都において噂が確認されている『フルーシュベルト』という武器は、同一のものだと思われます」


「何が確認出来た?」


「まず、その武器を用いて暴れている者達がいることは、確定。ここ数週間で、王都における力を持った無法者の組織が次々に潰され、どこも非常にピリピリして、厳戒態勢を敷いておりました」


 ――俺達は今、情報収集を目的として行動している。


 俺とネアリア、セイハの三人は冒険者の活動を通して情報収集。


 ジゲルはこういうことが得意であるため、より核心を探ってもらうため裏勢力への聞き込みで、レギオンはその護衛。


 シャナルは、裏方として俺達全員のサポート担当だ。


 子供組とファームはどうしようかと思ったが、冒険者への依頼に『子供達の遊び相手』などというもはや雑事と言えるのかどうかすらわからない依頼があったので、それに向かわせた。


 彼女らも、収穫はしっかりあったそうだ。

 ジゲル達の次に聞くとしよう。


 この中だと、ジゲル達が少し危険なようにも思うが、この世界の戦士というものの実力を把握出来始めている今となっては、もうあんまり心配していない。


 というのも、総評として彼らは、弱い(・・)


 当たり前と言えば当たり前の話だ。


 俺達はゲームの身体でこの世界にいる訳だが、彼らは歴とした普通の『ヒト(・・)』なのである。


 モンスター――魔物という敵が日常のすぐ隣におり、魔法、及び魔力という力を有している者達であるため、個々の強さとしては現代の軍人などより遥かに強いかもしれないが……それでも、ベースは『ヒト』である。


 対して俺達は、物理法則(・・・・)すら無視した(・・・・・・)、アホみたいな動きの出来るゲームの身体だ。


 現実では存在し得ない、超生物染みた鬼畜な強さの敵を屠ることも可能とし、極まれば単体でミサイル並みの威力の攻撃すら放つことが出来るようになる。

 まあ、そういうバ火力の攻撃は、総じて放つまでに時間が掛かるのだが。


 まだ、この世界に来て日は短いため、過信などはとてもじゃないが出来ないが……しかし、そこらの戦士が目じゃないことだけは確かなのである。


 ま、そうじゃなくとも部下の実力を信じる、ということも上司には必要なことだろうしな。


 ジゲルは狂戦士だが、しかししっかりとした熟年の男性だ。


 そういうコミュニケーション能力を必要とする仕事は、ウチのメンツの中では彼が適任なのだ。


「そして、無法者達の組織を二つ程壊滅させ(・・・・)傘下に収め(・・・・・)ました(・・・)ところ(・・・)、現場に居合わせ、かつ逃げ延びた者がおりましたので――」


「――待て待て待て。は? 何だって?」


 サラッとそう話すジゲルを、俺は慌てて止め、もう一度話すように促す。


「えぇ、ですから、行きずりで二つ程組織を壊滅させましたので、ユウ様の傘下として組み込みました。彼の者らを使って、現在は情報収集をより効率的に行っております」


「…………」




 ……ジゲルがコミュニケーション能力に優れている、というのは、俺の勘違いだったかもしれない。




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