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* 破 *

「で、ここはどこなんだ」



 もしゃもしゃと顎を動かしながら、スナコは首を傾げさせた。すると、お茶を飲んでいた召喚士が水筒から口を離した。



「ここはピラミッドの中よ。あるものを探してやって来たんだけど――」


「お前は召喚士だろう! いつ盗賊になったんだ!」


「ええええええ!?」



 突如、スナコはカッと目を見開いて叫んだ。召喚士がうろたえると、スナコは喜々として彼女に詰め寄った。



「それで、探しものは何だ。アンクか? アンクだろう? 失われたアンクだろう? 我々〈盗賊達〉は数多の罠を潜り抜け、失われたアンクを手に入れるんだろう!?」



 スナコは召喚士の肩を掴んで、力強く揺さぶった。死神ちゃんはパアと表情を明るくすると、スナコを見つめて声を弾ませた。



「お前もあの映画好きなのか?」


「何だ、幼女よ。お前も分かるクチなのか」


「分かる分かる! お前、どのシーンが好き? 俺はショーン・コヤンネリー扮する主人公の父親が――」


「うむ、あそこのシーンは私も好きだ。――友よ。これは、友情の印だ。受け取って欲しい」



 スナコは真摯に死神ちゃんを見つめると、お菓子を一袋差し出した。死神ちゃんも、ポーチの中からマドレーヌを取り出して差し出した。二人とも、あれだけ〈お菓子をあげる〉ということを嫌がっていたのにだ。

 お菓子を交換して篤い握手を交わす二人を見つめながら、青年が「どうしてこうなった」と呟いた。少しして、彼は顔をしかめさせるとボソリと呟いた。



「ていうか、え? この世界にも映画ってあるの? しかも、僕達の世界の映画が……?」


「はっはっはっ、何を言っているんだい、君。そんなの、気にしたら負けだぜ?」


「そうだぞ。細かいことは気にするんじゃあない」


「なに、二人とも。肩なんか組んじゃって。いつの間にそんなに仲良くなったの」



 呆れ果てた青年に、死神ちゃんとスナコは「まあ、友だからな」と声を揃えた。その光景をぼんやりと眺めていた召喚士は「どうしてこうなった」と呟いた。


 休憩を終えると、一行は〈ピラミッド脱出〉を目標に辺りを彷徨さまよい始めた。ちなみに、召喚士が探していたものというのは〈ダイヤモンドリング〉だそうだ。希少であるため中々手に入れることは出来ない指輪なのだが、どうやらピラミッドの中は他と比べて入手しやすいらしい。指輪を手に入れて召喚枠を増やしたかったと語る召喚士に、スナコは「アンクではなかったのか」と心なしか残念そうにしていた。

 しかし、スナコは〈数多の罠が張り巡らされたピラミッド〉という映画の中でしか出会えなさそうな場所に心躍っていたようだった。スナコは青年と、そして時には死神ちゃんを巻き込んで、華麗に罠を回避しては〈盗賊達〉ごっこを楽しんだ。


 死神ちゃんはふと、全力ではしゃぐスナコと、苦笑いを浮かべつつもそれに付き合う青年の関係を疑問に思った。死神ちゃんは、青年を見上げて首を捻った。



「ところでさ、お前ら、一体どういう関係なんだ?」


「ええええ、今更!?」


「いやあ、なんか、いろいろとありすぎて聞きそびれたというか」



 死神ちゃんは苦笑いを浮かべた。すると、青年は照れくさそうに答えた。



「僕とスナコさんは、お付き合いをしているんだ」


「はい? お前は人間で、あいつはチベスナだよな?」


「うん、そうだよ。僕はれっきとした人間だよ。そして、僕の彼女はチベットスナギツネ」


「はい……?」


「僕の彼女はチベットスナギツネ」



 もじもじと気恥ずかしそうに身を捩らせる青年に、死神ちゃんは唖然とした。すると、スナコがきょとんとした顔で割って入ってきた。



「なんだ。今頃タイトルコールか」


「タイトルコールって何だよ!?」



 死神ちゃんが素っ頓狂な声でそうツッコミを入れると、スナコと青年が何故か楽しそうに笑いあった。一方、召喚士は「自分だけがどんどんと取り残されていっているような気がするな」という思いを胸に秘め、ひとり沈黙を保っていたのだった。

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