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この混沌とした世界で友達が欲しい!  作者: ダストブロワー(缶)
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 私には弟がいる。まさに目に入れたって痛くないほど可愛い弟だ。

 身長は150㎝台後半少しと小柄で、うなじが見えるか見えないかの長さの髪と優し気な風貌、そして薄く香るような儚げさがまさしく守ってあげたい系男子の黄金比!私からすれば世の全ての宝物よりも大事な弟である。


 世の女性たちにとってこの『弟(あるいは兄)がいる』という事実はまさしく垂涎であろうことは想像に難くない。

 なにせ男性がよく出入りするという情報がネットに噂されるだけで集客力が目に見えて上昇するこのご時世に、血縁とはいえ一つ屋根の下で男性と共に過ごすことがどれだけ貴重なことか!

 男性は得てして傲慢だったり、我儘になりがちだ。私たち女性に言わせればそこも可愛いところなのだが、それでも、いやその中にあるからこそユー君の素直さや純真さの輝きは目を見張るものがある、と私は声を大にして言いたい。むしろ言う。

 正直なところ、うちのユー君の話をさせてもらえるなら3日は余裕でイケる。飲食睡眠を加味するなら1週間はほしいくらいね。


 もうね、まず何より性格が優しい。風呂上りなどに飲み物を渡してくれたり、買い物に出た時などさりげなく家族全員分のお菓子を買おうとしたりと、気遣い上手なのだ!ちょっとしたことで微笑みながら『ありがとう』と言ってくれる男性が世の中に果たしてどれだけいるだろうか?いやいない!だけど家の弟は言ってくれるんだなー、これが!


 そのうえ、一般的な男性が女性に対し苦手意識や嫌悪感を強く持っている場合が多い中、私の弟は小さいころからそういう部分への抵抗がほとんどないという女性にとって素晴らしすぎる性格をしている。

3年前の事件のせいでしばらく女性に対し無意識的に恐怖を感じるようになってしまったけど、今はようやく以前のように過ごせるようになってきた。良い意味でのガードの甘さはユー君の個性なんだし、必要なところは私たち家族がしっかりカバー&ガードしてあげればいいよね。


 それにしたって上目遣いで「フレンドコードを……」ってそんなの反則よね。Yes以外の選択肢を殺しにかかってると言っても過言じゃないよ!しかも答えた後の笑顔が!……もう!……くう!――たまらん!ああでもわざと断って涙目verの上目遣いも見てみたい!


 なんというか、姉としてはこう、頼れる系かつクールなかっこいい姉で居続けたいわけよ。だから話すときとかも外面は耐えてるけど、内面はもうね!たまらんよね!トキメキに攻撃力があったらK.O.間違いなしな破壊力なのよ!正直いつ表情筋が耐えられなくなって崩れてもおかしくないと私思うわけ。となると、この均衡を保っている私ってば精神面ものすごく強いんじゃなかろうか。


 おっとっと。やめやめ、語り始めると終わらなくなっちゃう。せっかく一緒にゲームができるんだもの、精一杯楽しまなきゃ勿体ないし、遅れるなんてもってのほか。話題のゲームをユー君がつまらなく思っても困る。




――え”っ、ウソっ!バイタルチェック引っかかった!?なんでよ!?へ?心拍と血圧の変動が大きい?興奮状態の疑い?ええい、もう一度、もう一度だ!VRヘッドギアよ、ユー君と遊ぶために本気を出した私に精神的動揺はないと思ってもらおうか!


――いやいやいや、聞いてたけど蛮族の種族多すぎるでしょこれ。どれがいいか全然わからないじゃない!


――魔法……よりは近接戦闘のほうが得意かな……前衛になって守ってあげたいし。


――ケモノ系はちょっと動かせる自信ないなぁ。アンデットとか論外。ユー君を怖がらせることになったら嫌だから却下で。


――……近接戦闘が得意で装備次第で攻撃役も盾役も担える、バランスの良い種族か。ふむ、『オーガ種』まさにこれこそって感じね。


――希少種、ね。とりあえずチェックしとけばいいでしょ。当たるも当たらぬもーっていうし。




 サクっとチュートリアルも終わらせて、私はユー君と一緒に遊ぶのだ!

 ふはは、我が友、明恵よ。私は弟と一緒だぞ!羨ましかろう。

 たかだか1週間の差でVR混沌初期組だとか散々自慢してくれちゃって、覚悟しなさい!






〈――『Chaos World』へ ようこそ!!――〉






「ただ~いま~。ユーちゃん、ユズねぇさんが帰ってきましたよー。

 …………あれ?返事が、ない?靴はあるし車もある。無視なんてあのユーがそんな無体な真似するは――」


「柚子、おかえり。

 アホなこと言ってないで、さっさと入ってきなさい」


 リビングのドアから姉のアヤメが顔を出して容赦ない口撃を仕掛けてきた。こちとら汗水たらして休日の午前勤を終えてきたところだというのに。


「アホなことって言うけどね、姉ちゃんや。

 いつも優しいユーの『おかえりなさい』がないんだよ!これは地震にして震度7レベルの大問題に間違いないじゃない!これじゃあ私、明日の仕事を頑張りたくなくなっちまうよ……!」


 それに姉ちゃんだってユーの声がちょっとないだけでテンパるくせに人のことをアホ呼ばわりとはいただけない。これは早急に説明責任を追及し、可能であれば謝罪ビール賠償ツマミを要求せねばなるまい。昼から飲む冷えたビールはンまいんだぞぉ~。


「はぁ……二人とも柚子が渡した新しいゲームをしてるからよ。それに、明日はあんた仕事休みでしょうが。

 わかったら早いとこ入ってきなさい。そういえばお昼はどうするの?残り物でいいならすぐ出せるけど」


 おっと。そういえば到着は今日だったか。これはこれはうっかりしていた。早急に昼食を済ませてログインしてユーと合流せねばなるまいて。ビールは中止だ。万が一にでもバイタルチェックに引っかかってはマズい。


「そういうことか。安心したよ。ユーに反抗期なんか来たら私はショックで寝込む自信があるね!

 あ、お昼はすぐ食べちゃうから準備頼んだー。ついでにこれ、缶ビールだから冷やしといてー」


 玄関から自室へ直行して動きにくいスーツから部屋着に着替える。ついでにパソコンとVRヘッドギアの電源を先につけておくことも忘れない。そしてあまり待たせると姉ちゃんの機嫌が急降下するのでその前にリビングへ。




「本人がゲーム中でいないから言えることだけどさ、ユーがまた外に出かけれるようになって本当に良かったよ。

 姉ちゃんは聞いた?ユーがさ、高校に行ってもいいなら実ちゃんと同じところに行きたいんだって」


「それ本当?なら母親として出来る準備は全て完璧にしてあげないと。あの子が行きたいというなら応援して、支援して、それを叶えてあげることこそ親の役目なんだから。

 でも、良かった。もう一度あの子が学校に行きたいと思えるなんて、昔は考えもしなかったから」


 二人してしんみりした空気に包まれる。こういうのも嫌いじゃないけど、これ別に今じゃなくていいよね。これからユーと遊ぶんだしテンションは上げていきたいのだ。悪く思うなよ姉ちゃん。この空気、粉砕させてもらう!


「昔は、って3年なんてすぐなのに、そりゃちょっとババ臭いんじゃないの姉ちゃん」


「よーし柚子、ケンカ売ってるなら買ったげるわ。支度なさい」


「あっはっはー。冗談よ、冗談。ほらほら、元気にしとかないと、またユーに心配されちゃいまーすよー」


「まったくもう、減らず口ばっかり」


 苦笑しながら言われても、ね。男の子の母親なんて、真面目な姉ちゃんからしたらすごい重圧だろうに、頑張ってると正直尊敬する。恥ずかしいから絶対面と向かっては言わないけどね。


 食事を終えたらササッと自室へ。そしてそのままベッドダーイブ、かーらーのー、装着!さらにすかさずゲーム起動!ゲームこそ我が友、我が伴侶!ゲームがあるから仕事も頑張れる!


 まぁ、本音を言えば、法律が許すならユーを旦那さんにしたいところだが、男性がいくら少ないとはいえ近親婚は禁じられてしまっているので諦めるしかない。それ以前にそんなことを本気で言い出そうものなら姉ちゃんが物理社会両面で殺しにかかってきそうだ。


 さてさってー、そんじゃログインして二人と合流しましょうかね。






〈――『Chaos World』へ ようこそ!!――〉





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