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機械化

作者: 吉満日吉

 20**年

 世界は機械化していた。

 商品の配達製造はもちろん、乗り物の運転、商品管理、農業、酪農、貿易までもが全てだ。

 人は買い物をするにはネットを使い、家からでなくても生活ができるようになってしまったのだ。



 ♢♢♢



 とある場所に独り暮らしをしていた男がいた。

 男は今日もパソコンに張り付いている。パソコンといってもモニターが台の上に置いてあるわけではない、部屋の壁に既に埋め込まれているのだ。家を買ったり借りたりしたとき備え付けられているものとなっている。

 ワンルームの部屋で、男は朝から晩まで、起きてから寝るまでパソコンと向き合いながらの生活を五年は続けていた。

 作業が機械化されたことにより人間の労働力は機械に乗っ取られていく、そして職を失った人のがこの男だ。

 昔は貯めておいた給料で生活していたが、お金は使えば無くなるもの、気づけば手持ちは消え去っていた。

 機械化のご時世だ、就職活動をしたって有能な人材、アイディアマン以外は人の出番が減り、いつしか男は就活もやめていた。

 そんなとき起こったのが政府からの支給だ。毎月一日に決まった額入るように世界は変わっていった。その代償か、働く人も消えていく。

 そうして出来上がった社会は機械が世界を動かすようになっていた。


「はぁ」


 ため息一つ。

 家も出ず、やることといったらオンラインPCゲームのみとなっている男。

 ゲームの世界も管理しているのはプログラムだ、人工知能を組みこまれ人の手は既に離れており、書き込まれたプログラムと、要望や問い合わせで貰った言葉を理解し、アップデートして、月一回ほどの大型イベントをこなすのみとなり、大きい変化はなくなっていた。

 それでもやることのない男はそのゲームをやっていた。

 だが、プレイ人数は日に日に減っていた。昔よく一緒に遊んでいた男のゲーム内の友達もやっている人が減っている。

 男はそれでも続けていた。それしかやることがなかったからだ。昔は楽しかったゲームも今では惰性で続けていた。


 カタン、と頼んでおいた荷物が届いた音がする。

 宅配物は自宅にある専用のボックスに入れられて届く。なので家から出る必要はない。

「…………はぁぁぁ」

 大きなため息。

 前のめりだった姿勢から、座っているソファーベッドに寄っ掛かった。

 その時、モニターの映像が変わる。寄っ掛かったときリモコンを押したのだろう。

 パソコンといってもテレビの機能もついている。

 変わったチャンネルではニュースが流れていた。

「……俺ももうダメかな」

 男は立ち上がりベランダに出た。

 風に当たること十分、男は姿を消した。五階のマンションのベランダから。





 男の部屋のモニターにはニュースが流れていた。

 映像の中には女性の姿が。

 見る限りは普通の女性だ。

 しかし、声は機械音が混ざる声であった。

 彼女はまだ生まれてまもない。

 ニュースの内容はこうだった。

『開発されていた新たな人工知能の実験は成功。これからは知能、自我を持った人形ロボットが増えていくと予想される』と。




 -----




 21**年

 世界には人があふれていた。

 外を歩くとみんながみんな忙しそうに歩いている。

 だが、行きかう人の表情は硬い。

 そんな時、1人の女性がつまずき転んでしまった。

「いたっ!」

 そんな声にその場の時間が止まった気がする。

 そう、忙しそうに動いていた人たちが一斉に転んだ女性の方を向いて止まっていたのだ。

「……ううっ」

 震えた声で女性は呟くとすぐさま立ち上がり走りだした。

 女性の膝は擦り向いており血が滲んでいたが周りの人はそんな事誰も気にしない。

 女性がその場から居なくなると何事もなかったかのように世界は動きだした。



 ♦♦♦



 誰もいなそな路地の裏。

「……生きづらい世の中だわ」

 膝にハンカチを当てながら先ほど女性はぼやいていた。

 既にこの世界は人型ロボットの方が人間より人口が多くなってしまっていたのだ。

 だけども世界は変わらずに回っている。

 絆創膏あったかしら?

 そう考えながら女性が持っていたカバンの中を探していると何かが擦れる音が聞こえてきた。

 女性は動きを止め、音の方を振り返る。

 なんせ人型ロボットは故障をしていない限りそんな音はださないのだから。

 路地の奥から擦れる音は響いてきていた。そして人影も段々と近づいてくる。

 人影の動きで音の発信源はわかった。足だ。靴と地面が歩くたびに擦れて音が出ていたのだ。

 靴の裏がすり減っちゃうじゃないの。

 そう女性は考えたが口にはせず、通行の邪魔にならないよう体を少しずらし絆創膏の捜索に戻った。

 ――――だがその行動もまた中断させられた。

「こんにちは、お嬢さん」

 足音が止まって不思議に思い顔を上げた女性に、足音を鳴らして歩いていた男は話しかけてきたのだ。

「えっ……」

 女性は不思議に思った。

 それもそうだ、見ず知らずの人に話し掛ける人間なんてこの女性の近くにはもういない。人間ですらもロボットを頼りに暮らしている人が多いのだから。

「さっきは災難でしたね」

 足音を鳴らしてきた人は、女性と同じ高さになるようにしゃがんできた。

 見ていたの!?

 驚いたが声はださなかった。息を呑む音は聞こえたかもしれないが。

「貴女もこっちで暮らしませんか? ロボットのいない、人間だけの村で」

 いきなりの問いかけだ。

 近くで見ると、この人は男性だ。短髪でスポーツをしていそうな爽やかな髪型に、スーツ姿。そして革靴。ビシッとしているのにも関わらず、革靴のかかと部分がすり減っているのを女性は横目で確認できた。

「む、村って……?」

 そんな女性が戸惑いながらも出した一言。

「このご時世、ロボットのいない人間だけが暮らす場所も必要だという意見が仲間から出ましてね、人集めをしているんですよ。もちろん嫌なら断っていただいても大丈夫ですので」

 笑顔で言う男性に女性は更に驚きの表情へ。

「……その、その場所はみんなで助け合って生きて行けるのですか?」

「それはもちろんです! ご近所付き合いもできて助けた助けられての生活が出来ますよ」

 とある事情で親元から家出のように出て来てしまった彼女は人のぬくもりに、やさしさに飢えていた。男性のその言葉が一番の決め手となる。

「い、行ってみたいです!」

「本当ですか! では今すぐに行きましょう。この誰が動かしているかわからない世界からの離脱を!」

「え、今すぐですか?」

「はいもちろんです。怪我は車で処置させてもらいますよ。ささ、早く」

 男性は彼女の手を取り来た道を戻り始めた。

 引っ張られているのだから当然彼女も一緒だ。

「あっ、荷物が」

「そんなものこれからは必要なくなりますよ」

 足音を鳴らしながら男性は歩いている。女性はカバンを気にしていたが、引っ張られていくにつれ諦めがついたのか前を見て歩き出した。


 人との関わりが希薄となった世界か、はたまた人とのしがらみが多い世界か。

 前者は女性が今いた世界、後者は女性がこれから行く世界。

 どちらが良いのか、ないものねだりなのか。そんな事は人によりけり。

 人間のわがままで世界は回っているのかも知れない。





閲覧ありがとうございます!

久しぶりの投稿でした(笑)


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