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異世界野口加藤  作者: 卯上
プロローグ
5/14

04:野口が目ざめたとき

 野口が目ざめたとき、自分がベッドの上でひとりのよくいる野口に変ってしまっているのに気づいた。

 要するに普通の野口だった。ベッドではなくソファで、加藤だが。


 目ざめて最初にしたことは頭頂部の確認だった。幸いなことにハゲてはいないようだ。安堵の吐息が漏れた。握手をして空いた左手からの一撃だったので、上手く加減されていたのかも知れない。これが右手だったり、利き腕が左だったりしたら死んでいたことだろう。


「殺す気ですか」

「ん? ちゃんと手加減しただろう?」


 殴られたところを撫でつつ言う加藤に、左手(・・)に持ったペンを書類に走らせながら、悪びれることもなく答えるガースニクス。

 どうやらここはギルド長室であるらしい。

 その傍らには加藤が気を失っていた間に来たのか、初めて見る顔のオネエさんがいた。


「はじめまして。商業ギルドでギルド長をしているハンナです。ガースがごめんなさいね」


 ガースニクスのかわりに、長い赤毛を揺らしながら謝罪の言葉を口にするハンナ。どうやら、ガースニクスが加藤へコークスクリューブローをお見舞いする直前に出していた指示は、この人を呼びに行かせるためのものだったのだろう。

 だとすれば、加藤が持ち込んだ塩と胡椒は商業ギルドで買い取ることになったということなのだろうか。


 ……だったら殴られる理由、無くないか?


 そう思いガースニクスを睨むが、ガースニクスは頭を掻きながら書類に苦戦していて気づかない。


「治癒魔法を掛けたから、こぶもハゲも無いと思うけど……」

「え?」


 ハンナから心配そうに続けられた言葉に、しかし加藤は聞き捨てならない単語を捉えた。


「……ハゲてました?」

「そうですね、円く」

「……」


 加藤は無言でガースニクスを再び睨む。今度は殺意を込めて。


「ん、なんだ? それよりおい、書き終わったぞ」


 ガースニクスは何故睨まれるのかわからないといったふうに首を傾げながら、書き終えた書類をハンナへ渡す。


「……はい、ここ抜けてる。あとこことここ綴りが違う」

「だあッ! ちくしょうめんどくせえッ!」


 ハンナの容赦ないチェックに頭を抱え仰け反るガースニクス。そこからの反動を込めた勢いで加藤へ指を突きつける。


「お前があんなもんをウチへ持ち込むからだぞ!」


 加藤は何言ってんだと思ったが、再び書類と格闘し始めたガースニクスとそれを監視するハンナを待つ間に、ルルア嬢から説明があった。


 草花や鉱石、獣の肉や皮に牙、他の街や村で手に入れた特産品など、冒険者が持ち込むものは多岐に渡る。

 そういったものは、基本的に冒険者ギルドがまとめて買い取りをし、それぞれの用途や目的に添って分類し商業や職人などの各ギルドへ卸すそうだ。 もちろん仲介料を取られることになるので、それが嫌だと言う者は直接それぞれのギルドへ持ち込むことも許されている。

 ただ、どのギルドも冒険者ギルドとはそこそこ離れていることや、取引をするならそれぞれのギルドへの登録が必要になること、また各ギルドも小口の個別持ち込みよりは冒険者ギルドの方である程度一括にして卸してもらう方が有り難いという双方の理由から、基本的にそういったことをする冒険者はいない、らしい。


「今度から直接商業ギルドへ持ってけよ!」


 ハンナからようやくOKを貰えたガースニクスが吠える。そのまま机に突っ伏してしまった。


「……ギルド長がいきなり今の説明を覆してきたけど?」

「あ、あはは……」


 加藤の突っ込みに苦笑いしか出ないルルア嬢。

 そんな状況にありながら、ハンナは気にしたふうも無く書類を筒に入れると、それを持って部屋から出て行ってしまった。


「ハンナさんは何処へ?」

「外で待たせている商業ギルド職員のところですよ」

「ふぅん……?」


 しばらくして戻ったハンナの手には筒の他に革製らしき袋があった。


「一定の取引額までは窓口の職員で行いますし書類も必要ありませんが、それを越す大口の取引にはギルド長による書類が必要なんです。でも、ガースは冒険者叩き上げだから書類仕事が苦手なんですよ。ね?」


 そう言って笑いながらハンナは筒から書類を取り出す。よく見ると先ほどのものとは違うもののようだった。


「はい次はこっちね。ちゃんと読んでサインね」

「ああもうめんどくせえ……それもこれもノグチ! お前のせいだからな!」

「八つ当たりじゃねえか。大丈夫かこのギルド」

「あ、あはは……その、窓口は事務の得意な者が就いてますから……」


 微笑みを絶やさないハンナに起こされたガースニクスが再び吠え、加藤が突っ込み、ルルア嬢が何気にギルド長が役に立たないことを証言した。


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