11:野口だから仕方ない
短いですが。
あと、サブタイトルと本文との関係性を変えました。
2016.06.22
ルースとルクスが逆でしたので修正しました。
「さて、どうするかな……」
ギルドにて本日の生活費を貰った加藤は、そのまま外へ出ることはせず、クエスト掲示板の前に立っていた。
あれから。
つましく暮らすなら一生働かなくてもいい程度の貯金があるとはいえ、元の世界に比べて娯楽の少な過ぎるこの世界。
冒険者として最低限の知識や基礎を身に付け、ノグチクエストを終了してみたところ、することが無く暇を持て余すようになってしまった。
そのため、こうして簡単なクエストを受けて暇潰しとプラスアルファの小銭稼ぎをすることにしていたのだ。
「んん……今日はおつかい系が無いなあ……」
中でも、街の地理を体感で覚え、人とも繋がりの出来るおつかい系のクエストを好んでいたのだが、残念ながら今日は出ていなかった。
「お、ノグチじゃないか」
ならば今日はどのクエストを受けようか。掲示板の前で吟味する加藤へ、後ろから声が掛けられた。
「ん? ああ、ルクスさんじゃないですか」
そこに居たのは、初日に加藤へ忠告をしようとして煙に巻かれたひとりで、その後「ノグチクエスト」のひとつでお世話になったことから親しくなった冒険者だった。
「……ルースだけどな、名前」
「あれ?」
ジト目を向けられる加藤。親しさと記憶は比例しなかった。
「お前、全然覚える気ないだろ」
「いやあ、アレですよ。あだ名? 的な?」
「あやふや過ぎるだろ。というかルースのあだ名がルクスってなんだよ」
あやふやが過ぎる加藤の物言いに呆れた顔で突っ込むルース。次いで溜め息まじりに「まあ、ノグチだからな」と首を振る。
「え? なんですかそれ」
「あ? お前ね、ここに来てからまともじゃねえことばかりしといて何言ってんだよ」
さらなる溜め息を吐いたルースが、指折り加藤の所行を数え上げる。
「馬鹿みたいな胡椒の持ち込み。馬鹿みたいなクエスト発注。馬鹿みたいな酒盛り。馬鹿みたいに学があるくせに馬鹿としか言いようがない魔法知識の無さ」
「おい今なにか違うのが混ざったぞ」
「黙れよ。ノグチのくせに生意気だぞ」
「うえーんドラ●も~ん!」
「ん、なんだ? いきなりどうした?」
「……くっそ、素で返されるのがこんなにもつらいなんて!」
崩れ落ちる加藤。
今や親と子、祖父母と孫のみならず日本と世界をも繋ぐ猫型ロボットも、当然ながら異世界では認知度がゼロだった。
……この世界に来て一番ヘコんだかも知れない……。
いきなりの状況に数える手を途中で止めてドン引きするルクスをしり目に、いつか『ドラえ●ん』をこの世界でも広めてやると心に誓う加藤だった。
「……まさに今、まともじゃない姿を見せられているわけだが……」
両手を地面についてうなだれながら「ド●えもんをこの世界にも!」と雄叫びを上げる加藤に、ドン引きから戻ったルースが今度は白い目を向ける。
「……こんな、わけのわからない馬鹿みたいなことばかりやっているかと思ったら、今までの自分たちが馬鹿だったんじゃないかと思えるようなことをやってみせたりするんだから、判断が出来ずに『ノグチだから仕方ない』で済ませてるって……わかってねえんだろうなあ……」
ルースは盛大に溜め息を吐くと、うなだれた格好のまま「まずは『おざし●つりぼり』からだ……!」と意味の分からないことをブツブツと呟きながら謎の闘志を燃やす加藤へ、会った全員が漏れなく一度はしたという表情……個人的には何度目になるか数えるのも嫌になるくらいのそれ……呆れ顔を向けるのだった。