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9話

「……非常に難解」


 率直な感想。

 と言うよりは、色々言いたいことを飲みこんだ末のような奥歯にものの挟まった言い方だった。



 暗闇は、サインを囲みます。もので痛いが、彼であることなく、忍耐日光存在、3日と夜日光省略形の毒。



 非常に難解っていうか。

 意味不明だ。


 元の文章を知ってる俺は、なんとなく意味がわかるが……

 これ、かみ砕いて伝えても意味がないんだよなあ。


 なるほど。

 世にある『預言』というものが、どうしてあいまいな表現になったのかわかる気がする。

 みんな再翻訳されてたんだな。


 俺が静かに納得しているあいだにも。

 ノイは考えこむ。



「……暗闇はサインを囲む……サインとは、なに?」

「悪いが詳しい解説はできない……どうにもわかりやすくかみ砕いて伝えたりすると、預言としての効果が薄れるらしいんだ」

「……わかった。がんばる」

「がんばれ」

「…………唯一わかるところは、日光省略形の毒、のあたり……」

「そこわかるのかすげーな」

「……日光は毒、みたいな意味にとった」


 どう? と視線が問いかけてくる。

 俺も同意だが、反応できない。


 伝えると預言の効果がなくなるかもしれないというのもあるが。

 そもそもの女神語だって、難解ではあるのだ。

 解釈が間違っている可能性もあるだろう。


 だから。

 ノイは一人で悩む。



「日光は毒……忍耐日光存在……つまり、日光という存在に耐える? あ、違う。妹は日光をほしがってるから、日光を浴びないように、耐える?」


 ナイスだ。

 なるほど、俺が預言の原文を知っているのと同様、ノイは妹の実情を知っている。


『日光』『忍耐』と並んでいれば、普通、『日光に耐える』ととりがちだ。

 だが、妹が日光を浴びたがっていると知っていれば、『日光を浴びないように耐える』という解釈が可能となる。


「……3日と夜、日光省略形の毒……三日と、三日目の夜、日光……は毒……?」

「ふむ」

「……もので痛いが、彼であることなく……もので痛い? 彼であることなく?」


 ノイは悩み続ける。

 そして、ついに。



「……預言を解き明かした」



 無表情ながら。

 達成感を感じさせる雰囲気で、言う。

 俺は彼女にたずねた。


「正解を教えてくれ」

「……わかった。まず、サインとは病状のことで、『暗闇が病気になった人を囲む』……つまり、『病人を暗い場所に入れろ』ということだと思う」

「ふむふむ」

「……『もので痛いが、彼であることなく、忍耐日光存在』は…………『痛いけど日光を浴びないよう忍耐しろ』という意味だと解釈した」

「『彼であることなく』は?」

「あきらめた」


 バッサリ切り捨てていく。

 だが、重要な決断だ。

 意味不明な言葉に拘泥してないで、全体を見るのはいいアイディアだと思う。


 ……なんか。

 英語の翻訳を教えてるみてーな気分だな。


「で、最後の『3日と夜日光省略形の毒』は」

「…………三日と、その夜、日光が簡易的な毒のようなものとなる……みたいな意味ではないかと推測した」

「つまり?」

「全部合わせると、『三日間、暗い部屋に入れて日光を浴びさせないようにしろ。痛いが忍耐』」


 正解!

 ……だと思う。


 俺自身すべてを知ったうえで預言しているわけではない。

 なので、ノイの意見が正しいかはわからない。

 でも、彼女ががんばって導き出した答えは、きっといい方向に事態を転がすような気がした。



「……ありがとう」



 ノイは言う。

 俺は、首を横に振った。



「まだ治療が成功したわけではないんだ。お礼を言うにしても、気が早い……そもそも俺の功績でもないしな」

「それでも、ありがとう。……もうすぐ着く」

「着く?」

「……わたしの国」



 馬車の小窓から外を見る。

 すると――


 ノイの国。

 半獣族の国家が、見えてきた。

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