7話
たとえばネットを使うことができたら。
俺はきっと、『世界一の名医』というワードで検索しているだろう。
……たとえそんなことができたとしても。
きっと、無駄に終わっただろうけれど。
「……妹は、体が植物化するという病にかかっている」
馬車の中。
ノイはそんなことを言った。
「えっと、植物化っていうのは……うまく体が動かせなくなることの比喩かなにか?」
「……違う。体が、植物に、変化していっている」
世界一の名医もさじを投げる。
それ、俺の世界じゃ『病気』じゃなくて『呪い』って呼ぶんだけど。
そもそも治るようなもんなのか?
と、口にしかけて、さすがにやめた。
ノイは。
たった一つの希望にすがるように、俺を見ている。
彼女の前で、彼女の妹の病状に対するネガティブな発言はやめた方がよさそうだ。
「ちなみに、この世界に魔法的なものとかないの? 念じるだけで傷がふさがったり、手のひらから炎の玉を出したり、みたいな」
「…………それは、現実に、そういうことができる人がいるか、という、問い?」
「そうだけど」
「……いない。お伽噺では、見る題材」
魔法なし異世界なのか。
あるいは――この世界の人々が、実在する魔法にまだ気付いてないだけとか?
可能性は色々考えつくが。
とにかく。
ノイの妹をどうにかできる不思議パワーは存在しないと、彼女は認識している。
「……このまま妹が死ぬのは、だめ」
「そりゃ、姉の気持ちとしてはそうだろうけど……」
「………………姉としては、もちろん、そう。だけど、もっと違う意味が、ある」
「どんな?」
「……妹の病状が、木精族の呪いではないかという意見が、国に広がっている」
木精族。
たしかこの世界にいるという、八つの種族の一つだ。
まあ、種族が一堂に会したのが三百年前らしいし。
もっと色んな種族が大陸の外にいる可能性だってあるんだろうが。
「つまり、木精族との仲が険悪だって?」
「……そうなりかねない。伏せていたのに、漏れていた情報のせい。だから、国長として、混乱が起こる前に、解決をしないといけない。三百年続いた平和を終わらせるわけには、いかない」
平和が終わる。
その言葉は、俺にはなんだかピンとこなかった。
俺が元いた世界だって百年以内に戦争をしてるはずなんだが。
……どうするかなあ。
どうにかしてあげたい気持ちはあるけど、俺の独力じゃどうにもならない。
うーむ。
そうだな。
「ちょっと相談させてほしい」
「……できることなら、なんでもする」
「そうじゃなくって」
頭を掻く。
どう言えば変に思われないか考えて。
無理。
「女神様と相談させてくれ」
仕方なく正直に白状する。
ノイの不思議そうな顔が心に痛かった。