3話
預言者募集!
未経験者歓迎!
明るくアットホームな職場です!
給料いいみたいなんでやってみたいが、預言者とかやったことない。
預言ってアレだろ?
なんか小難しいこと言って、それっぽい出来事起きたら『ほら! 言った通りだ!』ってやる仕事だろ?
ようするに詐欺師。
悲しいかな、現代人である俺は、預言者というものをそのように認識していた。
世界滅亡も二回ぐらい預言されたけど、両方とも外れだったしな。
まあ解釈の仕方で『こういうのはようするに滅亡だ』とかいう肯定派もいるようだが。
俺は肯定派の言い訳を見て意地悪くほくそ笑む系の人だった。
ピュアさが足りない。
なので、預言なんてうさんくさいもの、信じられない。
「あの、預言者様……?」
オフィーリアが上目遣いで見上げてくる。
これは素直に『そんなんできないよ』とか言えない空気。
どうする俺。
……と、困っていたら。
電話が来た。
ピリリリッ、ピリリリッ、とか。
ジリリリリリリ! とか。
そういう音ではない。
スマホのアレだ。
色んな意味で言語に絶するそのメロディーは――
どうやら、俺が片手に持った杖から聞こえてきているようだった。
観察していると、杖についた大粒の宝石が揺れている。
俺は。
なんとなく。
その宝石を、人差し指でタッチした。
『もしもし? 女神ですが』
杖から声。
俺はオフィーリアに「ちょっと」と言って、彼女に背中を向ける。
そして、杖を耳に当てた。
「……もしもし?」
『あ、よかった。つながりました。こちらプロフェシーサポートセンター受付担当の女神です。そちら先ほど産まれ変わらせた方でお間違えはないですか?』
「お間違えはないです」
『あー、よかったよかった。先ほど別な方にかけてしまいまして。どうにも通信技術も研修通りにはいきませんね』
ところどころで新人らしいポンコツさを見せる女神だった。
やめろよ不安になるだろ。
「……で、なんの用?」
『そろそろお困りではないかと思い、連絡をさせていただきました。実は伝え忘れていたのですけれど、あなたは次の人生……今お過ごしの人生を、預言者として生きることにしました』
「そういう大事なことはちゃんと説明してくれないかな」
『申し訳ございません。衷心よりお詫び申し上げます。二度と同じ失敗のないよう努めますので、以後もよいお付き合いをお願いいたします』
「社会人トークやめろよ……」
なんかアレルギーが出る。
心の距離がうまくはかれない。
『ところで、預言を求められていますよね?』
「そうなんだよ……あ、近くにその、預言がほしいっていう女の子がいるんだけど……急に電話みたいなことして変に思われないかな?」
『そうですね。わたくしの声はあなたにしか聞こえない仕様ですので、変な目では見られているのではないでしょうか?』
「じゃあもうちょっと連絡方法考えろよ!」
『ごめんなさい……頭に直接声を伝える方法もあったのですが』
「そっちのが杖に話しかける変人に見られるより、いくらかマシだ」
『でも、慣れないことをして破裂したりするとご迷惑かと思いまして、安全策をとらせていただいた次第です』
「破裂!?」
『次から頭に直接しますね』
「いや! いい! 杖にかけて杖に!」
『そうですか? ではお言葉に甘えて。……それでですね、預言ですが』
女神の声がやや真面目なトーンを帯び……
いや、最初から真面目だな。
真面目におかしいのだ。
ともかく聞きたい情報だ。
俺は居ずまいを正す。
「やったことないんだけど、研修とかやってくれるのか?」
『いえ、預言はこちらから伝えることになっております』
「そうなの? 俺は考えなくていいの?」
『はい。今回の人生はあなたに苦労をさせない最高の人生になる予定ですので、難しいことはこちらでやっておきます』
「そうなのか……なんか申し訳ないな」
『代わりに、わたくしの伝えた預言は、一言一句変えずに伝えていただきたいのです。預言というのはただ同じような意味のことを伝えればいいわけではなく、文字の一つ一つが未来を確定させる力を持ちます。つまり、違うことを言うと当たりません』
「お、おう……ちょっと緊張するけど、わかったよ」
『それではお伝えしますね』
「頼む」
こほん、とかわいい咳払いが聞こえる。
そして。
『国家安泰せしめんと欲するならば、我が預言を聞くがいい。幸福は発展とともにあり。多種族協調せしめんがため、議会催せと勅す』
……つい、言葉を失った。
格好いい。
女神の声と、荘厳な言葉がマッチして、とても神聖な雰囲気を醸し出していた。
古語なのか、女神語なのか、意味はわからないが。
まあそれは聞き手が勝手に解釈してくれるだろう。
……たぶん『みんな集めろ』ぐらいの意味だ、と、わかればオッケーだ。
「……わかった。これを言えばいいんだな?」
『覚えましたか?』
「うーん、なんとか。あ、でも不安だから、聞きながら言ってもいいか?」
『わかりました。万全のサポートをお約束いたします』
「よし」
くるり。
振り返って、オフィーリアを見る。
彼女はびっくりしたように体をすくませる。
それから。
「あ、あの、預言者様……用事……? は終わりましたでしょうか……?」
「うん、大丈夫だ。えー、それでは預言だな。授けるから、しっかり聞いてくれよ」
「は、はい!」
瞳がきらきらと輝く。
その期待に応えられるように、俺は、一言一句間違えない決意をもって、口を開き。
「女神、頼む」
『わかりました。では、復唱してくださいね』
咳払い。
そして。
『国家安泰せしめんと欲するならば、我が預言を聞くがいい』
「それが望み、私の予言が聞かれる時には、私は国の平和の外で詐欺をしないけれども、それはよい」
『幸福は発展とともにあり』
「開発を持つ繁栄がある」
『多種族協調せしめんがため、議会催せと勅す』
「私は様々なファミリーを協力させないけれども、帝国の布告は保存し、確実な『集会を催しなさい。』をする」
そして。
沈黙が降りた。
……アレ。
なんかおかしくね?
電話口の宝石にささやく。
「……おい女神、なにかおかしいぞ」
『あ、あなたもそう感じられましたか? 実はわたくしも、ちょっとおかしいと思っていたところなんです。一回、お一人で言ってみてくださいますか?』
「わ、わかった」
咳払い。
それから、改めて、女神に言われた通り、預言を告げる。
「それが望み、私の予言が聞かれる時には、私は国の平和の外で詐欺をしないけれども、それはよい。開発を持つ繁栄がある。私は様々なファミリーを協力させないけれども、帝国の布告は保存し、確実な『集会を催しなさい』をする」
……うん。
うん。
わかったぞ。
「再翻訳されてるじゃねーか!」
思わず電話杖に叫んだ。