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28話

 魔王になる前にちょっと興味が出たので聞いてみる。




「ちなみに、預言で解決しようと思った場合、どういうことを言うつもりだったんだ?」




 仮にも今まで預言者でやってきたのだ。

 気にはなる。


 あと、これで伝わりやすそうなら、魔王になるのは保留でもいいかなという気持ちもあった。

 いや、新しいこと始めるのは、なんだかんだ言ったって怖いし。

 現状維持で充分なら、それが一番怖くない。


 俺がたずねると。

 女神はスーツのポケットからなにかを取り出した。

 ちょっと大きめのスマホに見える。


 なんだろう?

 気になってのぞきこもうとするが――

 女神はすぐにその端末をポケットにしまってしまう。

 それから。




「『のどけき光は黄金の、水面照らすはあかね色。月に黒雲たちこめて、蓋をするのは深い藍。切れ目は東の紫で、差し込む金色呑み干せば、暗雲晴れてもとの色』……となるみたいです」

「……ちなみにそれ、女神が考えてるのか?」

「いいえ。『この場合の預言』で検索して、ヒットしたものをそのまま読み上げています」

「その機能を俺に搭載してくれたら、まわりくどい羽目にならなかったと思うんだが」




 検索させてくれよ。

 なんで俺、ネットで調べられることわざわざ聞いてくるおばあちゃんみたいになってんだ。

 完全に無駄手間じゃねーか。



 ともかく今回は、今までに輪を掛けて意味不明だということだけは伝わった。

 原文ですら意味わからん。

 再翻訳されたらただの地獄のような気がする。


 と。

 女神がなにかを期待するような目で、俺を見ていた。

 俺はたずねる。



「どうした?」

「いえ、実はですね、ここに来る前に、もう一回、変換器をいじってるんですよ」

「そうか。お疲れ様。いやあ、大変だったろうな。それじゃあ話を戻すけど――」

「読み上げてください」

「…………悪いんだけど、結果が見えてるし……」

「いえいえ! きっと、今回こそは大丈夫ですって! いけますよ! スクールも卒業しましたしきっと大丈夫!」

「卒業早くない?」

「『お前にはもうなにも教えたくない』と言われまして、見事卒業と」

「追い出されただけじゃねーか!」

「わたくしの直観ですと、今回はいける気がするんです! 試すだけ! 試すだけですから!」

「んー……いや、ほら、やってみるまでは、失敗か成功かわからないから、成功してるって信じることもできるだろ? 俺はこれでもあんたには非常な恩義を感じているし、いたずらに傷つけるような真似はしたくないっていうか」

「なんで失敗前提なんですか!? わたくしを信じてくださいよ!」

「信じてるからやりたくないんだよ……」



 なにこの、駄目な方の信頼感。

 成功するヴィジョンがまったく見えないぞ。

 しかし……ここまで言われたら、やるしかないよなあ。


 これで預言も最後だろうし。

 記念受験みたいなもんだと思えば、まあ……



「わかった。言う」

「お願いします」

「でも、女神、悪いんだけど、一緒に言ってくれないか? 俺は復唱するから。今回のは特に覚えにくいし」

「わかりました。二人の共同作業ですね」

「そうだな、俺の気分が先生に無理矢理漢字の書き取りをやらされてる小学生みたいなものじゃなければ、その表現はきっと間違ってないんだろう」



 やりたくねえなあ。

 こんなことして、なんの意味があるんだ?


 こんなにテンションのあがらない共同作業は、小学校の時、組み体操でみんながピラミッドやってるのに俺だけ横でよくわからないポーズとらされた時以来だよ。

 二人組とか作らせるんじゃねーよ。俺があまるだろ。


 ……いらないトラウマを掘り返しそうになった。

 俺は咳払いをする。



「それじゃあ、頼む」

「わかりました。では、復唱をお願いします」



 一瞬の呼吸。

 それから、女神は荘厳な声で、歌いあげるように言う。



「のどけき光は黄金の、水面照らすはあかね色」

「水、私の金表面の上のライトもそうである置く置くライトが見ること、お金 色づく」



「月に黒雲たちこめて、蓋をするのは深い藍」

「黒い雲が月に漂い、深い藍色というふたを置くために」



「切れ目は東の紫で、差し込む金色呑み干せば、暗雲晴れてもとの色」

「たとえ東の紫のため、カットが、入れられた金と乾燥期に適応する時に暗い雲が消えて 色 ても」




 俺と女神は、顔を見合わせた。

 俺たちは笑う。

 二人のあいだには、たしかにやりきった空気が流れていた。


 俺は。

 言おうかどうしようか、まばたき一回分ぐらいの時間悩んで……

 やっぱり言うことにした。



「最後まで駄目じゃねーか!」



 女神は笑ったままだ。

 そして、言う。



「今気付いたんですけど……」

「なんだ」

「わたくし、預言者のサポート向いてないみたいです」

「気付くのおせーよ!」



 かくして俺は、魔王になる決意を本当の本当に固めたのであった。

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