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2話

 目が覚めたら。

 体がイケメンになっていた。

 別にカービィみたいになってたって話じゃないよ。



 黄金の輝きがまばゆい。

 あたり一面の金銀財宝。

 どうやら俺は、大量の金貨の上に腰掛けているようだった。


 正面には、やはり黄金で縁取られた大きな鏡がある。

 そこには俺の姿らしきものが映っていた。


 金髪のイケメン。

 長い豪華なローブをまとい、右手には宝石のはまった錫杖を持っている。


 人形のように――という表現を、人間、それもまさか自分に使うとは思ってもいなかった。

 整いすぎて怖いぐらいの顔立ち。



 で、ここどこ?



 立ち上がって周囲を見回す。

 そう広くない部屋だ。

 扉はすぐに見つかった。


 分厚く大きな扉を押したり引いたりする。

 まったく開く気配がない。

 内側に鍵は見えないので、どうやら外から施錠する部屋のようだ。



「おーい、開けてー。開けてよー。開けてくれよー」



 呼びかける。

 すると――



 外の光とともに、

 誰かが部屋に入って来た。

 逆光で見えないその人物が、おどろいたように言う。



「……まさか、預言書の通り!?」



 女性の……いや、少女の声だ。

 この声は十代半ばだろう。

 俺は詳しいからわかるんだ。


 だんだん逆光に目が慣れてくる。

 すると、そこにいたのは、やっぱり予想通りぐらいの少女だった。



 気品のある顔立ち。

 高級そうな白い、ミニスカートのドレス。

 髪の色は黒で、そこそこ長い。


 頭にはティアラが乗っかっていた。

 俺は問いかける。


「……君は?」


 少女は。

 びっくりしたように固まる。

 が、すぐに立ち直って、緊張した面持ちで答えた。



「あ、は、はい。その、私は…………」

「……私は?」

「……えっと、私のことを知らない人と初めて会話をするので、自己紹介の作法がわかりません」


 すげー経歴だな。

 俺は助言する。


「名前と性別、この大学を目指した理由と、あとは特技、資格などを言ってくれればいいから」

「大学?」


 首をかしげる。

 いけないいけない。

 受験を引きずってるようだ。


「大学はともかく、まずは名前」

「オフィーリアです」

「はい。性別……は……一応聞いておくか。女の子だよね?」

「あ、は、はい。そうです」


 よかった。

 こんなにかわいい子が男の子だったらどうしようかと。


「職業は?」

「え、職業ですか……うーん」

「無職でもいいけど」

「いえ、その、公務を少々」

「公務?」

「人間族の王女です」


 王女様でしたか。

 ……どうしよう、俺、彼女にめっちゃ偉そうなこと言っちゃってる気がする。

 まあいいか。


「どうして王女を目指したの?」

「えっ……? いえ、その、目指しては、ないです……自然とそうなっていたというか」

「……そうだよね」


 どうにも大学入試から離れきれない。

 というか。


「気になる単語を思い出した。『預言書』とか言ってなかった?」

「はい。あの、自己紹介の途中ですけどご説明してもよろしいでしょうか?」

「どうぞ」

「多民族が集うこの大陸では、すべての国が『預言書』に従うことで、平和な世界を創り上げてきたのです。ですが……預言書は、今日までのことしか記されていませんでした」

「今日まで?」

「はい。今日以降のことは、預言者に聞けと……その預言書には記されております」

「預言とか信じる世界観なのか……」


 なんという宗教政治。

 自分のいる国が預言をもとに行動してましたとか、マスコミに叩かれること待ったなしだ。


「それで、新たな預言を求めて来たのです」

「へえ。でもなあ、預言とか不確かなもの頼るのはどうかと思うけど。ほら、未来は自分で切り開いていくものじゃん?」


 俺が言ってここまで虚しくなる言葉もそうはないなと自分で思った。

 自力で未来を切り開けなかった実例が俺です。


「あ、え、あ、う……そ、その、それで、預言をしてくれる人、つまり預言者が、この日、我が城の宝物庫に現れるというのが、記されておりまして」

「へえ。うさんくさいなあ……」

「それで、ですね」

「うん?」

「あなたが、預言者です」


 言いにくそうだった。

 言っていいのかな? という戸惑いが見えた。


 俺がさんざん『預言』を馬鹿にしたからだ。

 自分で自分をけなしていくスタイル。


 俺は。

 状況を理解した。

 女神様のはからいだ。




 ――あなたはもう、努力しなくていいのですよ。

 ――あなたは発言するだけで幸運が舞いこみ、

 ――存在するだけで金銭が舞いこみ、

 ――微笑むだけで女性が舞いこむ、

 ――そんな人生をご用意いたしますわ。




 発言するだけで幸福が舞いこむ。

 つまり――預言だ。


 存在するだけで金銭が舞いこむ。

 つまり――宝物庫スタートという現状だ。


 微笑むだけで女性が舞いこむ。

 つまり――このイケメンフェイスだ。



 新しい人生、始まったな。



 予想以上の好スタートに、自然と頬がゆるむ。

 そんな俺へ、オフィーリア王女が遠慮がちに、おずおずと告げた。


「あの、あの、それで、お願いがありまして」

「なに?」


 期待を込めた視線で。

 あらかじめ用意していたセリフのように。




「預言をください。預言者様」




 俺にはどうしたらいいか見当もつかないことを、要求してきた。

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