19話
「石化は治る。一緒に、さっきの預言について考えよう」
女神との会話……というか俺の不用意な発言を拾われてしまった。
なので、素直にそう提案した。
いや、隠してもボロが出るだけだしね。
ベリアルは。
右腕で、左腕をおさえた。
隠すような動作だ。
「それも女神から聞いたの? いやね、秘密をぺらぺらと。女神って性格悪いんじゃなくて?」
「否定できねえ……いや、まあ、それはそれとしてさ。さっきの預言は、どうやらベリアルの石化を治すためのものだったらしんだ。詳しくは、わからないけど……っていうか、詳しく教えてもらうと、どうやら効果がなくなるみたいなんだけど」
「……さっきの預言、ねえ。なんだったかしら。覚えにくいわ」
「『五愛らしい私たち君です! 返還に最上の幸福あるんじゃないのをウォヌァバ、右杉迷惑脱いでのにドアを開けようとしてもする! なので本当の愛停滞( 正体)を分かるだろう!』だ」
「どっちみち謎めいてはいるわね」
重いため息をついた。
助かるための手管がこれほど意味不明では、ため息も出るだろう。
少しでもやる気が出るようにフォローなどしてみるか。
「一応、個人の問題をどうにかできたっていう実績はある」
「実績? ……ああ、半獣になにかしたって言ってたわね」
「……これ、言っていいかわからないんだけど、誰にも口外しないって約束してくれるか?」
「あら、秘密のお話? いいわね、ベリアル様そういうの好きよ。ダーリンが言うなら誰にも言わないって約束しましょ」
「……預言拝聴者のノイがいるだろ」
「一緒にいた半獣でしょ」
「その妹が、体が植物になるっていう奇病にかかってたんだけど、預言で治した」
「は? 体が植物になる? そんなのあるの?」
「あったんだ」
「…………他の種族も、おかしなことになってるのね」
「そうみたいだな。……だから、預言はそれなりに効果があると思ってくれていい」
「ふぅん? ……でも、解き明かしたところで気は進まない結果になりそうね」
ベリアルがかわいく唇をとがらせる。。
石化が治るのに気が進まない?
俺は首をひねる。
「どういうことだ?」
「ベリアル様ね、今ちょっと考えたのよ。預言はだいたい意味わからないじゃない? だから、文章としてつながらないところは全部省略してみたの」
「なるほど」
「そうすると『愛らしい君! 返還に最上の幸福あるんじゃないの、脱いでのにドアを開けようとして! なので本当の愛を分かるだろう!』ってなるじゃない?」
「半分ぐらいの文章量になったな……」
「まあ、残り半分は今度気が向いたら考えるわ。で、これを綺麗に直すと『愛らしいあなた。最上の幸福を取り戻そうとするなら、脱いでドアを開けなさい。そうすれば本当の愛がわかるだろう』ていうふうにならない?」
「なるかもな」
「で、ベリアル様が『愛らしい君』でしょ? だって愛らしいものね」
「……まあ」
否定はすまい。
たぶん、俺が今まで見た中で、一番『美少女』という表現が似合うだろう。
「『最上の幸福』は、この預言が本当に石化を治すためのものなら、『石化してない状態』を指すと思わない?」
「なるほど。……ひょっとしてベリアルって、実は頭がいいのか?」
「……どういう意味よ」
「い、いや」
出会った時に馬鹿みたいな発言してたから……
とは言えず、あいまいに笑った。
ベリアルはふん、と鼻を鳴らす。
「傷ついたけど、ダーリンの言うことだもの。我慢するわ。……それでね、『脱いでドアを開けなさい』っていうのは、『全裸で外に出なさい』っていう意味になるじゃない?」
「……なる……のかなあ」
「つまり、ベリアル様が全裸で外をうろうろすれば、石化は治るのよ」
なるほど。
……なるほど?
「いや、俺も意味がわかってるわけじゃないからなんとも言えないけど、そんなことありうるのかなあ……?」
「石化を治すために色々したわ。でも、全部駄目だった」
「……」
「でも、さすがに『全裸で外をうろうろする』なんてしたことはなかったわ。恥ずかしいものね。だから可能性はないでもないと思うのよ」
うーむ……
原文を知っている俺も、なるほどその可能性はあるかもと思ってしまうのだが。
ただ一点、気になるところを思いついたっていうか。
「この預言ってさ、女神から伝えられたものなんだよ」
「そうみたいね」
「でさあ……女神はどうにも、ベリアルのこと、嫌いみたいなんだよな」
「あら? 女神とやらも大したことないのね? ベリアル様の万民に愛される美しさがわからないだなんて。頭が腐ってるんじゃなくて?」
「うん、まあ、その……で、女神が告げた預言の中で、ベリアルが『愛らしい君』扱いされるかなっていうのが、疑問なんだよなあ。いや、見当違いの可能性も高いけど」
気にしすぎかもしれない。
でも、女神が『ベリアル』を『愛らしい』と言うことは、ないように思えた。
……いや、そもそも。
預言自体が、女神がその場で考えたものじゃないっていう可能性も大いにありそうだし。
まったく無駄な考えかもしれないんだけれど。
「ふーん、ダーリンはダーリンで思うところがあるのね。ちなみにだけど、女神が『愛しい』って言いそうな相手に心当たりはあるわけ?」
心当たりなんて……
いや。
あるな。
「えっと」
「あるのね?」
「……その、なんと言いますか…………俺です」
「はあ?」
「だから、女神が愛しいって言いそうな相手は、俺です」
あの女、俺に夢中でさー、とか。
……リア充をはき違えたチャラ男の妄言みたいな発言だけれど。
実際に告白もされたし。
これは、そう、思い上がりとかでなく、客観的な事実だと、思う。
「わかったわ」
ベリアルがうなずく。
そして。
「ベリアル様にいい考えがあるの。聞いてくれるかしら?」
「……嫌な予感しかしない切り出し方だけど、言ってくれ」
「ダーリンが女神に愛されてる。でも、『愛らしい君』が絶対に自分である自信はない」
「そうだな」
「『愛らしい君』はベリアル様の可能性も、ダーリンの可能性もあるのよね?」
「まったく関係ない第三者の可能性も、ないではないけど……」
それはもうどうしようもない。
とりあえず、俺かベリアル、最悪、ノイか御者あたりまでで考えるべきだろう。
「だったら妙案があるのよ」
「だからなんだよ」
不安になって問いかける。
すると。
ベリアルは顔を赤らめ、言った。
「二人で裸になって、外を歩き回りましょ?」
それで解決よ、と。
新たな問題の火種にしかならないことを言った。




