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16話

「ちょっとダーリン、なによウォヌァバって? 祝福の呪文かなにか? あと全体的に意味不明なんだけど。『右杉迷惑脱いでのに』ってどういうこと? 迷惑とか言われるとベリアル様傷つくんだけど」



 不満そうだった。

 俺も不満だよ。


 ひょっとしたら、今までで一番意味不明なんじゃないか?

 今までは『意味のわからない文章』だったけど、今回のはもはや文章ですらないじゃないか。


 これは擁護できない。

 女神……

 やっぱりスクールで言われているという『こんな生徒は初めてだ』って、悪い方の意味なんだ。


 このままでは女神の株が下がってしまう。

 お世話になっている身としては、どうにかフォローしておくべきだろう。



「いや、その……預言っていうのは、難解なものを、聞いた側が解釈していくものなんだよ。それで半獣族の時も問題解決したし」

「えっ? 半獣のところでも預言したの?」

「は? ま、まあ、したけど……別に世界の命運がとかそういうでっかいことは言ってないから。個人的なことだったし……」

「個人的な預言をしたの!? ちょっとダーリン、預言って世界の命運を決めるものよ? そんな個人に対して簡単にやっていいものじゃないのよ?」



 ……そうなのか。

 別に難しいことはしてないので、いいじゃんと思っていたけど。

 確かに確実に当たる予言を個人相手に軽い気持ちでするのはいいことではない気もする。

 まあ、お前が言うなという感じだけれど。



「……とにかく、預言がおかしいのは仕様なんで、解釈はそっちでしてほしい」

「ふーん? いいわ。預言書の預言と違いすぎてちょっとびっくりしたけど、ダーリンがそう言うなら、このベリアル様が素敵に無敵に預言を解釈してあげましょ」

「がんばれ」

「一緒に考えてはくれないわけ?」

「預言者が勝手な解釈をしたり、かみ砕いて伝えたりすると、預言が当たらなくなるらしい。女神が言ってた」

「ふーん……女神っていちいちそんな注釈とかするものなのね。預言ってもっと意味不明な声が途切れ途切れ聞こえてくるのを、必死に文章にするものかと思ってたわ。……ダーリンの預言は文章になってないけど」



 そうだね。

 全面的に同意する。


 ベリアルは悩む。

 悩みながら、俺の膝の上に移動する。

 それから、耳元でささやくように。



「ねえダーリン、もう一回、預言を言ってくれない?」

「わかった。……えっと。



『五愛らしい私たち君です!  返還に最上の幸福あるんじゃないのをウォヌァバ、右杉迷惑脱いでのにドアを開けようとしてもする! なので本当の愛停滞( 正体)を分かるだろう!』



 だな」



 相変わらずだった。

 俺は『おお愛しき我が君よ! 伴侶に最上の幸福あらんことを願わば、薄衣脱ぎて扉を開くべし! さすればまことの愛の正体を知るであろう!』と言っているつもりなんだが。

 声に出すとおかしくなる。


 いい感じにセリフの恥ずかしさが緩和されているのはいいんだが。

 意味がわからないのは、素直に困りものだ。


 ベリアルは唇に指を当てて考えこむ。

 そして。



「やめたわ」



 あっさりと。

 預言の解釈をあきらめた。



「おいおい、いいのかそれで」

「だって意味わかんないもの。なによ『五愛らしい私たち君です!』って。私なの? 君なの? 五愛ってなによ? 最初の一歩から意味不明すぎて考える気も起きないわ。ベリアル様は労働が嫌いなの。肉体労働はもちろん、頭脳労働もね。だから、こういうめんどくさいことは下僕に任せるのよ。そのあいだにダーリンと二人で愛をはぐくんだ方が世界的に有益だわ」



 世界的に有益なのか……

 いちいち引き合いに出される世界がかわいそうだと思った。


 ベリアルはか細いため息をつく。

 そして、馬車の小窓の外を、右手で指さした。



「預言よりも、ダーリン、そろそろベリアル様とダーリンの愛の巣が見えてくるわよ」



 視線を指の先へ向ける。

 するとそこには――


 真族と呼ばれる、悪魔の姿をした、神の末裔たちの王都が広がっていた。

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