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1話

 死んだので産まれ変わります。



 死亡理由はどうやら車に轢かれたことによるショック死らしい。

 大学受験に落ちたし友達もいないし親とは不仲だしでなんら未練のない俺は、あっさりと第二の人生を受け入れた。


 なので産まれ変わるだけなのだが。

 俺を転生させてくれるという女神様はガチ泣きして言う。



「なんて不幸な人生だったんしょう……! 確かにあなたは努力というものをしてきませんでしたけれど、それは産まれ持った才能がゼロに等しいからです。あなたの無能はあなたの責任ではありません。それなのに、十年以上も絶望せず生きてきたというのに……こんなの、あんまりです!」



 同情されてるのかな?

 それとも馬鹿にされてるのかな?


 微妙なラインの発言だった。

 が、女神様がすごくかわいいので好意的に受け取ることにする。


 虹色の髪。

 薄衣を巻き付けただけみたいな衣装からクッキリ見える豊満な体つき。

 顔立ちは気弱そう。

 で、真っ白く大きな翼が背中にあった。

 女神様は言う。



「それだけ醜いお顔ですから、女性経験もないでしょう……ああ、人生の快楽を何ら知らぬまま若い命を散らすだなんて! これが不幸でなくてなんと言うのか! 彼が生前、二次元女性にしか興味を示さなかったのは、決して彼のせいではありません! 産まれ持った物がなさすぎたせいなのでです!」

「お、おい、やめろよ……体はもう死んでるのに、このうえ心まで殺されるのか」



 やっぱり馬鹿にされてる。

 それもナチュラルにだ。

 悪意がない悪というもっともドス黒い存在が目の前にいた。


 しかし女神様は、まるで神にでも祈るみたいに両手を合わせ、天を見る。

 俺を見ない。

 誰に祈ってるつもりだよ。お前が神だろ。



「あなたの第二の人生はわたくしにお任せください」



 神様が親指を立てた。

 サムズアップである。

 個人的に神様にしてほしくない仕草でトップ3に入ると思った。


 ちなみに。

 1位は『寝転がって尻を掻く』だ。



「あなたは悪くないのです。あなたの人生は最初から失敗が決まっていたものでした。それなのに十数年も人生という苦行に耐え、来世に向けて徳を積んでいたのです。生きているだけで修行に等しいほど、恵まれない人生……なんてかわいそうな! わたくし、落涙を禁じ得ませんわ!」



 女神様の動作はいちいち芝居がかっていた。

 美女なので似合う。

 が、発言はそろそろどうにかしてほしい。


 なんだよ『生きてるだけで修行』って。

 俺の人生常在戦場か。

 ハードモードすぎるだろ。



「次の人生は万全のサポートをお約束しますわ!」



 涙ぐんだ女神は俺の両手をつつみこむように握る。

 顔が近い。

 体が近い。

 それだけで、俺は、目を逸らして半歩しりぞいた。

 俺の人生は修行だったので女人禁制だったのだ。



「あなたはもう、努力しなくていいのですよ。あなたはすでに、充分な努力をしています。ですから、今後、あなたは発言するだけで幸運が舞いこみ、存在するだけで金銭が舞いこみ、微笑むだけで女性が舞いこむ、そんな人生をご用意いたしますわ」


 それは素直に嬉しい。

 だが。




「わたくし、女神としては新神ですけれど、初仕事ですから、精一杯がんばりますね」




 ……待って。

 ちょっと待って。

 女神に新人とかあるのかよ。

 思わず問いかける。


「……えっと、大丈夫なのか?」

「はい! きちんと研修は終えておりますわ! それにですね、なんと! 女神の初仕事のお客様には十大保証がつきますのよ!」

「保険かな?」

「詳しい内容は、『その一、初仕事は最後まで見届けなければならない』『その二、初仕事の相手はなんとしても幸福にしなければならない』その三………………」

「その三は?」

「…………あとで資料を確認しておきますね」

「おォい!? 十大保証だってのに半分も覚えてねーのかよ!?」

「先日まで、この手のやり取りはすべて先輩がそらんじてくれましたので……あ、でも大丈夫ですよ。先輩の仕事を隣で見ていましたけれど、みなさん途中までしか聞かずに同意してくださいましたわ。『その七』がやたらと長くてですね、聞くのに人間の時間で八時間かかるのです」

「もっと簡単にまとめろよ! これだから契約書のたぐいは嫌いなんだ!」

「あ、はい。そのご意見はきちんと上の者に伝えておきますので」


 社会人みたいな対応されてしまった。

 なんだこの、こちらの力をいなして受け流すような。

 言葉の合気道みてーだ。


「さあ、第二の人生を始めましょう」

「待って! まだ説明不足だよね!?」

「とにかくわたくしがあなたを幸せにしますわ。初仕事の相手の前世がこれだけ不幸だなんてちょっと想定していなかったので戸惑いましたが、わたくしは元気です」

「俺が言うのもなんだけど、俺より不幸な人はいっぱいいるよ!」

「何をおっしゃるのです。あなたより不幸そうな人は、きちんと生きた人間に心配され、保護されていますよ。あなたの真の不幸は、誰もあなたを不幸扱いしてくれなかったことなのです。貧困や饑餓ではない、『次世代型不幸』とでも申しましょうか」


 否定できない。

『お前それサバンナでも同じこと言えんの?』というのは、軽い不幸自慢に対する有名なカウンターだが。

 だいたい、本人に非がある不幸というのは、同情されず、むしろカウンターされるものだ。

 迂闊な右ストレートみたいだ。


「誰もあなたのことを真剣に考えませんでしたけれど、わたくしが、あなたのことを真剣に考えますわ」

「……女神様……」

「ですから、安心して、第二の人生をお楽しみください。万全のサポートでお送りいたします」

「…………わかったよ」

「なお、万が一クレームなどが生じた場合にも、当方は一切の責任を負いませんので、どうぞご了承ください」

「急に社会人みたいになるのやめろよ!」


 ちょっと感動してたのに台無しにされた!

 クレーム入れてやるからコールセンターの番号をよこしやがれ!



「それでは行ってらっしゃいませ。よいセカンドライフを」



 女神が俺の手を放す。

 瞬間、俺の意識は遠のき――

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