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やる気の無い面接

 お姉さん方に連れられ、階段を下りて地下へ。

 先頭を行く女性はぼーっとした表情で歩き、やがて止まって「えーと、ここ空いてたっけ?」と周りに問いかけた。

 返答を受けてドアノブを回す。


 見た感じ、小会議室といったところ。

 キャスター付きのテーブルがコの字に並び、奥にはホワイトボードのようなものも用意されている。ふわふわ浮かぶ光の球さえなければ、元の世界そっくりだ。


「さ、二人の相手は私がやってるから。みんなは仕事してねー」


 一度目は「今から休憩時間!」「サレナさんも仕事してくださいよ」とか思い思いのことを言っていたその場に残っていたが、もう一度言われると今度は素直に室外に出た。


 残ったのは俺とチェルシーと、それから他より偉いっぽいお姉さん。


 お姉さんに促されるままに椅子に座る。ふかふかして座り心地がいい。この椅子高そう。

 と思ってる横でチェルシーが背筋を良くしてびしっと座っている。サレナさんは足組んでるし、そこまでマナーを気にする必要は無いと思うのだけど。


「はい。とりあえず自己紹介からいってみよっかー。

 まず私ねー。一応、ゆるほわ食堂キブリ支部の責任者。サレナ・シュミット。好きな料理はビーフシチューです」


 サレナさんが頭を下げて、戻す。それに合わせて、銀髪を高めに束ねたポニーテールがぴょこっと動いた。頭にはレースのカチューシャ。スレンダーな身体を強調するように、胸元でエプロンドレスの結び目が大きなリボンになっている。


 そう、サレナさんはメイド服だった。

 食堂のウェイトレスはあくまでウェイトレス。対してこの人は、はっきりメイドさんとしか言いようのないものだった。


 ゆるほわ食堂に入るつもりが無いと言いそびれたのは、サレナさんがメイド服なのが悪いと思う。

 だってメイド服ですよ。ここで「すいません、入りません」って言ったらもうこの人と会う機会は無いだろうな、と思うともったいない気がしてしまったのだ。


「はい、ナガツキくんから」


 でも、このまま流されてゆるほわ食堂に入るわけにもいかないだろう。

 言うならここだ。まだ全然この世界のこと分かってないから、今ゆるほわ食堂に入るつもりは無いです、って。


「あー。その……」  「ごめんなさい!」


 でも、俺が口ごもっているところに、チェルシーが割り込んできた。


「私、ゆるほわ食堂に入るつもりは無いです。さっきのは嘘。入るのはナガツキだけ」

「えっ?」

「あら。そうなのー?」


 言おうとしていたことを先取りされたせいで、一瞬頭が白くなる。


「兄さん、どうしても私をゆるほわ食堂に入れたいみたいだから。入ったフリってことで、お願いします」

「まー、ちょっと口裏合わせる程度ならいいわよ。前言った通り、嫌々入られてもこっちも困るしねー。でも、ステータスの方はどうするつもり? 所属クランは確認できなくても、加盟時にステータスに補正がかかるって言っちゃったけど」

「それもちゃんと考えてあるわ。ナガツキ!」


 ん? なんで今俺に話が振られるんだ?


「兄さんが剣を構えたとき、あなたポケットの中を探って、一瞬だけ知覚(Perception)が急上昇してたじゃない。あれ、ステータスを上げるタイプのアクセサリーでしょ? それで兄さんを騙すの」

「気付いてたのか!?」


「だから言ったじゃない。ちょっと頼みがあるって」


 得意げな顔をしながら、チェルシーが手を出してくる。

 「ちょっとだけだから、いいでしょ?」と。親にお菓子をねだる子供みたい。


 でもダメだ。


「ごめん、この箸は大切なものなんだ」


 別にチェルシーが盗むなんて思ってるわけじゃない。でも、兵士さんも言ってたように、この箸はなるべく人に見せたくない。


 兵士さんの剣の攻撃力は三桁だった。対してお箸が7060。文字通り桁が違う。城を守る兵士があれなのだとすると、ひょっとしたらこのお箸は規格外の強武器なのではないか――。


 だとしたら、下手に人目にさらすと、「殺してでも奪い取る」みたいなことになるかもしれない。

 だからごめんチェルシー。もっとこの世界のことを知るまで、お箸は人に見せないことに決めてるんだ。兵士さんにもそう忠告されたし。



「おはし……? ナガツキくんのお箸って、ひょっとしてハイテンションなおじさんから貰ったものだったりしないー?」


 言われて気付いた。あのおっさんが、そんな凄いものをふらっと渡せるくらいの大物なら、ゆるほわ食堂の責任者が知らないわけがない。おっさんが自分で言ったわけじゃないけど、おっさんの所属はゆるふわ食堂以外に考えられない。


 なら、ここでシラを切っても仕方ないか。


「はい。すごくでっかい包丁を持ったおっさんでした」

「そっかー。じゃあちょっとそのお箸見せてくれる?」

「はい」


 紫檀八角の禊ぎ箸を見て、サレナさんは露骨に顔をしかめた。


「まったくー。あの人は感覚がズレてるんだから。庶民感覚が分からないのは、料理人的にどうなのかしら」

「何よこの箸。桁2つくらいおかしくない? そもそも何でお箸に攻撃力があるの?」

「あー、チェルシーちゃん的にはお箸に攻撃力があること自体おかしいのかー。私も人のこと言えないなー。お箸に攻撃力があるっておかしいのかな……。ナガツキくんどう思う?」

「うーん。普通お箸に攻撃力は無いと思いますけど。そもそも攻撃力って概念が謎です」


 サレナさんは机に顎を乗せて手を伸ばし「そっかー。そっかー」と唸ってから、不意に立ち上がった。


「うん。流石にそのお箸はアレだしねー。代わりにステータス上がるもの持ってきてあげるから、待っててー」


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