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ここはキブリの街です


 異世界人は特別強いとは聞いていたが、レベル1で兵士に逆らうわけにもいかない。大人しく兵士に従って、建物から外に出る。

 振り向くと、さっきまでいた場所は結構立派なお城だった。


「このまま真っ直ぐ行けば、すぐ市街に出る」

「分かった」


 口答えしても仕方ないだろうし、何か聞いても答えが返ってくるような感じじゃなかったので、素直に従う。


 すぐに、とは言われたものの、周りは相当広い庭地。よく整えられた草木に水路、その一方で無秩序に点在する掘立小屋。市街なんてまったく見えやしない。それとも疎らに立ってる小屋を指して、街だと言ってるのか? 街っていうか、村ですらないと思うが……。


 とか考えながら歩き始めたのだが、何故か兵士が付いてくる。あんまりぴったり付いてくるものだから、俺と兵士の足音が重なって、最初は兵士が付いてきているのに気付かなかった。でも鎧がカシャカシャ鳴ってるし、隠れているわけではないみたいだ。


 どうして付いてきたのか気になる。でもあの仏頂面だ。多分聞かない方がいい。


 しかしプレッシャーが凄い……! めっちゃぴったり付いてくる。

 そのせいで歩幅を緩められない。緩められないと思うと、なんか段々苦しくなってきたような気がする。普段の俺、もっとゆっくり歩いてなかったっけ。いや、普段もこんなペースだったような気もする。


 カシャカシャ。ガシャガシャ。兵士さん怖いです。おっさん助けて。


「お前、こっちに来たばかりか」


 ……! 兵士の方から話しかけてきた。相変わらず声にドスが効いている。


「こっちって、いや、見ての通り、おっさんに連れられて来たばっかりですけど」

「違う。こっちの世界にだ」

「あ、ああ。いきなり目の前にドラゴンがいて、死ぬかと思った」


 我ながら滑舌が死んでいる。口ごもりすぎ。緊張しすぎ。

 まさか兵士の方から話しかけてくるとは思わなかった。


「そうか。そりゃ大変だったな。だが、マーロックさんに拾われたお前は幸運だった。大抵の奴は、こっち来て早々に何だか分からないまま死ぬ。モンスターに喰われたり、飢え死んだり、あるいは最初っから火山の火口に向かって落ちてきたりとかな。その上、発展し過ぎた街だと魔王に狙われ、低レベルのうちから戦争に巻き込まれて死ぬし、辺境すぎるとクラン球が無くて強くなれない。……すまん。何か励まそうと思ったんだが、何の励ましにもなってないな。こう、あれだ。幸運を無駄にすんな。死ぬなよ坊主」


 あ、この人も意外と良い人なのか……!

 異世界のおっさんは優しいものなのか……!


「そして、あの人の好意も無駄にすんなよ。そんな上位装備貰っといて魔族に取られましたなんて許さないからな」

「上位装備?」

「それ、俺の剣より断然優秀な装備なんだよ。攻撃力の桁が違う」


 言われて気付いた。俺、おっさんの箸持ったままだった!!!


◆紫檀八角の禊ぎ箸

攻撃力:7060

スキル:五感強化、食事効果補正、呪い耐性、闇耐性


「返さなきゃ!」

「それ貰ったんじゃないのか?」

「ずっと持ったまま完全に忘れてた! なんか手に馴染んでた」

「お、おう……」


 話しているうちに、大きな門が見えてきた。見上げるばかりのそびえ立つ壁。一人じゃ動きそうに無い扉。

 門の前にも兵士が複数いたが、俺についてきた兵士に比べると軽装備だ。


「その箸隠しとけ。この街の治安は良い方だが、装備目当ての殺しも無いとは言い切れん。何より武器に頼り過ぎるとそのうち足元をすくわれることになる」

「これ、ポケットに入れるだけで大丈夫……ですか? 魔力的なもので感知されたりしません?」

「知らん。俺にはそういうのは分からないが、魔術師連中なら何か感じるかもな。ま、本職の魔術師はこの街にはめったにいない。連中が集まるのは研究拠点と前線だけだ」


 兵士さんに言われたとおり箸を隠す。門前に辿り着いた。

 門前に待機していた方の兵士に、ぎろりと睨まれた。


「何者だ……あの人の連れてきた新人か?」

「ああ」


 それだけで、特にお咎めは無し。門前の兵士たちが道を空ける。


「もしかして、俺のために付いて来てくれたんですか?」


 これだけ広い城壁に囲まれた場所だ。出入りは厳重に見張られているのだろう。

 そんな中で、「入ってない奴」が中から出てきたら、注目されるのは当然だ。

 ここが異世界だということを踏まえれば、俺の服装も珍しいのかもしれないし、その上に上等な武器(お箸)を持ってるとなったら、盗みを疑われてもおかしくない。

 万一そんなことが起きないようにと付いて来てくれたのだったり……?


「マーロックさんのために、だ。俺は金が絡まない限りは、義理を重んじる主義でな」


 この返答だと、おおむね予想は正しかったみたいだ。

 もっとも、俺のためじゃなくて、俺を助けてくれたおっさんの働きを無駄にしないためだったみたいだが。


「ありがとう、兵士さん」

「礼はいらねえよ。こんなの仕事のうちだ」


 城仕えだから当たり前なんだろうが、兵士さんは門の外までは付いてこなかった。



 門を越えると、異国情緒溢れる街並みが広がっていた。

 露天と屋台とが隙間なく道の左右を埋めている。ひしめく声、声、声。

 なんだか分からない果物(野菜かもしれない)を積み上げての叩き売り。

 俺には理解できないセンスのアクセサリーを並べている爺さん。

 しかし、俺の世界なら真っ先に目につきそうな、食べ物屋の類はまるで目に入らない。


 ただ焼いただけの肉であの味なら、ちゃんと料理されたものはどうなるのかと期待していたんだが……。


 まあ無いものは仕方ない。

 で、半ば人波に流されながら歩いていて気づいた。


 クランに入れとは言われたが、道が分からない……!


 周りの人に聞けば答えてくれるかもしれない。

 だが、日本語で話しているようでも、見た目は国際的なことこの上ない方々。

 服装は意外と幅が広く、現代っぽい格好をしている人もいる。だが、黒かったり、彫りが深かったり、身長高かったり、何かと異国然とした人々を前にすると、つい物怖じしてしまうのは日本人としては仕方ないはずだ。

 話しかけづらい……。


 とコミュ障染みたことを思っていると。


「お前がゆるほわ食堂に入ってくれれば、俺も安心できるんだ」

「嫌! 私だって魔法剣したいのに!」

「円卓議会に入るには、議会のクラン球がある場所まで行かないといけないって聞いたろ。レベル1で旅をするつもりか?」

「兄さんがやるなら私がしてもいいでしょ」

「ダメだ。そんな危ないことさせられるか」


 あ、レベル1未加入仲間だ。


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