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5話「陽動」

 今宵、静かな空気に包まれる来真市に突如爆発が起きた。


 それは3箇所同時に起き、爆風は窓ガラスを割り、炎は徐々に広がっていく。またたく間にそれは騒ぎとなり、サイレンが鳴り響き人々は我先にと避難を開始する。それは全て街の隅で発生した。そんな様子を、その3点の事件の中心にいる次期魔王エフィナは高い所から見下ろしていた。


 その白い髪が、街を漂う風に揺れる。


 何故こんなことになっているのか、事の始まりは数時間前に遡る。






「ただいまー」


 家に帰り着いた一輝は、少し浮かれていた。

 なにせ、初めて彼女と手を握りながら下校したのだ。如何に次期魔王としての思考を巡らせていた彼も意識しないわけがない。


「おかえりなさいお兄ちゃん。って、なにか良いことありました? 凄い嬉しそうですけど」


 出迎えてくれた妹、ルミがその水色髪の毛を傾けるように首を傾げた。若干湿った髪の毛は、彼女が風呂上りであることを表している。小さいアクセント程度のツーサイドアップである彼女は、風呂上りで髪の毛を下ろしていてもまるで違和感がない。


 なんでもない、彼はにやける口元を抑えながら答えた。彼女はそれ以上追求することもなく、とてとてと一輝の前にやってきた。

 いつ見てもほぼパジャマなので、それが寝る前の格好なのかはたまた家の中で活動しているときの格好なのかまるでわからないのだが、風呂上りなので前者なのだろう。


「お兄ちゃんお兄ちゃん、先にお風呂にします? ご飯にします? それとも、ゲ・エ・ム?」


 まったく色気のない3択である。


「先に風呂に入るから、上がるまでゲームしてていいぞ。上がってきたらご飯にしよう」


「はーい」


 そう返事すると、彼女はそさくさと部屋に入っていった。


 ルミに続くように2階にあがり、自分の部屋へと入った瞬間、彼は顔を引き締めた。ここからは、完全にエフィナとしての時間だ。

 風呂に入る時間でさえ、彼は次期魔王として思考を巡らせなければならない。


(問題は、どうやってあの3人をバラバラにするかだ)


 昨日と一昨日。その両方を見ても、彼女たちは活動する時、常に3人だ。フブキのみを相手にしたいのだが、3人を前にすると必ず優花が前に出てくる。それだけは避けたかった。

 必要ならば剣を交えなければならないが、出来るだけ彼女とは戦いたくない。

 ならば必然的にそれぞれを違う場所に呼び出す必要がある。まずは軽い事件を起こすのが妥当だろう。それが3箇所同時に起きれば、彼女たちはバラバラに対応するしかない。


 問題は、それが足止めもとい陽動である事がバレないか、だ。もし陽動だとバレてしまえば、彼女たちはその場を離れて集合するかもしれない。それでは意味がないのだ。

 ならば、どうすれば。そう思考している時、彼は自分を呼ぶ声にハッとなる。


「お兄ちゃんっ! もう、ボーッとして。ご飯の時に何考えてるんですか?」


 ご飯が並んでいるテーブルを挟んで、ルミは頬をふくらませていた。


「わ、悪い悪い。つい考え事を」


 完全に思考にダイブして周りが見えていなかった一輝はルミに謝る。2人だけの食卓なのだ。一方がそれではもう片方がさぞかし寂しいだろうと気付く。


「メリハリ付けないとダメですよ。何を考えてたかは知りませんが、それだと逆に効率悪いですよ。もしくは、後で燃料切れ起こしますよ」


 せっかくの兄とのご飯タイムを、その兄が上の空で彼女は大変ご立腹であった。

 しかし、その言葉は一輝に響いた。


(そうか……メリハリは大事か……次期魔王としての自分を封じるのをやめた時から、ずっとこんなことばっかり考えてるな)


 それは、優花を守ると決心した時からであった。彼女を助ける策を考えるのは大事で、時間がないのも確かだが、妹の言う通りメリハリを付けないとかえって効率が悪いというのにも頷ける。


「ちなみにですけど、何か考え事ならあたしが相談に乗ってあげてもいいですよ」


 せめてご飯を食べるときは、次期魔王として考えるのはやめようと思った矢先、ルミがありもしない胸を張ってそう言った。自信満々にふんすふんすと鼻息を荒くする彼女は、もう一輝から相談を受ける気満々のようだ。

 ここでなんでもないと言うのも何か悪い気がした一輝は、ルミに相談することにする。


「そうだな……じゃあさ。仲良し3人のうち1人と話がしたいんだが、そいつ達はずっと一緒なんだ。それで、そいつらをバラバラにするためにそれぞれを違う所に呼び出して、その間に1人と話を付けたいんだが、どうすればいいと思う? あ、もちろん、他の2人は話が終わるまで気付かれたくないんだ」


 例え話を出して妹の意見を求める一輝。本当のことを話して、彼女を巻き込みたくないのが本音だ。

 それを聞いて妹のルミはキョトンとした。で、元々半開き気味な目をさらに細めて一輝に問う。


「え、お兄ちゃん。告白でもする気ですか?」


「なんでだよ。俺には彼女いるだろ知ってるだろ」


 一輝は真顔で突っ込んだ。不意打ちで内心少し焦ったが、それを表に出してはダメだ。余計な誤解は産みたくなかった。なにせ、ルミは優花とは仲がいいのだ。いつどんな弾みでそんな話を言われるか分からない。


「じゃー、喧嘩ですか?」


「いやぁ……まぁ、そんなところかな……?」


 あながち間違っていない見解に一輝も首を傾げる。だが、彼女がそれで既に納得してしまったので、もうこの流れで行くしかない、と一輝は諦めた。細かい説明が出来ないのなら、近い解釈の方がありがたい。


「なるほど、ゲームでもありがちな陽動パターンですね」


 彼女が顎に手をあてて思考する。次に腕を組む。そして結んでいる髪の毛をいじり始めたところで、彼女の頭に閃いたものがあった。


「そうですね。あたしのやったゲームでもやってた事なんですが、要は陽動と気付かれても他の所に行けないようにすればいいんですよ」


 モノを食べながら喋らない辺り、そういうところはしっかりとしていた。普段はだらしないのに。


「他の所にいけないようにする?」


 それができれば苦労しないのだが、と言おうとしたが、ここは彼は黙って妹のネトゲ知識を聞くことにする。


「パターンはいくつかありますね。ゲームですと……1、数で圧倒して逃げ場をなくす。2、あえて他の事が目的であるように思わせる。そして最も有効的なのが」


 ここで、ぐぐっと溜めるルミ。続きが聞きたいかと顔で訪ねてきたので、彼は即答で首を縦に振った。


「相手の欲望を刺激することです」


 彼女は自信満々にそう答えた。彼はそのことについて少し考えたが、よく分からなかったのでルミに尋ねることにした。


「欲望を刺激って?」


「ゲームの話なので、参考にはならないと思うんですけど、例えば、レアアイテムがあることをほのめかしたり、隠したりするんですよ。すると、相手はそれが欲しいから向かってくる。それを守るように戦っていれば、相手が陽動だと気付いても欲望からその場を離れることができなくなるんです」


 あくまでゲームの話ですけどねぇと、もう一度彼女は付け加えた。状況的にではなく精神的に将棋で言う詰みのような状態にするとも言った。

 それを聞いた一輝はなるほどなぁと頷く。これは、非常に参考になりそうだった。


「ありがとうルミ。なんかいけそうな気がしてきたよ」


「それは良かったです。あ、殴り合いはダメですよ。メッです」


 ルミに釘を刺された一輝ははいはいと了承した。実際は、そんな殴り合いなんて生易しい表現ではないだろうが。


 妹に相談したことで考え事がスムーズに進んだ一輝は、改めてルミとのご飯に向き合う。なんだかんだ話したせいで冷めてしまったご飯を2人は仲良く食べた。冷えてしまっても、誰かと食べれば美味しいものだ。

 晩飯を食べ終わり、食器を2人で片付けた。この家では、使った食器はすぐに洗う事が決められている。片付けも終わり、リビングで一通りゲームでルミと遊んだ彼は、9時を過ぎると部屋に戻った。ルミも、ゲームをするために部屋へと帰る。


 そこで彼は部屋の鍵を閉め、陽動のための策を練った。妹の助言を元に。

 そうして思いついた作戦を、すぐに実行に移す一輝だった。





 ルミがゲームに夢中になって自分の部屋に来ないことを見越している一輝は、窓からこっそり抜け出したのだ。誰にも見られていないのを確認して、彼は次期魔王エフィナとしての姿になる。

 けたましいサイレンが鳴り響く街で、彼は動く物陰を見逃さなかった。


(来たか)


 エフィナがその淡く光る赤い瞳で確かに見た。彼女たち魔法少女が1人ずつその現場に向かっているのを。

 おそらく、偵察のためだろう。全ての事件が魔族関連であるとは思っていないだろうが、目立つ事件には、あぁして一応確認に行っているのかもしれない。


 想定の範囲内だった。


 偵察でもなんでもいい。彼女たちが現場に来ることが大事なのだ。そして、今回のターゲットは魔法少女フブキ。

 彼女が向かった先はしっかりと確認している。

 エフィナは、彼女が向かった事件現場へ一直線にビル跳んで渡りながら向かった。






 街の端の工場。

 そこに、魔法少女姿の優花……ナデシコが姿を表していた。


(魔族が絡んでいないただ事故……?)


 あたりを警戒しながらその事件現場を歩く彼女は、まだ魔族の姿を発見出来ないでいた。ただの事故かと思うのだが、なにせ3箇所同時に起きたのだ。事故ではなく人為的なものである可能性が高い。

 問題は、それを起こしたのが人か魔族かだ。


 人なら彼女たち魔法少女の出番はない。それこそ、警察などが解決してくれる話だ。だが、魔族が原因なら、たとえ警察に対応できる能力があったとしてもナデシコは譲る気はない。

 魔族は存在すら認めない。それがナデシコという魔法少女だった。


「けけけけ、よく来たな。話に聞いたとおりちゃんと1人だぁ」


 天井より聞こえた笑い声。彼女はその場から飛び退き、上に視線を向けた。


「やっぱり魔族絡みね」


 彼女は握っている槍を構え、即戦闘態勢に入る。


「おぉっと、ボクは殺さないほうがいいぜぇ? なにせ、お前が知りたい情報を知っているんだからなぁ」


 天井の柱に座る彼は、おちょくったような態度を見下ろす。

 その手には、木製の鈍器のような武器が握られている。

 魔族の言葉に耳を貸す気はなかったが、彼の言う情報というのが少し気になった。


「私の知りたい情報?」


「そぅそぅ、次期魔王様についての情報さぁ」


 次の瞬間、ナデシコは目の色を変えてそいつに突っ込んだ。普段ならそれで敵は脳天、または心臓を貫かれて死ぬのだが、今回彼女が貫いたのはそいつの肩だ。


「ぐぇえっ!」


 柱の上で槍を刺したまま彼を地へと押し付ける。彼は貫かれた槍のせいで動くことが出来ない。


「さぁ、吐きなさい。あいつの何について知っているの?」


 答えたら助けてやるなんてヌルい事は言わない。彼女はその情報を聞き出したうえで彼も殺すのだ。

 彼は、うぎぎと唸るように彼女を見る。


「ケケケケケ。残念だが、まだ答えられないね……なんたって」



「ボクは全然ピンピンしてるわけだし」



「!?」


 彼女の隣から、まったく同じ声が聞こえた。ナデシコはそこに向かって槍をなぎ払う。


「ぐぇぇええ!」


 今しがた地面に刺していた魔族と同一の姿の魔族が斬られ、悲鳴を上げる。だが。


「残念、ハズレぇ」


 また、別の所から声が聞こえてきた。


「ボクはエスクロ。君がさっきから斬っているのは、ボクの分身さぁ」

「でも気を付けなよぉ。分身と思って斬り殺したボクが本物だった場合、君は情報を聞き出せないんだからねぇ」

「ほらほら、こうして話しているボクが本物かもしれないよぉ」


 声だ。バラバラな方向から同じ声が聞こえる。暗闇のせいでどれくらいの数がいるかも把握できない。


(罠なのは明らか……そして、この妙な挑発はまるで、私のこの場に留めておこうとしているようにも感じる)


 爆発が魔族関連だった時点で、あの爆発がこうして呼びつける罠だったのはもう考えるまでもない。だが、その意図が分からない。もっと、罠らしい罠があるかと思えば、こうしてただ戦うだけ。

 しかも、こちらに情報を提供してくれるというあからさまに何かを企んでいる様子。


(だけど、そんな事関係ない! どんな情報だろうと、あいつの事を聞き出せる機会があるのなら聞き出すまで!)


 ナデシコは、これが何かしらの陽動だと気付きながらもこの場にいる魔族の相手をする。

 いや、情報など無くとも、彼女が魔族を見過ごしてどこかに行くことなどありえないのだ。

 だが、確かに彼女は情報という餌に囚われている。


「ケケケケケ、ほーら、誰が正解だぁー?」


 一斉に飛びかかってくるエスクロを、彼女は一撃で殺さないように相手をすることになった。







「なるほどね、こうやって隅から爆発を起こしていって、人を中心部に集めた所をドカンか……ご丁寧に説明どうもっ」


 カツン。地面を叩く音がすると思うと、辺りに大量の光の珠が発射される。


 ドドドドドドドドドド!


 おびただしい数の光の散弾が敵を撃ち抜く。だが、敵は次から次へと湧き出てくる。それは、いつも相手にしている魔族ではない。魔族のような形をした、黒い何かだ。


「キリがないや。それで、なんでわざわざ作戦を説明するわけ?」


 周囲を燃え盛る炎で囲われた建物同士に生まれた隙間。そこで、ヒナタ……魔法少女ヒナは敵を前に不思議そうな顔をした。赤い炎が彼女を照らし、髪の毛がより一層赤く見える。

 先ほどから1人の敵を攻撃しているのだが、敵の前に固まる黒い何かがそれを阻むのだ。

 その敵も、ヒナ同様動かない……いや、動く必要がないように見える。

 腕には、鎖が巻かれている。


「なに、あえて目的を明かすことで、負けた時の貴女の悔しさに歪んだ顔が見たいだけですよ。それに、敵に大きな作戦があると分かるとそれを止めるために燃える。お好きでしょう? そういうの」


 そう答える彼は、うっすらと笑った。それに吊られるようにヒナもニッっと笑う。


「うん、燃える展開だね!」


 その豊満な胸が高鳴るような展開に、彼女は悪戯っ子のような笑みを浮かべる。彼女は、こういう熱い展開は大好きだった。

 彼に向かって再び攻撃するも、また黒い何かがそれを防いでは消え防いでは消えを繰り返し、一向に彼には届かない。


「ワタクシはオンブル」


 彼女の攻撃を意に介さないように、丁寧に自己紹介を始めるオンブル。それに答えるように、彼女もまた攻撃の手を休めないで自己紹介するのだ。


「ヒナは、魔法少女ヒナってところかな」


 攻撃の手を休めないで、彼女は別の可能性も考えていた。これが明らかに怪しい事は彼女でも気付いている。


(これが陽動で、他の所で作戦が進行してるって可能性もあるけど、まぁ、他の2人もいるし大丈夫でしょう。それに、コイツもほっとけないし)


 敵から目をそらさずに、彼女は残り2人の魔法少女に思いを託した。

 しかし、その眼は明らかに目の前の敵の作戦を阻止することに燃えている眼だった。






 見晴らしのいい畑に囲まれた、絵に描いた田舎のような所。爆発したのは、そこにあったらしい小屋だった。


 破片が燃えているだけで、もう小屋なんてどこにもなかった。木っ端微塵に吹き飛んでいる。



 なぜ、ここに小屋があることを知っているかというと、フブキはこの街の建物のことを大体把握しているからだ。



 それが、小さな無人の小屋とはいえ、爆破されたのは正直腹が立ってしょうがなかった。


「……まさか、あんた直々に出てくるなんてね」


 彼女の後ろの電柱。その柱の上に、次期魔王エフィナはそのコートをなびかせがなら立っていた。


「今日はお前に用事があってな」


 エフィナは、見下すようにフブキの言葉に答える。満月を背後に立つその姿は実に様になっていた。

 そんな彼の方向をゆっくりと振り返るフブキ。お互いが、月と炎の逆光で表情がよく見えない。

 だが、それでもフブキが切れていることはその声のトーンからすぐに分かった。


「ナデシコには悪いけど……この街をぶっ壊す奴は、私が絶対に許さない。反撃しても殺す。泣いて詫ても殺す。何もしなくても殺す。この街を傷つけた時点で、お前の死は確定している」


 彼女とは数回しか会ったことがないが、あの冷静さが嘘のように魔法少女フブキはブチ切れていた。いや、冷静は冷静であるかもしれない。彼女は、静かに爆発するタイプだ。


 お互いの間に風が吹いた瞬間、エフィナとフブキの視線がクロスした。

次回更新は2週間後の11月29日です。

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