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19話「ナデシコvsファルレッテ」

「ぎゃぁぁぁあああああっ!!!!」


 魔法少女ナデシコは、逃げ惑う敵にトドメを刺した。

 なんてことはない。いつもと変わらない単純作業のように。

 羽虫を潰すがごとく、あっという間に敵を蹴散らした。


「これで全滅かしら」


 辺りを見渡す。すでに敵らしい敵はいない。

 霧雨市まできて、彼女はどこか違和感を感じていた。


(妙ね……確かに魔族ボスティロはいた。けど、本当に『居た』だけ)


 Nの言うとおり、彼女が霧雨市につくと、すぐに敵と遭遇した。

 ただ、なにか妙なのだ。何かを企んでいるとか、そういった気配がまるで感じられない。

 まるで、自分をここに呼び出すために置かれていただけのような。そんな何とも言えない誰かの意図を感じた。


「……いいわ。どちらにせよ、殲滅できたのだから」


 目的など後回しだった。要は、そこに魔族ボスティロがいた。それだけで充分ではないか。

 もうこの場に用はないとばかりにキビを返した時だった。



「なるほど、雑魚などもはや時間稼ぎにもならないか」



 勢い良く振り返るナデシコ。ついさっきまで誰もいなかったはずなのに、いつのまにか、そいつはそこに立っていた。

 全身をマントで隠し、顔には仮面を付けている。


 見ただけで、只者ではないことが分かった。

 ナデシコとそいつの間に風が吹く。ナデシコの紫の髪を優しくなでた。

 ひとまず冷静さを保つナデシコは、静かに戦闘態勢に入る。


「この威圧感……九頭龍ポレゾニアの1人かしら?」


「いかにも。九頭龍ポレゾニアが1人、ファルレッテ。そう身構えるな。私は闘いにきたわけではない」


「なら、何をしに来たのかしら?」


「強いて言うなら、ちょっとした親切だな」


「親切……ね。生憎、畜生以下のクズ異世界人にされる親切なんてないわ!」


 ナデシコは、ファルレッテめがけて突進する。

 彼女の髪が激しくなびく。鋭い瞳は、敵であるファルレッテを確実に捉えていた。


「やれやれ、相変わらず……」


 すっと腰を落とすファルレッテ。こちらも戦闘態勢に入ったということだろう。

 ファルレッテの視線とナデシコの視線がぶつかる。



「人の話を聞かない子だ」



 ナデシコから突き出された槍を、ファルレッテは難なくかわした。


「初撃は突進からの、急所への一撃」


「!?」


「かわされた場合の二撃目は、槍をそのまま振り払う」


 ファルレッテの言葉をなぞるように、ナデシコは槍を振り払った。ファルレッテにはかすりもしない。

 驚きに目を開くナデシコだが、その攻撃の手は休めない。


「3撃目は、接近戦での乱れ撃ち」


 ナデシコはファルレッテ目掛けて槍を振るう。刺す。打つ。だがやはり、相手にはかすりもしないのだ。

 ナデシコは、操られているわけではない。

 彼女はただ、今まで通り普通に戦っている。ファルレッテが自らの動きを口に出そうと、長年の闘いで染み付いた動きはそう簡単に変えられない。


「ここまでで倒せない敵の時、ようやく君は初魄漆桶しょはくしっつうを抜く」


 ナデシコが抜刀するのと同時に、ファルレッテはそう述べた。


(私の動きが、調べ尽くされている)


 ナデシコに嫌な汗が流れる。これまで、ここまで調べ上げてから戦闘に望む敵がいなかったのだ。

 徹底的に手の内が全て読まれている闘いは、初めてだった。

 しかし、問題はそれだけではない。


(攻撃が……当たらない!)


 過去に、ある程度調べてから挑んでくる者はいた。だが、そんなやつらも、彼女のスピードの前には死あるのみだった。

 だが、ファルレッテは違う。

 先程から攻撃を繰り返しているが、まるで当たる気配がないのだ。

 彼女のスピードに対応出来る敵が、彼女の戦闘データを完全に把握している。これ以上厄介な敵はいなかった。

 多彩に技を繰り出すナデシコ。ファルレッテはそれをいとも容易くかわすのだ。


「そろそろ、第2速へ移行か」


「……っ!?」


 読まれていた。次期魔王、ヴァスコでさえ、その不意打ちには攻撃を受けざるを得なかったのに対し、ファルレッテはそのタイミングでさえ見破っていた。


「……第2速(ツヴァイ)!」


 指摘されて止めるわけにもいかないナデシコは、スピードをワンランク上げる。

 だが、そのことを予測していたファルレッテは、やはりかわした。

 この時点で、ナデシコのスピードはファルレッテを上回っている。だが、それ以上にファルレッテの反応速度が速い。

 反応できれば、避けられる。斬るという大きな動作に対して避けるという動作を最小限で行うことにより、ナデシコのスピードに対応しているのだ。


(調べられてようと反応されようと関係ない……それ以上に速く動くまで……っ!)


 回転を加えた蹴りやフェイントからの斬撃なども繰り出すが、虚しく空を斬る。


「そろそろ、第3速か?」


「そうね。第4速(フィア)!」


「っ!?」


 ここで初めて、ナデシコの攻撃は当たる。正確には、マントを切り裂いたはいいものの、ファルレッテが武器でガードしたのだ。

 ただ、確実にファルレッテの反応は遅れた。いや、反応できていなかった。

 ファルレッテは慌ててナデシコとの距離を取る。ナデシコも、あえてその距離を詰めなかった。


 初めて、ファルレッテの武器が顕になる。折られたような中途半端な長さの、錆びれた槍だった。


「はぁ……はぁ……どうやら、あなたの情報は随分と古いモノのようね」


「あぁ、やられたよ。まさか、ギアを1つ飛ばして加速するとはね……ただ、それはお前の体にも相当負担がかかるらしい」


 肩で息をするナデシコを冷静に分析する。ファルレッテの言うとおりで、1つ飛ばしの加速は彼女の体に大きな負担をかけた。

 ナデシコの頬を伝う汗が風に晒され熱を奪われる。


「私の体に負担がかかろうと、お前たちゴミ虫の魔族ボスティロを始末できるなら構わない。さぁ、続きを始めましょう。次こそは殺すわ」


 ナデシコの瞳からは、ヒシヒシと殺気が伝わってくる。ファルレッテは、殺気に応えるように武器を構えたが、すぐにそれを降ろした。


「やめておこう。第4速(フィア)以降は流石の私も対応出来ない」


「見逃すと思うの?」


「君は見逃すよ」


「……ナメられたものね」


 ナデシコが踏み込み、ファルレッテに攻撃を仕掛けようとした時だった。それよりも早くファルレッテは口を開く。


「君の街……来真市は今、ヴァスコからの攻撃を受けている」


「!?」


「もちろん、偶然などではない。君はのけ者にされたのさ」


「…………」


「もちろん、疑うのは構わない。ただし、君の仲間は今頃ピンチに陥っているだろう」


「どうして、それを私に教えるの?」


 ナデシコは疑問に思う。

 ここに来た時の違和感は、まさしくそれなのだ。自分がいない時に、つまり、あの街の魔法少女による守備が手薄になったところを狙われた。

 ようは、ここにいた敵は囮だったのだ。


 問題は、敵であるファルレッテが、なぜそれを自分に打ち明けるのか。

 ただの命乞いではない。彼女は最初『親切』と言った。それがこの情報の事だとしたら、命欲しさの嘘ではない。


「何故……か。そうだな、あの女の邪魔をしてやりたかったから……かな」


「あの女……?」


「それよりもどうする? ここで私の相手をするか? それとも、今すぐに仲間のもとに向かうか?」


 ナデシコは考える。敵から目をそらさずに、冷静に今の状況を考えて。


「私を倒してから、仲間のもとに向かうという選択肢は甘いぞ。言っておくが、お前ごときに瞬殺される私ではない」


 ギロリとひと睨みされる。考えている事を見透かされたようで押し黙るしかなかった。

 ファルレッテの言うように、彼女の相手をすればするほど仲間のもとに駆けつける時間は遅くなる。

 仲間の強さを信じていないわけではない。たがもし、複数の場所で魔族ボスティロが暴れているとしたら。大量の敵が街に溢れかえっているとしたら。


 それは、2人の手に負える話ではない。まして、ヴァスコの相手をしているのなら。

 必然的に、ナデシコの選択は決まってしまった。


「……っ!」


 目の前の敵を見逃す事を激しく悔いるように、ナデシコは眉間にシワを寄せながら初魄漆桶しょはくしっつうを腰に収めた。

 目の前のファルレッテが憎たらしくて仕方がない。自分がこの選択をするのを、まるで分かりきっていたようにしていたのが、尚更気に食わなかった。


「うむ。君は賢い。必ずそういう選択をすると思っていたよ」


「……」


「それじゃ、また会おう……」


 すると、まるで空気に紛れるようにファルレッテは消えてしまった。

 その空間を、ナデシコは空気を射抜くような目で見ていたが、やがて視線を来真市への方向へと向ける。


(あいつの言うことか本当なら、急がないと)



 ナデシコは、その場から跳んだ。変身を解いて、のんきに公共機関を使って帰っている場合ではない。

 出来る限りのスピードで、魔法少女は街を駆けた。

次の更新は、5月16日(土)です。

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