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プロローグ

「お願い皆! もう止めて!!」


 月が夜空を照らし、明かりが街を照らす。辺り一面に固められているコンクリートは今日も冷たく、道路に敷き詰められた車は慌ただしい音を立てて走る。人が街を闊歩し、さながら血液のように循環する。

 そんないつもと何も変わらない世界に、彼女の声は溶けてしまった。

 その場にいる誰の耳にも届かない。どんなに叫んでも、言葉が皆の隙間を縫って進むように、まるで見えない何かに遮られているかのように。誰も、彼女の言葉に耳を傾けはしなかった。


「どうして……」


 1ミリも変化しない現状を前に、次第に彼女の言葉はしぼんでいった。

 目の前の状況が、彼女には理解できなかった。いや、したくなかった。


 ずっと否定され続けてきた自分の意見が、相手にもされなかった自分の考えが、ようやく皆に認められ、実現しようとしたのに。

 皆が幸せになれるよう、ただ祈り願っただけなのに。

 いったい、どこで何を間違えたのだろうか。彼女は、目に涙を浮かべながら自分自身の無力さを呪った。涙で歪んだ視界は、まるでこの世界の歪みそのもののように思えてならない。


 魔法少女としての力も、今はなんの役にも立たない。こんな、自分勝手な力なんて持つべきではなかった。もっと、皆のために使えるような力がよかった。今更ながらそんな後悔が胸を締め付ける。


「どうしてこうなっているのか、分からないって顔ね」


 歪んだ視界に、彼女の友人の姿が映る。涙を拭き取り、真っ直ぐにその友人を見据えた。


「分からないよ……」


 その友人を見る瞳には、僅かながら怒りが込められている。本来滅多なことで怒らない彼女にそんな視線を向けられ、友人はやや驚いた表情をする。しかし、それも仕方のないことだ。なにせ、今目の前で起こっている争いは、彼女も一枚噛んでいるからだ。

 そんな彼女の視線を、さらりと受け流すようにその友人は鼻で笑う。


「分からないのは私の方よ。貴女、自分がどれだけ残酷な選択をしようとしたか気付いてるの?」


 努めて冷静を装って入るが、言葉の裏に潜む怒りを隠し切れはしなかった。声のトーンがいつもと違うことに気付かないほど、彼女と友人の交友関係は浅くない。


「あんなこと、ずっと続けるほうがよっぽど残酷だよ!」


 ピンクの髪の毛を揺らし、彼女は友人に向かって吠えた。揺れたサラリとした髪の毛は緩やかに元に戻る。


「ほんっと、貴女のそういう偽善者的な所大っ嫌い」


 彼女の言葉は、やはり届かない。決定的な考え方の違いは、彼女と友人との間に消えない亀裂が生じさせてしまった。

 普段と変わらないような表情を浮かべる友人の顔が、もう目には涙もないのに酷く歪んで見えた。もはや、友人が何を思って何を考えているのかも分からない。

 そう思うと再び涙が溢れてきた。かつては一緒に戦い、分かりあった仲間であったのに。一体どこから、こんなすれ違いが起こってしまったのだろう。


「残念よ。友達にこんな真似はしたくないんだけど」


 そう言うと、友人は銃らしき武器を片手に持ち、その銃口を彼女に向けた。

 睨み合う彼女と友人。銃口は彼女の眉間を当たり前のように捉えている。確実に殺す気でいる友人のその姿を見て、もう分かり合うことはないのだと彼女は悟った。


 しかし、友人は、この近距離でも銃から発射された攻撃が彼女の眉間を貫かないことを知っている。それは、友人の温情や情け、後ろめたい気持ちからくるものではない。あえて言うなら、実力の差、彼女の能力。

 正面から戦えば、友人に勝機がないことは分かっていた。それは、彼女の背後から様子を伺っている友人の仲間も同様のことを思っている。

 しかし、彼女の友達であるからこそ、友人は対策を練る事が出来た。実力も能力の差も埋めて有り余る、絶対的な対処法。


「貴女なら、この後どうなるか分かるわよね」


 友人は、その銃口を彼女とは違う方向へと向ける。

 そして放たれる銃撃。その現場を目撃したものは数少ない。


 もしこの世に、歴史が変わるポイントというものが存在するのだとしたら、まさにこの瞬間だ。


 この日、この瞬間のことを口にする者はもういないだろう。

 それは魔法少女の歴史における恥ずべき汚点。闇に葬られるべき事実。

 終わろうと……止まろうとしていた歯車が、油の切れたようなキュルキュルという狂った音で再び動き始める。加速を始めた歯車から発せられる音は、まるでこの世界の現状を笑う、狂人のようだった。

初めての小説投稿となりますので、頑張って最後まで続けます。

よろしくお願いします。

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