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僕のこと

あれから彼女からは

完全に音信不通だった。


バンドの練習にも顔をださない。


もういい加減

彼女のかわりのボーカルを捜さなければ

バンドはそんな雰囲気だったが


僕の内側からは

なにかがふつふつとわきあがっては

ふつふつと泡みたいに消える

そんな感情に鳥肌をたたされていた。


彼女がどこに行ったのか、

それはある日

スタジオにある倉庫をあけて知った


灯台もと暗し。


彼女はそこにいた。


ふっくらしていた彼女は

原型が分からないくらいがりがりにやせ細って

僕が優しく抱きよせても

あの無邪気な笑顔を浮かべなかった


体には保冷材のようなものが

まきついていた。

保冷剤はまだ新しかった


彼女は死んでいた



僕はその時のことをよく覚えていない


君は「静かに泣いていた」というし


あなたは「大声で泣いていた」という


どちらが正しいのか

きっとどちらも正しいのだろう


後から聞いた話


彼女は性的暴行をうけたあと

あそこに監禁されたらしい。


僕はその時はじめて

はっきりした意識で泣いた。


僕は知っていたのだ。

彼女がどれくらい僕を好きだったか

僕がどんなに無愛想に早めに歩いても

彼女はかならず後ろから小走りで僕を追いかけた

僕がどんなに無愛想な態度をとっても

彼女は隣で笑っていた


楽器しか愛せない僕を彼女は愛していた

楽器しかできないところを一番誰よりも好きでいた。


彼女が僕をどのくらい好きか

何故そんなに好きなのか


本当は僕は知っていた。


だが誰にも言わなかった。


僕も好きと言えば気持ちは渦の中に消えていくような気がして


君にもあなたにも言えなかったんだよ


だけど、僕が泣いてる理由は

そんな甘酸っぱい感情からではないのだ


なぜ泣いているか僕にはわからない


わからないのだ


僕が知りたかったのは

僕が彼女を好きな理由だったのかもしれない

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