彼女のこと
今までの17年間
僕は楽器一筋でやってきた。
はじめての恋人と言えば
バイトをしてためた金と親に土下座してもらった金で
やっと手に入った5万程度のドラムセットである。
あとはバンド
好みは女性ボーカル。
ガールズバンドもだけど
一番は男性と女性のツインボーカルにひかれる。
そんな僕には
彼女なんてできたことはない。
髪はのばしきってて
たまに眼鏡をかけて
下をむいたままぼそぼそと歩いてきたやつの隣を
好んでついてくる相当なモノ好きはきっといないだろう
誰もがそう思っていたし
僕自身だってそう思ってたから
不思議なんだ
彼女が僕を好きな事が。
事は急に激しく展開した
寒い夜だった
年を越すか越さないかそんな時期
僕は同じバンドメンバーのボーカルと仲が良くなった
初めて同じ年の女の子と仲良くなって
初めて同じ年の女の子といい雰囲気になった
だから
調子になった僕の口は
開いたかと思うと
次の瞬間こんなことを言ったんだ
「あの、僕達ってさ、付き合ってるの?」
自分で言ったことの重大さで
脳内は破裂しそうだった
あがった心拍数と
脳内に流れ込む血液
僕はそれをしっかり感じた。
たのむ、うん。と頷いてくれ!!!
「うん」
「え?!」
「好きだよ~」
彼女はニコニコと僕を見つめていた
「あ、ありがとうございます、、、」
こうして17年間はなんだったんだ
と思うくらいにあっさりと僕の彼女はできた。
そんな話をすると
君は「それ利用されてるだけじゃない?」
と僕に言った
いいタイミングで彼女が戻ってきたから
それ以上なにも聞けなかったけど
ふと、そうかもしれない
そう思った。
「あんたの彼女ってさ、あれでしょ?同じバンドの、」
はたまた貴方はそう言った
「え、なんで?」
「なんでって、彼女さん、いつもあんたのこと見てるじゃない」
なんて言って笑うから
ますます僕にはわけがわからなくなった。
彼女はよく笑った。
無邪気で精神年齢が低かった
僕の女性の好みとは程遠い。
だけど僕は彼女の隣を離れなかった。
その、当の本人は、僕とあなたの会話を聞いてるのか
聞いていないのか
携帯のゲームがどうしてもクリアできないと頬をふくらませていた
帰路、彼女は僕に
「ジュース買って」
と自販機の前で止まった
「はぁ?なんで」
「いいじゃんかよー!!買ってよ!!!」
まったく、
今の僕の目には前者か後者でいったら
前者でうつっていた
本当に自分は
利用されてるだけかもしれない
100円玉が
自販機の底に落ちた音が
むなしく人通りの少ないシャッター街に響いた
彼女はあまり話さない
こっちも見ない
ただ笑顔だった。
彼女はたまに
僕の名前を変わったあだ名で呼んだ
「なに?」
と返事をしても
首を横に振って
黙って色気のない頬笑みを浮かべるだけだった
だから会話もあまりはずまない
それにくらべ
あなたとは話がつきなかった
恋愛対象としては見ていなかったけど
姉的な存在で
なんでも話していた。
あなたと付き合っていれば、なんて考えてしまったこともあった
「ほかの子に甘えたりせんで。」
彼女がそう言ってきたのは
僕がそんなことを考えた翌日だった。
彼女はいきなり
後ろから僕に抱きついて
そんなことを言うのだ
実に勝手な女だと思った。
だから僕は
「僕等って、かみ合わないよね」
そんなことを言ってやったのだ
僕の背中はじんわりと湿った
振り向くと彼女が泣いていた
白い肌にしずくが一つ二つ落ちる
それを見てさらに腹を立てた僕の口は
こう開いたんだ
「だって、君からは
なにも話さないじゃないか。」
すると彼女はさらに泣いた
しばらく泣いて彼女からやっと出た言葉は
「ごめんなさい」
だった。
後には
「昔から好きな人の前だと何を話していいか分からなくなる。
だけど、あなたの前では結構しゃべれてるつもりだったの」
と続いた
気付くと
次の瞬間、僕は彼女を抱きしめていた
「ぼくこそ、君がそんなに僕のこと好んでいてくれたなんて知らなかったから」
彼女は僕の腕の中で首を横に振った
こんな話
君にしたら
「いつからあんたはそんなにキザになったんだ」
と言われそうだね
とにかく彼女は僕のことが
泣くほど好きらしい。
だけど
僕にはわからない。
なぜ僕のことを好きなのか
僕には彼女が僕を好きな理由がわからないのだ。