ねこのしっぽ
「ねこのしっぽになりたい。
ねこ本体の感情のままに動かされ、踊らされるだけの
あのふわふわでしなやかなねこのしっぽ。・・・いいなあ」
と、よし先輩が言うので、「じゃ、私のしっぽになりますか?」と
冗談で答えると、よし先輩は「君はねこじゃないじゃない」
とため息まじりに言った。
よし先輩は本気でねこのしっぽになるつもりだ。
こうなったら誰もよし先輩を止められない。
よし先輩はこのままではねこのしっぽになってしまう。
頭の良い先輩ならばきっとねこのしっぽになる方法を見つけてしまう。
私はなんとしても止めなければ、と思った。
ねこのしっぽだけはいけない。
よし先輩にねこのしっぽは似合わない。
と、私が頭の中でぐるぐる考えている間に、
よし先輩は真っ白なかわいいねこになっていた。
よし先輩であるねこは
「あれ、おかしいな、ねこのしっぽになるはずが
ねこそのものになってしまった」
とニャーニャー言った。
よし先輩でも失敗はあるらしく、
すぐにねこのしっぽになる方法を思いついたらしいが
完璧ではなかったようだ。
私は珍しい先輩の失敗に少し笑って、
その後、猫語で一生懸命
「先輩、ねこも悪くはないでしょう?
ねこのしっぽになるより、このまま過ごされたらどうですか?」
とニャーニャー言ってみた。
「そうだね。悪くはないよ。なんだか気持ちがいい。
しばらくはねこでいるのも良いだろう」
と先輩であるねこはニャーニャー答えた。
そして大あくびを一つして、どこかへ行った。
それから私はよし先輩であるねこを見かけず、
よし先輩自身も見かけなかった。
もしかしたらあの後、どこかのねこのしっぽになってしまったのかもしれない。
私はよし先輩がねこのしっぽになるのをうまく止めたのだと思っていたが、
よし先輩は私がねこのしっぽになるのを止めようとしているのを知っていて
それであえて最初にねこになったのかもしれない、と思った。
「してやられた」と私は小さくニャーニャー言った。