第四章
こんにちは。
読もうとしてくれてるそこのあなた!←
本当にありがとうございます。
あの、一つ忠告があります。
今回からスマホ投稿になるため、段落がありません…見にくいかもしれないです、ごめんなさい。
近いうち直すようにします。
四章は初の別目線です。
それでは、どうぞご覧ください。
微妙な明るさの朝のこと。
まだ寝ていたかったのに、日の出と共に目が覚めてしまう。カチカチと音を立てている時計を見ると、まだ五時をちょっと過ぎたところだった。
なんだかもう、お年寄りみたい。
すーすーと寝息を立てながら寝てるひとを起こさないように、のそりとベットから出る。
今日もまた、九時とか十時だとか、遅い時間まで寝ているのだろう。一週間お疲れ様、と心の中で呟く。
そろっと箪笥から適当な服を見繕って、やっぱり音を立てないように着替える。
静かな朝。
さあ、今日も頑張ろう。
いつもと同じようにパシャパシャと顔を洗う。温かいお湯で洗うと気持ちいいんだけど、これで月何百円かの節約になると思うとやらざるを得ない。冷たい水で眠気が吹っ飛ぶ。
冷蔵庫の前に立って、ふう、っとひとつため息をついた。
朝ごはん、何にしようかなあ。
とりあえず炊飯器を開けてみる。
……ご飯、炊き忘れてた。
今日はパンの日だ、と思い直し、食卓テーブルの上に常備している食パンの袋を開け、二枚だけ取る。しっとりとしたパンが美味しそうだったけれど、焼かないとお腹を壊しちゃうね。そんなことを考えて、トースターにパンを入れる。
おかずはスクランブルエッグがいいな。
冷蔵庫から卵を二つ取り出して、お椀に割り入れた。軽く胡椒を振って、菜箸でかき混ぜる。
2DKの部屋に、かしゃかしゃという音が響く。
一人いないと、そこまで広くない部屋でさえ広く感じることがある。
今日もそういう日だ。曇りのせいかもしれない。
早く起きてこないかなあ。
スクランブルエッグだって、あなたが好きだから作るのに。
それに、卵料理は出来たてが美味しいのに。
……起きてきたら卵、温めてあげよう。
朝ごはんを作って、洗濯をして、お皿を洗って。
現在午前七時半。
彼はまだ起きてこない。
疲れてるのはわかるけどね、休日だからって生活リズムは崩しちゃいけないんだよ。
少し話してから買い物に行きたかった……
さっき味噌汁を作った時、塩やら醤油やら、他にも探してみると、もうすぐきれそうなものが沢山見つかってしまったのだ。
普段から怠けててすいません……。
そのため朝から近所のスーパーに買い物に行くことになってしまった。
面倒だけど、これが主婦業です。
ささっと歯を磨いて、お財布を持って、軽めの上着を着る。
春ももうすぐ終わるな。
あ、置き手紙書いておこう。
『翔ちゃんへ
おはようございます。
近くのスーパーへ買い物に行ってきます。すぐに戻るから心配しないで!テーブルの上にあるもの、食べてくださいね。奈生より』
っと、こんな感じでいいかな。
先程パンを載せた青いお皿の下に手紙を挟める。
意外と寂しがり屋なものだからね、あの人。
……寝顔だけでも見てから行こう。
まだまだ私は新婚気分なもので、こんな行動はバカップルとでも言われてしまいそうだ。
また静かに寝室のドアを、今度は開けて、彼の寝顔を盗み見る。
ぱたっと寝返り。可愛いけど、これ以上いると起こしてしまいそうだ。
こういう時って第六感的何かが働くような気がする。
"行ってきます"。口パクでそう告げて、かちゃりとドアを閉めた。
靴を履いて玄関の扉を開けると、いきなり行く気を削がれた。
さっきまで微妙な曇り方をしていた空がどんより、どす黒い曇り方になっていたのだ。
うーん、一応傘を持っていこう。
二十四時間営業のスーパーは、家から続く真っ直ぐな並木道を歩いて約十五分。そこそこ近くにある。
生鮮食品のくせにそこまでイキイキしてない商品も多いが、調味料なら問題ないだろう。
真っ直ぐな並木道は綺麗に整備されてあって、歩くのが楽しい。坂道もあったりして飽きない。
ここを歩いていると、時々人生みたいだと思う時がある。
上がって下がって、どこまでも続いていくような気がして、それでもいずれ途切れてしまう。
私もいつか……って変なことを考えてしまった。朝からこんなどんより空だから変なことを考えてしまうんだ。
ぼんやり歩いていると、視界にピンク色がひらひらしながら映り込んだ。
「あ、桜。」
ふいに並んでいる桜の木を見上げると、花はすでに散っているみたいだった。
そっか、今のがもしかしたら最後の一枚だったのかな。
ちょっと前まで優美に咲いていたんだと思うと、少し寂しい気持ちになった。
十分ほど歩くと横断歩道に差し掛かった。
ちょうど並木道と交差するように位置するこの国道は、平日だろうと休日だろうと、朝の交通量が半端ない。平日は通勤、休日はレジャー。
世の人々は忙しいですねえ。どこか他人事のように思う。
そして今日も例外ではなかった。
まだかなあ。
ここの横断歩道はひどく時間が掛かる。
私の横には頭の横で小さく二つ結びをした、四歳か五歳くらいの女の子とそのお母さんも信号待ちしていた。
お母さんらしき人は紺色のスーツを着ている。
これから保育園に行くのかな?
白いワンピースのその子は腕にくまのぬいぐるみを抱え、保育園に行くにはちょっと変わった格好をしている。
でもそれがまた可愛いらしい。
微かに向こうからブロロロロ、と大きいエンジンの音が聞こえてきた。百メートルくらい先からトラックが走ってくるのが見えた。
うわあ、ガスくさそう。
でも……あれ? 何かがおかしい。
私は瞬間、トラックの異変に気がついた。
やけにふらふらと車体が揺れているのだ。
目を凝らす。
あの運転手……寝てる?
そう気付いた時にはもうトラックがすぐ二、三十メートルに近づいていた。
ふらふらしたトラックが向かう先には、あの親子がいる。
まだ危険に気づいていないみたいだ。
やばい、このままじゃぶつかる……!
「すいません!そこのお母さん!!」
気づけ。私は必死で呼びかける。
「え?」
「危ないです!!トラックが来てるんです!」
もう一度えっ、と頓狂な声を出した彼女は、ようやくトラックに気付き歩道の端へ逃げる。
良かった……!!
だがさっきまで母親一緒にいたはずの女の子の姿が見当たらない。
「そんな、どこ?!」
その時、ふっと白い影が私の横を通った。
小さな体が、暴走する車へ向かって走っていく。
よくわからないのに、私は女の子の方へ駆け出した。
助けなきゃ。
トラックから女の子まではもう十メートルもない。
わからないままとにかく間に合えって走って、
私は女の子の手を掴んだ
……はずなのに、手にその感触は全くない。
その代わりガンッ、と重たいものがぶつかった音がした。
あ、れ……?
体が私のものじゃないみたいな感覚。
目の前では色んな色が混ざって、自分が何を見ているのかわからない。
あ、私飛ばされたんだ、トラックに。
何もない。
痛さも、怖さも、飛んでる感覚でさえも。
まるで自分が、この世界の人じゃないみたいだ。
この世界の人じゃない……
ここに私はもういない。
そうか、私、死ぬんだ。
もうその時がきてしまったんだ。
ごめんね、どうしよう、会いたいよ……ねえ、翔ちゃん。