第二章 ②
誰もいない家に帰って、今の自分にできることを考えた。
記憶喪失、か。
何か思い出すきっかけがあればいいのだろうか。
例えばどこか記憶に残っている場所に連れていくとか、昔の写真を見せたりとか…写真。
そういえばここに引っ越してくる前に、管理しきれないからと、奈生の両親からアルバムを預かったはずだ。どこに閉まったっけ。
家中のクローゼットやタンスをひたすら開けてまわった。
寝室のクローゼットを開けると、側面にペンで"思い出"と書いてある段ボールを見つけた。これだ。
すぐさま段ボールにへばりついていたガムテープを引き剥がした。ベリベリと音がする。
中を見ると、カラフルなアルバムが何冊か入っていた。左から順に、小学校、中学校、高校、と並んでいる。小学校より前の幼児期の写真がないことに少し疑問を感じたが、とにかく今はあるものからいい情報が出せればそれでいい。
そう思って、彼女の高校時代のアルバムを開いた。まだ七年しか経っていないせいか、古さは感じられなかった。
懐かしいなあ。
ページをめくっていくと、ぺらりと何か出てきた。
手紙だ。
宛名には、"天川 奈生様"と書かれている。
そうだ、これは僕が奈生に送ったものだった。
その時だ。
窓から突然、強い風が吹き込んだ。重たいはずのアルバムのページが、次々とめくれる。
窓の方を見ると目の前が真っ白い光で覆われたように、一瞬何もみえなくなった。
風が止んで再びアルバムに目をやると、そこには見覚えのないページがあった。
真っ白いページに、一枚だけぽつんと写真が載っている。何枚めくってもそうだった。
しかも載っている写真は、どの人も全くこちらを向いていない。まるで日常風景を切り取ったみたいな写真だった。でも写真としては少々不気味だ。
僕は一番最初の白いページを開いた。
写真に写っていたのは、僕だ。五、六人の生徒に囲まれている。
それは、どこかで経験したことのある光景だった。
どこだったっけ。
思いだそうとしても、なぜだか思い出せない。それでも記憶を辿ろうとすると、今度は頭が痛くなった。ズキッと激しい痛みが襲う。
ついに視界がぐるぐると回りだした。頭を押さえても大して効果がない。
痛っ…我慢できなくなって、僕はそのまま床に倒れこんだ。