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これは君の物語  作者: まぁまぁ
序章
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第六話 教会

レクトが5階層に辿り着くと、そこには真白な大都市が広がっていた。

雰囲気はヴァチカンに似ている。

全てが教会の領地で、その広大さと優雅さに圧倒されて足が竦むような気がした。

少し視線を外へ向ければ遠くまで大地が広がっている。


「綺麗」


お母さんが言った通り、世界は平面で出来ているのだと少し実感することが出来た。


レクトが一歩足を踏み出すとカツリと高い音が鳴った、というのも道ゆく樹から降り立った広場は全て白石で舗装されているからだ。

教会もそれを囲むように立てたれている小さなドーム型の家々も白亜で統一されていて美しい。


大教会は見上げてなお高く、荘厳な造り、窓ガラスは外から見えるものは全て虹色。

教会の入り口には広大な庭が広がり、教会に伸びるように100メートルはあろうかという噴水が置かれている。

空中には夕方に合わせてか、紅の光球が蛍のように無数に浮かび白亜の大教会を薔薇色に染めている。


幻想的な美しさの中で、呆然と教会を見上げる彼らに白のローブを纏った教会関係者と思われる初老の紳士が声をかけてきた。

「教会に用事かい?小さいお人達」

髭が口元を覆って目元が優しい。

「う、うん、喜捨服を貰いに来たんだ」

カイルが少し緊張した声で、でもハキハキと答えると、紳士は髭を揺らして笑ってくれた。

「それじゃあ噴水を行った先の教会の入り口の教会騎士に頼んでごらん、すぐに司祭様に取り次いで貰えるよ」

カイルもお転婆クルガも神妙な顔で頷く。

こんなに柔らかい空気の人なんて周りにいなかったから仕方ない。


「行こう、皆」

私がうながすと皆はコックリ頷き、口々に紳士に感謝の言葉を言って歩き出した。

私も目の前の紳士に頭を下げると彼はなぜか私をジッと見詰めていた。

「…君は綺麗な白銀の髪だね」

その言葉が嬉しくて私は微笑んだ、

「うん、お母さん譲りなの」

髪を褒められるのはお母さんも一緒に褒めてくれたような気持になるから。

それに紳士もやわらかく微笑んで頭を撫でてくれた、あったかかった。

「今日はどこかのお屋敷に喜捨を頼みに行くのかい?」

「シルヴェスト様のお屋敷だよ」

私の代わりに隣りのお転婆クルガが欠けた前歯を見せて答えた。


それに紳士は少し考えたようだけど数瞬後には、もう笑っていた。

「気を付けて行っておいで、今日は夜会があるからきっとご馳走を分けてもらえるよ」

その言葉にカイルも皆も、目論見があたったと歓声を上げた。

「よっしゃ、じゃあ早く行こうぜ!」

「おし行くか」

「スラムの仲間にも、ご飯届けてやりたいな!」

そんな私たちの様子を彼は微笑んで、行ってらっしゃいと穏やかな声で言ってくれた。


だけど私は知らなかった。

私たちが去った後に彼がフッと息を零して紡いだ言葉を。


「王太子殿下に確認していただけるよう使者を出さねばの…聖女の落とし児が見つかったやもしれぬと」


運命は私の知らないところで、もう回っていた。

世界の中心は私でない、そんな当たり前のことを本当の意味で私は知らなかった。


夕方の宵闇はいっそう濃くなっていく。

*****

そんな中でも、5階層と6階層の間層に位置するヴァンハール公爵家は煌びやかな光で溢れていた。

公爵の屋敷で催される仮面舞踏会は夕方の帳がおりた頃から行われ、王太子をはじめ貴族の面々がそれぞれ思い思いの格好で出席したのである。

公爵邸の庭とダンスホールをメインに楽団が音楽を奏で、魔法の光の粒子が妖精の粉のように人々の間を舞っていた。

主催者であるシルヴェストは仕方ないと腹をくくって、ややウンザリと周囲と会話していた。


ちなみに親友である王太子殿下はなれているのかニコニコと人好きのする笑顔を顔に浮かべて、ご婦人とダンスを踊っている…流石だ。

シルヴェストにも突撃のように婦人方が誘いに来るので、やや辟易しながら彼女等と踊った、もはや義務である。

漆黒の髪に、冬の空を切り取ったかのような蒼の瞳は仮面をしていても目立つ、仕方ないとは思いながら、ただ女性たちの香り立つ香水には心が冷えた。

男爵令嬢

侯爵令嬢

やれ大豪商の令嬢

皆が皆、似たような化粧で自らをつくろい、華やかな香りを纏いつかせていた。


けれどシルヴェストはあのスラムでの臭気を思い出す。

あの時の痩せ細った銀髪の子供を思い起こすと…あまりの落差に叫びだしたくなった。

性別すら分からぬほど痩せ細った子供からは、真っ直ぐな瞳の光彩を見とめることが出来た。


あの生き抜こうと足掻く瞳の輝きが此処にある何よりも、尊いと思うのだ。


そしてまた一人の令嬢と踊りきり、シルヴェストはダンスホールの踊りの輪の中から外れ、庭へ出ようと足を向けた、そこでの再会を知らずに…。

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