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これは君の物語  作者: まぁまぁ
序章
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第三話 道ゆく樹

ハイウルフ帝国は空へ浮かぶ大地をゆうしている。

過去の大魔術師による術であると言い伝えられているそれは、現在ではその階層的構造がそのまま身分的階層にも用いられ上の階層に行くほど身分は高い。

また魔物の猛威にさらされている為、騎士団の社会的地位も高く、騎士団も総じては上の階層に詰め所を持っているのである。


そしてその浮遊する大地と大地を結びつけるものは、魔法柱と呼ばれる光の粒子である。柱と呼ばれるだけあって全て円柱型で小さいものでは30cm、1mほどの光の粒子は国中に数百本散っている。

地表から出でて、2階層、3階層と通じたり、それぞれ2階層から5階層に通じているものもある。

魔法で構成されたそれらは複雑に絡まり合い、光、風、大地、水といったありとあらゆる要素の力を借りて浮き上がっている、がさっきも言った通り仕組みは分かっていない。

この魔法柱の最大のものは国の地表市街地中央に幹のように輝いている幅が50m程もあるものである。

これは基本的に全ての階層に通じている。

そしてこの「魔法柱」を人は親しみを込めて「道ゆく樹」と呼ぶ。

その由来は、この国を支え続けた力に畏敬の念を込めて、死者の魂が天へ昇る際は此処を通り「逝く」と考えられているからである。

また実際、この魔法柱が人が上の階層へ行く「道」となっているからである。

*****

空気が光っている。清浄な力に溢れた「道ゆく樹」を中央にすえた広場に帝国軍人の軍服をまとった治安維持部隊三十人程が集まっていた。

「全員いるな」

副官であるマリエルが声をかけ点呼を取ってる姿を見詰めながら、シルヴェストは面倒臭いとばかりに佇んでいた。どっからどうみても若い上官が部下に仕事をまかせっきりにしてる図であるのに、誰もそうは見ない。

好意的に畏敬を込めて「英雄」として見る道行く人々の視線を所々から感じて、シルヴェストの心を冷やすのだ。

俺は英雄なんかじゃねぇんだよ。

だがその独白は決して、呟いたことはない。

求められている役を演じなければならないと分かっているからこそ。

シルヴェストはそっと襟元の狼の刺繍に触れた、それは、ハイウルフ帝国の神獣をかたどったもの。

神獣・銀灰狼

シルヴェストの運命はその神獣に会った時に変わったのだ…あの血に塗れた戦場で。


「シルヴェスト大将、全員おります」

だがその物思いはマリエルによって遮られる。

その声に「英雄」は口の端を上げ傲然と笑い、ただ一言「遅い」と口にした。


彼にだけ許された漆黒のマントを翻し、英雄は光の柱へ消えていく、付き従う数十の騎士達。

次々と浮き上がり、空へ上がっていく、上がれば上がるほど光に飲まれやがて見えなくなった。

それを見送る人々の目には神々しく映った。


英雄・シルヴェスト・フォン・ヴァンハール


彼の名を誰もが知っている。

そして誰も「英雄」でない「彼自身」を知らない。

*****

魔法柱の中を浮力に体を預けて昇りながら、隣りまでやってきたマリエルがシルヴェストに声をかけてきた。

「今日は残念です」

「あぁ」

成果は悪いだろう。商売をしている違法者を捕らえることが出来ていないのだから。

「上もヤキモキしていることでしょう」

シルヴェストは懸命にも無言を通し、逆にマリエルに鋭い視線を投げた。

「上に居座ってるジジイなど放っておけ」

「・・・はぁ」

「ヤキモキさせとけ、だいたいそういう風に感情をあらわしてフガフガ出来なくなったジジイからポックリ逝くんだ」

「・・・」

シルヴェストの言はジジイが聞いたら余計なお世話じゃとぷんすか怒りそうである。

「まぁ・・・分かります、でもあの方は・・・」

「言うな」

そこで深くシルヴェストはため息を零した。

「アイツの事は、それこそ放っておけ」

その言葉にマリエルは実直そうな瞳を見開く。

「親友でいらっしゃるのに、そういう扱いでいいのですか?」

少し驚きの入ったマリエルの言葉。

その親友という単語にシルヴェストは苦虫を噛み潰したかのような顔になる。

「親友、って言われると否定したくなるな・・・」

「違うんですか、結構一緒にいるじゃないですか」

「まぁな・・・でもお前はアイツの怖さ知らねぇだろ」

この時二人の脳裏に同時よぎったのは、さる人物だ。

「・・・噂は存じておりますよ」

そして二人は口を閉ざした。

*****

時間にしたら十分にも満たない。

そうこうしている内に3階層の大地が視界にうつり、彼等は着陸体勢をとる。

三階層は暮らす者の大部分が貴族という事もあり「道ゆく樹」の広場を中心に寝殿造りの建物が建てられている。

騎士達はそこへ光の柱からヒュンッと飛び出して降り立った、ふわりっとシルヴェストの漆黒のマントが揺れ、カツリッとブーツが石畳に高い音を鳴らした。騎士達も反動をつけて、次々と降り立ってゆく。

だがそこは常と違う様相を見せていた。

いつもは人々で賑わっている広場は騎士達に囲まれ完全に人払いがされ、一人の青年が佇んでいたのである。

その人物を見て、降り立った騎士達は皆一様に驚き、順にその場に膝を折った。


深緑色の髪と黄緑の理知的な瞳は何とも言えない雰囲気を持ち、緩く浮かべる微笑に自分が曝け出されるような感覚すらある。彼が纏う服は華美ではないが品が良い白を基調とした夜会服。


「お疲れ様」


シルヴェスト以外が膝を折ったのを確認して、青年は深く染み入るような穏やかな声を響かせた。

青年に声をかけられた騎士達は感動しているのか身を固くしている。

それを横で眺めてシルヴェストは、微妙な思いに捕われつつ、膝を折らない特権を与えられているので、浅く礼をするに留めた、そして言葉を紡ぐ。


「どうして、わざわざ来たんだよ、王太子殿下」


からかう様な雰囲気のシルヴェストに王太子・ルフィス・フォン・ハイウルフは笑みを浮かべた。

膝を折ることも、ため口も取ることを許している数少ない親友に向けての微笑だ。

「久しぶりに話したくなってね、良い機会だろう?」

「そうだな」

言葉通りに取るほどシルヴェストは愚かでもない、わずかに考え込むように眉間に皺を寄せている。

そのまま視線を後ろへ向けマリエルを見る…そして彼が頷くのを見て、溜息を零した。

「じゃあ俺の邸で話そう」と再び「道ゆく樹」へ踵を返し、王太子もそれに続くのであった。

*****

二人が上の階層へ昇がっていき、光に呑まれ視界からいなくなると騎士達は立ち上がり居住まいを正した。そして口々に上ずった声で先程彼等に起こった僥倖を思い起こす。

「初めて皇太子殿下を間近で拝見した」

「お声をかけて下さるなんて」

「本当に有り難いよ」

「なんであんな人がいるんだろうな」

マリエルも心臓をドクドクと早鐘のように打ちつけ落ち着けることが出来ないでいた、王族とまみえたのだ仕方が無い。

雲の上の存在だ、それこそ平民でのマリエルでは一生会えない確率の方が高かった人物である。

はじめて会ったが、噂に違わぬ大器のような気がした。

先程、話題にのぼったシルヴェストの「親友」というのが・・・「王太子」その人である。


噂をすれば影というが、あの微笑の裏で何を考えているのか分からない、権謀術数渦巻く王宮で貴族たちを手玉に取っていると名高い殿下ならば、俺の考えなど全て見通しているような気がして・・・いやはや肝が冷えた。

そしてそんな風に思考に落ちている彼の耳に部下の声が届いた。

「それにしても何で王太子殿下は、此処で待っていらしたのだろう」

「夜会服を着ていらっしゃっただろう」

「あぁ!そうか、」

騎士も夜会には出るが王族も出席するものとなれば、それは上流貴族達の夜会である。

少なくとも貴族でなければ出席することも出来ない。

それが今夜あり…故に時間のあった王太子殿下は思い立って親友の騎士を迎えに来たのだろう。

シルヴェスト自身が貴族であるにも関わらず、貴族を毛嫌いしているので、夜会をすっぽかすといったことがよくあり、部下である騎士達が他の貴族から嫌味を言われることがあるのだから始末に終えない。


なぞが解けたところで、騎士達はマリエルから「詰め所へ戻って今日の報告書を終えるぞ!」という指示を貰い、わらわらと動いていったのである。





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