第二十四話 集団魔法
*6月15日加筆
騎士団の戦陣は”陣形”と”シールド”によってひらかれるのが殆どである。
対魔物との戦しか行わない騎士団の勝敗はその”集団魔法”によって左右される。
攻撃陣系と防御陣形など様々な”陣形”と”シールド”によって様々な用途で発動し、その体当り的な攻撃は確かに魔物への強力な一撃となるのである。
そしてもっとも攻撃力の高まる突撃陣形で高い防御と攻撃を備えるシールドを発動し、騎士たちは群れなす魔軍へと突っ込んだのだ。
何かが千切れるような音、強い押しつぶされるような圧迫に耐えながら騎士たちは懸命に”陣形”を守り、空を駆ける。
「決して圧力に負けるな!離脱すれば外の魔に飲み込まれるぞ!!」
マリウスが”陣形”の先頭に立ち、魔法の要を担いながら仲間に檄を飛ばしている。
彼は騎獣を操り、剣を掲げ、必死に仲間を鼓舞しながら先頭を駆け抜けているが、端を担う新兵は付いてくるのがやっとなのが彼には分かっていた。
それもその筈で、この”集団魔法”の欠点として巨大な圧迫が上げられる。
魔法が強ければ強い程、その反射として圧力が騎士団全体にかかるのだ。
それは訓練したり補助魔法を予めかけることで軽減することが出来るが、ベテランはともかく経験の薄い新兵などは”弾きだされて”命を失うこともある。
ー…騎士団の周囲は魔のモノで溢れていた。
巨大な昆虫が羽を千切らせて下に落ちてゆき、赤黒い毛並みの狒狒や猿、竜厭の吐かれた炎、立ち上る漆黒の臭気で空さえも見えない。防御も高い”陣形”でなければ、即座に喰い破られていたであろう魔の多さだった。
ギャアアアアッグアアアアッと人間のように悲鳴を上げて消えてゆく醜悪な生き物に囲まれる中を突き進む。
それは、だが見る者の目を惹きつける勇壮な光景だった。
かくいう英雄・シルヴェスト・フォン・ヴァンハールも自身の部下たちの獅子奮迅の活躍に血が滾るのを感じていた。
「おいおい俺の分も残しとけ」
そう言うものの彼の口の端は悪童のように微笑んでいて、そして見る間に、騎士団たちは見事に”魔軍”の群れに損害をあたえ、中央突破を達成し、分裂されることに成功する。
即座に迎撃態勢を整えようとしている騎士たちを見ながらシルヴェストは銀灰狼を駆りながら魔法を展開させた。
「さてと討ちもらした者共で我慢してやる…てめぇら生きられると思うな。」
風がすぎてゆく感覚と手に集まる魔力の感覚がやけに鮮明で、シルヴェストは凄絶に嗤う。
爛々と輝く蒼い瞳が衝動に輝いていた。
殺戮衝動だ。
瞬間、シルヴェストを乗せた銀灰狼の周囲を何重もの魔方陣が展開される。
白銀の輝きを放ち、先程の″3戒魔法″よりは小さいが無数のそれの消費魔力は常人では死ぬレベルのものだがシルヴェストは平然とただ一言命じる。
「逝け。」
瞬間、無数の光が放たれた。
圧倒的な光の流星はいったん空へ上り、そのまま降り注ぐように魔軍たちを貫く。
音と光の奔流の中、結界に守られ騎士たちが振り仰いだ先に見たのは、まぎれもない希望。
「シルヴェスト隊長だ!!」
「やったぞ!」
どこからともなく騎士たちから歓声が湧くのをマリウスは光の残滓を残す空を見上げて緩く微笑む。
「美味しいところ全部もってくのは、どうかと思いますよ」
そして大柄の体から、ゆるく緊張をほどくように、溜息とともに囁いた。




