第二十二話 魔導師
間があいてしまいスミマセン;;
リハビリです。
傾いだようにこちらへ落ちてくる"魔のモノ"に対して、貴族たちは悲鳴を上げた。
戦場へ立つことなど無い貴族達だからこそ、このような事態に免疫がないのだ。
だがそんな中であって彼等は恐怖から逃げ出そうとする足を留めていた。
それはそこに彼らが命をとしても守らねばならない存在がいるからに他ならない。
「陛下お早くお逃げください」
切羽詰ったような声で声をあげたのは一人ではなかった。
だが声をかけられた当人である皇太子・ルフィス・フォン・ハイウルフはゆるりと底の見えない笑みを浮かべた。
「逃げようにも、ヴァンハール伯爵家を出て、街に行かなければ階層を脱せない。
外の方がどのみち危険だろう。」
このような事態であっても冷静な彼の言葉に、だが貴族たちは焦りの色を深くし、
「であるなら出来るだけ奥へとお下がりください。」
と進言した。
確かに貴族たちの言い分の方が正しいようにレクトフィリアには思えた。
尊い身分の人が争いの近くにいるのは良くない。
そう思ってルフィスに抱き上げられている腕の中で、「ここは危ないですよ」と囁いた。
すると皇太子は黄緑の瞳をレクトへ向けて、また目を細める。
「私もね、魔導師なのだよ」
にこりと微笑んだ姿にレクトフィリアは呆けてしまった。
*****
いよいよ目前にまで"竜厭"の死体は、屋敷へ直撃しようと迫ってきた。
悲鳴や、魔法が使える貴族達が防御壁を張る中で、レクトフィリアはルフィス王太子の腕の中で暖かな力の波動を感じた。
それは魔法、光の粒子がルフィスの周りに集まってきているのがレクトフィリアには分かった。
(綺麗ー…)
その美しさに恐怖は無かった。
だがそれを見ているのは自分だけだということにもレクトフィリアは気付いてはいなかった。
魔力がレクトを抱き上げている方とは反対のルフィス皇子の左手へと収束されてゆく。
貴族たちが扱う力とは倍も違うであろうことはレクトにも分かる。
ゆっくりとルフィスの手が掲げられる、"竜厭"に向かって。
魔方陣が皇子の腕を中心にして何層も形成され、それが光り輝く。
そして一瞬の閃光、音すら無かった。
ルフィスの手から離れた魔力の塊は一条の光でシルヴェスト伯爵家の屋敷をぶち抜き。
その圧倒的な光で"竜厭"を飲み込み、掻き消し、消滅させ、雲を切り裂いて、夜空に光の矢をかけた。
レクトフィリアは呆けて、自分たちの前に数秒前まであった筈の壁がなくなり視界が開けた場所で危機がなくなった夜空を見上げた。
そして恐る恐る隣りを見ると、レクトを抱き上げていた皇子がふわりと笑った。
「大丈夫だよ、さっき再生魔法かけたからね」
その言葉が終わる前に崩れていた壁の破片が勝手に浮き上がって修復され始める。
レクトはそういう問題ではないと思ったけれど、懸命にも無言を守った。
王太子は、この国では最高位に近い魔導師だとあとで知ることになる。




