うさぎマーク
空を見上げれば、そこに青はなく、灰色の世界が広がっていた。
午後6時半。学校帰りの俺は、いまだ家に帰れない事情があった。それはこの大粒の雨。かれこれ30分も駅のホールから動いていない。お昼過ぎまでは晴れていたわりに、駅を出入りする人はみな傘を持っている。多分朝の天気予報で雨が降ることを知っていたんだろう。今日に限って天気予報を見ていなかったことを後悔する。
(このままぬれて帰ってしまおうか)
そう思ったとき、後ろが騒がしくなった気がした。何だろうと思って駅の改札口のほうに振り向くと、そこには女子高生5・6人がいた。俺の高校は男子校で、女子にはめったに会わない。だから、それなりに意識してしまうわけであって。なんとなく、濡れて帰るところを見られたくなかったから、もう少しだけ待ってみることにした。
女子高生が、男にはない高い声でおしゃべりしながら、俺が立っているとこより少し離れているところを通って外に出て行く。もちろんその子達も傘を持っていた。
(やっぱ俺だけか…)
ぼーっとしながらその子達の後姿をじっと見つめていると、ふと一人の女の子が振り返った。
「!」
じっと見つめていたせいでその子と目が合ってしまった。
(やばっ…)
気持ち悪いと思われたらたまったもんじゃない。俺はすぐに目をそらした。でも、目をそらしたのは不自然で、逆に変かもしれない。
そんな不安がよぎったのも束の間、その子はすぐに雨の中に姿を消していった。
ほっとしながらも少しドキドキしている胸を押さえながら。また孤独感に包まれた。
(やっぱ濡れて帰ろう…)
そして1歩目を踏み出そうとした。その時。
「あ、あのっ」
声がした方を見ると、そこにはさっきの女の子が立っていた。その子はどう見ても俺のことを見ていて、しかも緊張した面もち。俺にも春が来たのかなんて淡い期待をもったが、その子からは俺の期待を裏切りながらもありがたい言葉が出てきた。
「傘、貸しましょうか?」
多分、俺の顔はものすごいすっとんきょうな顔をしていただろう。この子からは焦りの色が出始めた。
「あ、あの、私折りたたみ傘2つ持ってるからってだけで、別にあなたに興味があったとかじゃなくて……」
何気に傷つく一言を言ったが、怒るのは変だし俺は笑うしかなかった。
「そ、それに…すごい困ってたみたいだったから……」
その子の顔は真っ赤で、傘を握り締める手は小さくて、俺は柄にもなく照れてしまった。
「あ、ありがとう…」
「…はい」
うつむく加減で差し出された傘を受け取る。
「……ありがとう」
何でかはよく分からないけれどすごく嬉しくてもう一度お礼を言った。そのときの俺はすごい笑顔だったと思う。
その子は、それじゃと小さく呟いて走っていってしまった。
「あっ、名前っ!」
とっさに叫んだものの、雨音のせいで聞こえなかったのか、その子の姿は俺の視界からすぐに消えていった。
取り残された俺と傘。でもさっきまでの孤独感はどこかへ吹きとんでしまったようだ。
傘を広げれば、そこには男には少し(いや大分)恥ずかしいウサギマークがでっかく付いていた。少し驚いたが、すぐにおかしくなって吹き出してしまった。そして、俺はその傘を差して雨の中へとびこんだ。
読んでくださってありがとうございます。
久々の投稿なので少々緊張してはいます…!
どうかお手柔らかに^^
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