転生課異世界係の日常~とりあえずざまぁされちゃってください~
ちょっと口の悪い神様と主人公が出てきますが、楽しんでいただけたら嬉しいです。
神々がおわす天上界。五穀豊穣を祈り人々に福をもたらすには、常にパワーをフル稼働しなければならず、かなりのオーバーワークに多くの神がプチっと切れてしまわれた。
「年中戦争ばっかりして土地荒らしまくって。元に戻すのどんだけ大変だと思ってんの?」
「しかもこんなに命を奪いやがって。全員を希望通りに生まれ変わらせるのも大変なんだぞ」
「受験の合格祈願のときみたいに適当にくじ引きでいいじゃん」
「お前、来世もママの子供になりたいって泣くガキんちょに、抽選外れちゃってゴメンねミャハ☆って言えるのかよ」
「言うかボケ。全身全霊で母親と結び付けるわ」
などの有意義な話し合いを経て、自分達の仕事を一部代行してもらう部署を作ることにした。
その一つが『転生課』である。
亡くなればとりあえず天国か地獄に行くのがセオリーなのだが、どういう訳かそこをすっ飛ばして即転生というパターンがあるらしい。
そういう場合「ツチノコになりたい」だの「海賊王になりたい」だの、まぁまぁ個性的な希望先を出してくることが多いらしく、それらを「ハシビロコウはどう?」とか「石油王で手を打たない?」とか現実的なところに落として、転生ボタンをポチっと押すまでが仕事なのだという。
そんな転生課のスタッフは、チヨさんとタツさんと、わたしの三人だ。
チヨさんはおっとりとした六十代位のご婦人で、タツさんは四十代位のガタイのいいおじさんだ。
ちなみにわたしの名前はマリで、おそらく二十代位だと思う。
はっきり言えないのは、わたしに前世の記憶がほとんどないからだ。
知識や経験といったスキルはあるのだが、自分の名前や年齢をはじめ、家族構成や人間関係の記憶がとても薄い。
しかも自分がいつどうやって死んだのかも覚えていなくて、気付いたら天上界で神様の前に立っていた。
「あなたの名前はマリよ。今日からここで働いてね。これから推しのアイドルのファンミなの。急いでるから、あとはよろしく!」
とド派手なファンサうちわを手に持った神様に、いきなり転生課に放り込まれたときはどうしようかと思ったけど、チヨさんとタツさんのおかげでけっこうすぐに馴染むことができた。
チヨさんは『ほのぼの係』担当だ。
この間は「子供の頃に憧れた、月に代わってお仕置きする美少女戦士になりたい」と瞳を輝かせる女性に対して、「だったら2.5次元俳優はどうかしら?色々なアニメキャラを演じられるから、きっと楽しいわよ」と軽やかにまとめていた。平和だ。
タツさんは『人情係』担当だ。
「僕、ずっと苛められていて…何度生まれ変わっても追い掛けるって、逃げられないぞってアイツに言われたんです」と身体を震わせる男性には、「まかせておけ。お前さんとその外道との縁は俺のこの刀で叩き斬ってやる」と安心させ、後に「虹になりたいです」と言った彼を笑顔で見送っていた。泣ける。
そしてわたしは『異世界係』だ。
じつは数年前から「乙女ゲームのヒロインになって逆ハーを堪能したい」や「ざまぁ返しして隣国の王子に溺愛されたい」などと熱望する女子や、「最強の魔力とスキルを手に入れて冒険者として成り上がりたい」や「獣人やエルフのような異種族の美女に囲まれてスローライフを送りたい」などと訴える男子が増えてきたそうだ。何だそれ。
予想外の事態にチヨさんとタツさんは困惑する。
ほぼ全員が転生後の自分の人生に関して、前世の知識を元にした成功を疑っていないのだ。
いくら「転生後は前世の記憶は消える」と説明しても、「物語の強制力があるから大丈夫」だの「チートスキルや魔力があるはずだからイケる」だの、自信たっぷりに言い切るのだ。人の話を聞けよ。
そんな輩が後から後から湧いてきて、次から次へと様々な異世界への転生を希望するのだ。さすがの二人も疲れ果てる。しかも乙女ゲームやらチートスキルやらの彼らの言葉の半分も意味が分からない。
上司の神様は推しのアイドルの全国ツアーを制覇するため、天上界にちっとも帰ってこないので相談もできない。神が「神パフォーマンス最高♡」とか言ってんな。
ついにプチっと切れた二人は、何の調整も見直しもせず、すり合わせも根回しも一切しないで、希望者全員をそのまま異世界に放り込んでしまう。問答無用で転生ボタンを連打である。
もちろん一つの物語に何人も同じヒロインや悪役令嬢が勢揃いしようが、最強のスライムが集結しようが知ったこっちゃない。望み通りの世界に希望の配役で転生できたのだ。あとは勝手にやってくれ。と完全放置だ。
当時のことを語るチヨさんとタツさんの目は怖いくらいに据わっていた。希望者の態度も相当悪かったのだろう。タツさんの刀が抜かれなくて良かった。神様に持たされてるらしいけど、どう見ても妖刀っしょ。ヤバいっしょ。魂消滅の大惨事っしょ。
大混乱に陥った異世界の話を他の神様から伝え聞き、さすがに推し事に励んでいた神様が戻ってきた。しかもライブ会場で買い漁ったグッズを山ほど抱えて。それらを見たチヨさんが「ずいぶん楽しまれたんですねぇ」と微笑みながら、神様お気に入りのアクスタの一つを片手で潰したという。握力パネェ。
粉々になったアクスタの残骸を見て、神様は膝から崩れ落ちて慟哭した。同時に反省もした。二人に任せてから時間に余裕ができ、今まで我慢していた推し活を再開できた嬉しさに、箍が外れて調子に乗ってしまったと、顔中を液体だらけにして謝罪した。
その場でスタッフの増員と給与アップ、三時のおやつのグレードを上げることを約束した神様に、「俺は月次祭の酒がいい」とちゃっかり便乗したタツさんだが、刀をさっと一振りすると、粉塵と化したアクスタがあっという間に元の姿に戻った。妖刀スゲェ。
神様は復元されたアクスタを抱きしめ号泣した。同時に五体投地でタツさんを拝んだ。そして身体中の水分が干上がる寸前の神様に代わり、優秀な神使いによって全国からスイーツとお酒がこれでもかと届けられ、神様危機一髪の状況が回避された。
そんな波乱万丈な経緯があって、なぜかわたしが『転生課異世界係』を担当することになったのだが。
長い前置きはさておき、新設された『異世界係』は大盛況だ。今日はあと一人対応すれば休憩に入れる。
三時のおやつは何ですか?神狐が厳選した有名店の薄皮饅頭?わたしはつぶ餡が好みです。大事なことなので二回言いますね。つぶ餡が好みです。
「はい。次の方どうぞ」
呼び掛けと同時に高校生位の男の子が対面の席につく。両耳のルーズリーフみたいなピアスはまぁいいとして、ポケットに両手を突っ込んだまんまなのはどうなんだ?シバくぞ。
あらかじめ記入をお願いしていたアンケートには「レベルカンストの魔術師としてダンジョンを制覇し錬金術で大富豪になりハーレムを作って美女達とスローライフ」希望とある。なんだそのいいとこ取りは。
「無理ですね。冒険者や魔術師、チートスキルやスローライフ、そういう系の主人公はどこもいっぱいで枠がありません」
「えー何とかならない?」
「なりません」
「一つくらいあるでしょ」
「ありません」
「えーじゃあ他には?」
「王侯貴族系ならまだ空きがあります」
「んー楽して暮らせるならそれでもいいか」
「それではこちらからお選びください」
①男爵令嬢と浮気して卒業パーティーで公爵令嬢と婚約破棄したが冤罪がバレて落ちぶれる王太子
②初夜で君を愛することはないと言い放ち妻の能力に気付かず国外追放した後に没落する侯爵
③病弱設定の幼なじみまたは義妹を婚約者より優先したせいで見限られて婚約破棄される伯爵令息
④本当はずっと好きだったと言われても意地悪な相手と結婚なんて絶対に嫌と徹底拒否される第三王子
⑤遠征先から不倫相手の自称聖女を連れ帰り離婚を迫るが正統な聖女の妻に愛想を尽かされる辺境伯
「どれがいいですか?」
「全部ざまぁされてんじゃん!」
「仕方がないですよ。おいしい役どころは早い者勝ちです」
じつは件のチヨさんとタツさんが無作為のやらかしで、ざまぁする側の供給過多により、ざまぁされる側の供給不足が発生しているのである。しかし未だにどの物語もざまぁ人気が高いため、どうにかして需要に応えるのがわたしの主な仕事なのだ。
「そんなんじゃなくて!オレはカッコいいのがいいの!頂点で無双して女子にキャーキャー言われたいの!」
メンドクセーなオイ。
「だったら獣人の王とかどうですか?オオカミは昨日埋まってしまいましたが、今ならトラかライオンが選べます」
「えーどっちが強いの?」
「パワーは圧倒的にトラですね。でも群れとなるとライオンに軍配が上がるかと。絶対的な強者を取るか、組織を率いるリーダーを取るか、そこはお好みで」
「んーどうしよっかなぁ」
「ちなみに天真爛漫な兎の獣人やツンデレな猫の獣人などの他種族またはエルフや人間などの異種族から番を選ぶことができます」
「ハーレム作れるじゃん!じゃあライオンで!」
「かしこまりました」
ポチっとな。
ルーズリーフピアスの男子高校生は、あっさりライオンの獣人王に転生した。おめでとう。
ついでに言うと、確かに他種族や異種族から番を見付けることができるが、
⑥番を誤認する薬のせいで偽物に騙され本物の番を追放してしまい気付いたときにはとっくに本物との絆が切れていてすでに手遅れ
というれっきとしたざまぁされちゃう転生先である。
ただし本物の番との絆が切れるまでは王様としていい暮らしをしてハーレムでウハウハできるので、「頂点で無双して女の子にキャーキャー言われたい」という彼の希望をきちんと叶えてあげたことになるから大丈夫だろう。知らんけど。
「嘘はついていないものね」
「ですね」
「俺には真似できねぇな」
「しなくていいですよ」
だってわたしだからできることだから。
男なのに毬杏奴(マリアンヌ)なんて名前を付けられて、だったら女になってやろうじゃん!って高校卒業後にそういう世界に飛び込んだ。そこではマリではなくアンヌと名乗り、外面の良さだけでうまく立ち回り、要領よく暮らしていた記憶が少しだけよみがえる。
騙されたことも騙したこともあるだろう。何となくだが罪悪感が薄い人間だった気がする。
男子高校生の転生ボタンを押すときも、ためらいなんて欠片もなかった。きっと情も薄いのだろう。
こういう質のわたしだから神様が『異世界係』担当に選んだのかもしれない。知らんけど。
いずれにせよタツさんが煎れてくれたお茶で休憩だ。チヨさんが「マリちゃんはこっちね」とつぶ餡の薄皮饅頭を取り分けてくれる。
彼らとの時間が心地よい。今はそれでいい気がした。
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※また趣の違う世界の連載を投稿しています。
タイトル『頭上の猫は今日も口うるさい』
会話のできる不思議な猫をかぶった伯爵令嬢ソフィアの奮闘記(?)です。
https://ncode.syosetu.com/n5249md/
良ければそちらもぜひお読みください!!




