高校デビューってやつ
みんなは高校デビューと聞いてどんなことを思い浮かべるだろうか?
中学校時代とは異なり、高校入学を機に外見や振る舞いを一新し、垢抜けた印象や新しいキャラクターを目指すという普通の人ならまずやらないような謎の伝統的文化である。
どうしてこんなことを急に話すのかって?
そんなの決まっているだろう。
俺も高校デビューを志した内の一人だからである。
春の朝。
カーテン越しに差し込む柔らかな光はやけに眩しかった。
「よし...」
鏡の前に立った俺──雨夜霞は、今日という日を2ヶ月前からずっと楽しみに待っていた。
高校生への進学ということももちろんあるが、本当の理由はまた別にある。
それは、中学校卒業前の友人とのとある会話だった。
二ヶ月前─
「でさぁ、この前彼女と遊園地デート行って─!」
「へぇ、良かったじゃん。」
スマホの画面に映る写真を笑顔で見せつけながら、惚気話を展開してくるのは中学校の友人だ。今どきの中学生ともなれば彼女の一人や二人できたとしてもおかしくはないだろう。体育祭や修学旅行などのイベントのシーズンには辺りを見渡せばカップルだらけとなっていた光景は今でもよく覚えている。
しかし、皆がみんなそんな花の学校生活を送れているわけではないのは周知の事実だろう。実際問題、中学の頃の自分は恋愛とは無縁の生活を送っていた。
まぁ、恋愛なんて自分からしようとか思わないし? 恋人なんて欲しくないっていうか、そこまで気にすることでもないっていうか.....
.........
嘘だよ! 本当はめっちゃ欲しいよ!! ラブラブな恋愛とかしてみたいよ!!!
おっと、失礼...
いや、自分でも恋人ができないのがどうしてかなんてことは分かりきっているのだ。
その理由とは、俺の体型が9割ってところだろう。
そう、俺は周りの子よりも”少しだけ”ふくよかな体型をしていたのだ。
少しだけだから。
そんなに気にすることでもないんだよ?
他の子たちと比べたら少しだけ大きかったというだけだから。
小学校は有り難いことに心優しい子たちばかりの学校に通うことができ、体型についていじられたりということは無かった。そのまま中学校へ進学すると、そこでも体型を理由に何かをされるということは一切なかった。別に目立ちたい・モテたいという欲求があったわけでもなかったため、気にせず普通に3年間の学校生活を送り、もうすぐ卒業というタイミングであの友人との会話があった。
そのため、俺は卒業を控えたそのタイミングであることを決意した。
ダイエットをして、自分もカッコいい男になって誰かに自慢できるほどの恋愛をしてみせる!!
そんな夢物語を掲げ、それを現実にするべく俺は2ヶ月間本気で努力した。少々無理な方法も試したおかげか、自分でも驚くほどのスピードで体重はみるみる落ちていき、体を確実に絞ることができた。
そして、今日はいよいよ高校の入学式。
これから、漫画やアニメの作品に出てくるような甘酸っぱい青春ができることに淡い期待と希望を抱きながら僕...いや、俺は鞄を片手に家をあとにする。
そしてその日、俺は知らなかった。
必死に努力をして手に入れたこの姿で、
日本トップクラスの高校に足を踏み入れることがどれだけ危険であるかを。
俺の至って普通な人生の歯車はこの日より狂い始めた...




