安全地帯(セーフゾーン)構築。モーターグレーダーで『完全水平』なインフラを整備します
「……ひどい有様だな、こりゃ」
ハイドラを討伐し、さらに下層へと降りた俺とリゼ。
辿り着いた第5階層は、無数のクレーターと岩が乱立する、見渡す限りの荒野だった。
「ここは『嘆きの荒野』。見通しが悪い上に地面がデコボコで、探索者が一番野営したくない最悪の階層よ」
助手席でタブレットを叩きながら、リゼが解説する。
実際、配信のコメント欄でも『ここですぐ足首捻るんだよな』『休憩ポイントが一切ない魔の階層』と愚痴がこぼれていた。
(休む場所がないなら、作ればいい。それがインフラ整備ってもんだ)
俺はスキルを発動し、新たな重機を召喚した。
「【重機換装】。さあ、基盤を造るぞ」
光と共に現れたのは、前輪と後輪の間に巨大なブレード(刃)を備えた、細長い独特のフォルムを持つ建機。
道路工事の要、地面をミリ単位で削り出して平坦にする『モーターグレーダー』だ。
「リゼ、ARシステムに図面(設計図)のデータを送ってくれ」
「了解、マスター! 半径500メートルのローカルマップを展開。ガイドライン、出力するわ!」
フロントガラスのARディスプレイに、水色のグリッド線が浮かび上がる。
俺はアクセルを踏み込み、車体中央のブレードを下ろした。
「ただ平らにするだけじゃ、素人の仕事だ。湧き水や雨で水たまりができないよう、外側に向けて『1%の水勾配』をつけて削る」
ゴリゴリゴリッ……!!
モーターグレーダーが荒野を走り抜けるたび、起伏の激しかった岩や土が鉋で削られたように滑らかになり、幾何学的なまでに美しい『完全な平地』が生まれていく。
『うおおお、見ててすげえ気持ちいい……』
『ASMR動画かよww ずっと見てられるww』
『てか、水はけの計算までしてんのか。マジでただのプロじゃん』
同接はすでに3万人を突破。コメント欄は、圧倒的な整地作業の美しさに魅了されていた。
わずか15分で、荒れ果てていた荒野の中心に、サッカーコート数面分の完璧な『フラット空間』が完成した。
「現場の安全確認、ヨシッ。……次は頼むぜ、リゼ」
「任せて! ここからがアタシの腕の見せ所よ!」
リゼは重機から飛び降りると、ハイドラからドロップした特大の魔石を中央に突き立てた。
そして腕の端末からケーブルを伸ばし、魔石に直接接続する。
「魔石をローカルサーバーのコアに設定。周囲の魔力場をデータベース化して、モンスターのヘイト認識アルゴリズムからこの座標を『除外(Null)』する!」
リゼの指が高速で動き、見えないデータの波が平地に広がっていく。
それは魔法の結界などではない。ダンジョンのシステムそのものをハッキングし、モンスターの索敵ルーティングを誤魔化す、完璧な情報工学的アプローチだ。
「よし、ローカルネットワーク構築完了! これでモンスターは、この平地を『ただの壁』だと認識して寄り付かなくなるわ!」
『え? マジで安全地帯作っちゃったの!?』
『しかも広大で超平らwww テント張り放題じゃん!』
「……あ、あの」
その時、整地されたばかりの空間の端から、ボロボロの装備を身につけた探索者のパーティーが恐る恐る顔を出した。
「配信、見てました……。俺たち、怪我人が出て身動きが取れなくて。ここで、休ませてもらっても……?」
「ああ、構わないぜ。好きに使ってくれ」
俺がそう言うと、彼らは泣き崩れながら平地にへたり込んだ。
それを皮切りに、次々と他の底辺探索者たちが、噂を聞きつけてこの『絶対安全なインフラ空間』へと集まり始めた。
これが後に、ダンジョン深層における最大の拠点『黒部村』と呼ばれるコミュニティの始まりだった。
——しかし。
光あるところには、必ず泥深い闇が落ちる。
「……気に食わないな。実に、美しくない」
地上。王都のギルド本部の最上階。
『白銀の剣』シークフリートは、最高ランク探索者のみに与えられた権限を使い、ギルドのクエスト管理システム(バックエンド)の深層領域にアクセスしていた。
「あのような泥臭い機械と底辺のネズミどもが、英雄扱いされるなど。私の美学が許さない」
彼は冷たい笑みを浮かべながら、管理コンソールに恐るべきコマンドを打ち込む。
『警告:第5階層のモンスター湧き(ポップ)ポイントのルーティングを変更しますか?』
「承認だ。第6階層の『狂乱の群れ(スタンピード)』のAPIリクエストを、あの汚らわしい平地の座標へ強制転送しろ」
シークフリートの指がエンターキーを叩く。
次話。最強の重機とシステムを誇る俺たちの前に、ダンジョンの『理不尽なシステム改ざん』という、最大の悪意が牙を剥くこととなる。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!
「重機でモンスターを轢き潰すの最高!」「リゼのツッコミが良い!」「続きが気になる!」と少しでも楽しんでいただけましたら、
ページ下部より【ブックマーク】の登録をして応援していただけますと、毎日の執筆・更新の最大モチベーションになります!
重機無双はまだまだ加速します。何卒よろしくお願いいたします!




