システム再起動。世界は『現場』から塗り替えられる
「……やめろ、やめてくれ! 私は英雄だ! 人類の希望なのだぞ!」
超ロングブーム解体機の巨大なハサミが鼻先に突きつけられ、シークフリートは情けなく腰を抜かしていた。
剥き出しになった執務室には、俺が設置した中継魔石から、全世界に彼の醜態がリアルタイムで流れ続けている。
「英雄? あんたはただの『バグ利用の常習犯』だ。……リゼ、終わらせろ」
「了解、マスター。――特権ユーザー・シークフリート、全権限の凍結(アカウント停止)を実行!」
リゼが端末のエンターキーを叩いた瞬間、シークフリートの全身を包んでいた黄金のオーラが、砂が崩れるように霧散した。
彼がギルドの裏コマンドで不正に得ていた「レベル」と「スキル」が、リゼの手によって強制的に初期化されたのだ。
「あ、あ……私の力が……っ!?」
「あんたの力じゃない。それはシステムからの借り物だ。……さて、現場監督からの最後通告だ。あんたの築いた腐った建物は、本日をもって『全壊(更地)』とする」
俺がアームを力強く引くと、ギルド本部の最上階が轟音と共に崩落した。
シークフリートは衛兵たちによって、瓦礫の中から引きずり出され、一人の罪人として連行されていった。
王都の民衆からは、英雄の失脚を嘆く声ではなく、呪縛から解き放たれたような大歓声が沸き起こった。
数日後。
俺たちは、すっかり活気づいた第5階層の拠点『黒部村』に戻っていた。
ギルド本部は暫定的な新体制へと移行し、俺たちの道と拠点は、正式に『特例治外法権区域』として承認された。
もはや、誰一人として俺たちの「工事」を邪魔する者はいない。
「マスター、お疲れ様! これでやっと、ゆっくり重機のメンテができるわね!」
リゼが油まみれのツナギ姿で、笑顔で飛びついてくる。
広場には商人たちの馬車が行き交い、井戸からは清らかな水が湧き続け、操作パネルには住人たちの活発なやり取りが流れている。
俺たちが造り上げたインフラは、確実にこの世界の『新しい常識』になりつつあった。
「……ああ。だが、まだ終わったわけじゃないだろ?」
俺は視線を、さらに下の階層へと続く「奈落の入り口」へと向けた。
シークフリートを解析した際、リゼが見つけ出した奇妙なログ。
それは、ギルドすら把握していない、ダンジョンのさらに深い場所から発信されている『未定義の信号』だった。
「ええ。第10階層のさらに先……。そこには、この世界の『ソースコード』そのものが眠っている可能性があるわ」
リゼの瞳が、未知の技術への好奇心で輝く。
「シークフリートはただのユーザーだったけど、その下には『管理者』そのものがいる。……アタシたち、そこまで行って、この世界の仕様書を書き換える必要があるわね」
『うおおおお、第2章突入か!?』
『次は「世界の創造主」との対決!?』
『重機で世界の根源を掘り起こすとか、スケールがデカすぎるwww』
配信のコメント欄が、次なる冒険への期待で爆発する。
俺は再び、愛機のエンジンに火を入れた。
「現場の安全確認、ヨシッ。……さて、次の工区へ移動するぞ。リゼ、忘れ物はないか?」
「もちろん! アタシのキーボードと、マスターの重機があれば、どこだって『現場』にできるわ!」
俺たちは、賑わう村を背にして、まだ誰も見たことのない暗闇の底へと重機を走らせ始めた。
物理の暴力と論理の力で、この世界のバグを全て「整地」するために。
(第1章・完)




