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局所的環境エラー。嵐の中でも、工期は遅らせません

「……なんだ、この空は」


つい数分前まで、第5階層の広場には穏やかな陽光が降り注いでいた。

しかし今、俺たちの拠点『黒部村』の真上にだけ、インクをぶちまけたような真っ黒な暗雲が立ち込め、不気味な渦を巻いている。


ゴロゴロ……ッ、ドォォォォォン!!


鼓膜を揺さぶる凄まじい雷鳴。

直後、バケツをひっくり返したような豪雨と、重機の巨体すら揺らす暴風が吹き荒れた。


「ひ、ひぃぃ! 神の怒りだ! 拠点を造ったから、ダンジョンの怒りに触れたんだ!」


避難していた探索者たちがパニックに陥り、井戸の周りで祈り始める。

だが、俺のARディスプレイに映る気象データは、これが「自然な天災」ではないことを示していた。


「マスター、見て! 異常よ、ありえないわ!」


リゼが強風に煽られながら、必死に端末のホログラムを俺に向けた。

そこには、円環状に暴走し、一点に集中して逆流する真っ赤な魔力の波形が映し出されている。


「この場所の魔力の流れが、無限ループに陥ってる! 誰かが強引に膨大な魔力を流し込んで、気象の法則を『オーバーフロー』させてるんだわ。まるで、壊れた計算機が同じエラーを吐き出し続けているみたいに!」


リゼの解析は鋭い。

何者かが、この世界の理に「無理な割り込み」をかけ、空間の処理能力をパンクさせているのだ。


(……ギルドの嫌がらせか。物理でダメなら、環境そのものをバグらせて潰そうってわけだ)


広場の隅では、避難したはずのレジナルド役人が、馬車の窓からこちらをニヤニヤと眺めていた。

「これで終わりだ」と言わんばかりの、醜い勝ち誇った顔。


「リゼ、騒ぐな。天気がバグった程度で、俺たちの仕事は止まらないぜ」


俺は操縦席に飛び乗り、ハッチを閉めて外部の喧騒を遮断した。


「設定変更。重機換装、全天候型・耐電仕様。泥濘ぬかるみ対策として土質改良剤を散布する」


油圧ショベルのアームが光を放ち、先端が特殊な散布装置へと切り替わる。

俺は落雷を逃がすためのアースを接地させ、エンジンを轟かせた。


「みんな、よく見とけ! プロの現場に『悪天候による中止』なんて言葉はねえんだよ!」


重機が泥の海へと化した広場に踏み込む。

本来ならキャタピラが埋まるほどのぬかるみだが、俺が散布した改良剤と、振動による転圧が、瞬時に泥を「硬い地盤」へと焼き固めていく。


空から降り注ぐ雷は、重機の耐電装甲を伝って安全に地中へと逃がされ、吹き荒れる暴風も数十トンの質量を持つ鋼鉄の塊を動かすには至らない。


『うおおお、嵐の中で重機が光ってる!?』

『雷を弾きながら作業を続けてるぞ、あの男……!』

『「工期は遅らせない」ってセリフ、かっこよすぎるだろwww』


同接数はついに12万人を突破。

絶望的な嵐の中で、ただ一機、悠然とインフラ整備を続ける鋼鉄の巨神。

その姿は、視聴者たちの目に「理不尽な世界に抗う、揺るぎない文明の象徴」として焼き付いていた。


「な……なぜだ!? なぜ壊滅しない! 階層の理を歪めたのだぞ!?」


馬車から身を乗り出したレジナルドが、信じられないものを見るかのように絶叫する。

彼は知らないのだ。

バグを利用しただけの小細工など、現場を知り尽くした「本物の技術」の前では、ただのノイズに過ぎないということを。


「現場の安全確認、ヨシッ。……さて、リゼ。このエラーの『発信源』、特定できるか?」


俺が通信機越しに問うと、リゼは不敵な笑みを浮かべて端末を叩いた。


「当然よ! ログは全部取ってあるわ。……見つけた。この無茶な魔力の割り込み、王都のギルド本部にある『管理端末』からのリクエストよ!」


犯人のIP――いや、魔力の足跡を掴んだ。

防戦一方の時間は、ここまでだ。

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