荒野を駆ける『振動ローラ』。物流の動脈を整備します
「……ひ、ひぃ! お願いです、これ以上は腰が……っ!」
「甘えるな。現場じゃ新人が最初にやるのは片付けだ。ほら、その岩をあっちに運べ」
俺の目の前では、先ほどまで殺し屋を気取っていた『影の旅団』の面々が、泥にまみれて大きな岩を運んでいた。
一晩かけてたっぷり「対話」したが、結局、奴らは依頼人の正体について何も役に立つ情報を話さなかった。
(……まあ、捨て駒にされるような連中だ。元から何も知らされてないんだろうな)
情報を吐かない暗殺者は、ただの無償労働力――通称『現場作業員』として再雇用することにした。
「マスター、そんなことより見て! 地上の商人ギルドから、提携の打診が止まらないわよ!」
リゼが端末の画面を俺に向け、嬉しそうに飛び跳ねる。
画面には、彼女が構築した村の管理システムへ届いた、無数のメッセージが流れていた。
「ハイドラを倒した上に、安全な拠点を構えた配信者。商売人たちが、この利益の匂いを見逃すはずないわ。でも……」
リゼが荒野の先、デコボコの悪路を見てため息をつく。
「ここに来るまでの道が酷すぎて、馬車が通れないのよね。荷物が届かなきゃ、商売は始まらないわ」
(物流が死んでれば、どんな良港もただの砂浜だ。なら、次は『道』だな)
俺はスキルを起動し、新たな重機を呼び出した。
「【重機召喚】。仕上げの転圧作業に入る」
現れたのは、フロントに巨大な鉄のドラムを備えた、質量の塊のような重機。
地面を自重と振動で踏み固める『土木用振動ローラ』だ。
俺は先にモーターグレーダーで平らにしておいた土の上に、この鉄の巨体を走らせた。
ギュォォォォォン……ッ!!
スイッチを入れると、機体内部の重りが高速回転し、周囲の空気を震わせるほどの強烈な振動が地面に叩きつけられる。
ただの柔らかい土だった場所が、ローラの通過と共に、馬の蹄も沈まないほどカチカチの硬土へと変貌していく。
『きたきた、この振動の音!』
『見てるだけで腰にきそうだけど、地面が固まっていくの気持ちいい……』
『道の整備まで始めたぞ。この配信者、本当に一人で文明築いてるな』
同接数は安定して5万人をキープ。
視聴者たちは、何もなかった荒野に「道」という文明の動脈が刻まれていく様子を、固唾をのんで見守っていた。
「リゼ、商人たちにルート開通の通知を送れ。ついでに、村の在庫管理データを地上と同期させておけよ」
「了解! 村のショップ用アプリ、公開するわね!」
リゼが魔石のサーバーを叩くと、地上の商人たちが持つ端末へ、この第5階層のショップ情報がリアルタイムで配信される。
今、この瞬間。ここは単なる「避難所」から、莫大な富を生む「中継貿易拠点」へと昇格したのだ。
「……あ、あそこを見ろ!」
作業に駆り出されていた元暗殺者の一人が、指を差して声を上げた。
開通したばかりの真っ直ぐな道。
その地平線の向こうから、砂煙を上げて、数台の馬車がこちらへ向かって走ってくるのが見えた。
地上の商団だ。
「……よし。これで物流は繋がった」
俺はハンドルの振動を感じながら、小さく笑った。
水があり、家があり、道があり、そして商いが始まる。
だが、その馬車の列の中に。
周囲の商人とは明らかに異なる、白銀の意匠を凝らした豪華な馬車が一台、混じっていることに俺たちはまだ気づいていなかった。
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