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悪役令嬢を回避したいので、ヒロインに嫌がらせなんてありえません!

作者: 杓子ねこ
掲載日:2026/02/01

 私が前世の記憶を取り戻したのは、十三歳。婚約者と初めて顔をあわせた時だった。

 

 ギデオン・アンブリッド殿下。

 ゆるやかな癖のある金髪とやさしげな目元で、まだ十五歳ながら甘い空気をまとった、まさに王子様といった容貌。

 

 それも当然。彼は、エルファータ王国の王太子にして、乙女ゲーム『エルファータの蜃気楼』での最人気キャラクターだ。

 

 ……え、これ、異世界転生というやつでは。

 

 思わず魂を飛ばしかけて、ハッと我に返った私は急いで膝を折った。


「お初にお目にかかります、フェレシア・ローシュと申します」

「……ギデオンだ」

 

 殿下は一応そう答えてくださったけれど、それっきり。目もあわせたくないといったご様子だった。

 

 

「そりゃ、当然ね……」

 

 顔合わせのあと、屋敷に戻った私は鏡を覗き込んでため息をついた。

 フェレシアと名乗った時からわかっていたことだけれども。

 

 淡い上品な殿下の金髪とは違って、バチバチの黄金色の髪を、さらにゴージャスにと縦ロールに巻いた髪型。将来きつい美人になりそうな顔立ちの少女が、こちらをバチクソ睨みつけている。

 

 ギデオン殿下と私の婚約は、公爵であるお父様が娘かわいさのあまり半ば無理やりに決めたもの。

 おまけに甘やかされて育った私は、勉強もせず、遊び暮らしていた。王太子妃にふさわしいわけがない。

 

 そう、私フェレシアは、悪役令嬢だ。

 

『エルファータの蜃気楼』のヒロインは、男爵令嬢エリーネ。

 スレたところのない純真な性格で、ひたむきにがんばる彼女は、自分でも気づいていなかった魔法の素養を持っていて……!から始まる、恋と魔法の学園ストーリーだ。

 

 フェレシアは、公爵令嬢と王太子の婚約者という立場にあぐらをかいてエリーネをいじめまくり、断罪&追放される役どころ。

 

 しかも、問題はもう一つある。

 

 勉強だけでなく、お作法の時間もサボっていた私は、令嬢らしい振る舞いが身についていない。

 そこへ前世の記憶を取り戻したことで、言動が前世に引きずられるようになってしまったのだ。

 

 前世の私は、教育熱心な両親から勝手な期待をかけられたうえ、志望校には不合格。勝手に期待外れだと失望されて、めちゃくちゃグレていた。

 眼鏡を投げ捨て、おさげだった髪を染め、ピアスを開けて、わざと乱暴な言葉遣いをしたり、ガサツな態度をとったり……素行不良少女というか……ちょっと……ちょーっとしたヤンチャをしていた。

 

 今も、無意識に大股をおっぴろげて座り、鏡の中の自分にガンを飛ばしている。

 

「マジイな……」

 

 ガシガシと頭をかき、私は呟いた。

 こんな姿を見られたら、断罪どころの騒ぎではない。私に甘々なお父様相手でも一発アウト、勘当ものだ。断罪の前に追放されてしまう。

 

 前世では家出をしまくったけれどそれは現代日本だったからで、公爵令嬢の私は庶民の生活に疎い。異世界で勘当されたらさすがにどう生きていけばいいのかわからない。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛……」

 

 うめき声をあげて私はベッドに倒れ込んだ。

 完全にグレる前、私の心のよりどころだった『エルファータの蜃気楼』。

 まさかその悪役令嬢に転生して、今度はとことん甘やかされて育てられ、それが自分の首を絞めるなんて、皮肉な話だ。

 

 

 その日から、私は妃教育に励んだ。家庭教師に謝って、勉強はもちろん、作法や話し方も令嬢らしく鍛え直してもらった。

 

 さもなければいつか素が出て、社会的に死ぬ――。

 

 そう確信したからだ。

 

 同時に、ギデオン殿下とはなるべく疎遠にすごしたい……できれば穏便に婚約を解消したい。

 でも、無理やり婚約しておいて、すぐに解消を言いだすというのも王家をコケにしていると受けとられてしまう。

 

 ゲーム本編が始まるのは二年後。

 私と同じ年にエリーネが学園に入学し、ギデオン殿下に出会う。そうなれば放っておいても婚約は解消されるはず。

 私は断罪などという騒動にならないように、ひっそりと暮らそう。

 

 それまでは、月に一度、ふたりだけで茶をシバ……いえ、お茶会にお誘いする。

 

 このくらいの距離感がよろしいのではないかしら。

 

* * *

 

 翌月、私はギデオン殿下を屋敷にお呼びした。

 

 家庭教師をつけ直し、お茶の作法も学んだ。気をつけていればおしとやかな令嬢に見えるはず。

 

「これは?」

 

 テーブルの上に盛られた菓子を指さし、ギデオン殿下が尋ねる。

 

「それはシュークリームですわ。中に生クリームやカスタードクリーム、チョコレートが入っております」

 

 この世界にもシュークリームはあるけれど、それは前世で言うプチシューのサイズで、小さなもの。

 

 コックにお願いして、中にみっちりとクリームの詰まった、大きなシュークリームを作ってもらったのだ。

 ついでにカスタードだけだったクリームもバリエーションを増やし、生クリームとカスタードクリームの組みあわせや、チョコレートとほかのクリームの組みあわせもリクエスト。

 

 中身がわかるようにとトップ部分をカットしてクリームをチラ見せし、さらにフルーツも添えたシュークリームは、ギデオン殿下の知るものとは異なった見た目になった。

 

「シュークリーム……これが」

「ギデオン殿下は甘いものがお好きだとうかがいました。ぜひご賞味ください」

 

 私はにこりとほほえんだ。

 

 名付けて、『食べてるあいだはお話ししなくていい作戦』!

 

 いろいろとつけ焼き刃な私が最も恐れているのは、会話からボロが出ることだ。

 勉強や国政の話題を振られたら何もわからない。ほかにどんな貴族がいるかや、どんな領地があるかも知らないのだ。

 

「たしかに甘いものは好きだ」

「お忙しいギデオン殿下の癒やしになればと思いまして」

 

 ギデオン殿下はものめずらしそうにシュークリームを眺めると、一つ手にとってかじりついた。

 こわばってた表情が少し、ゆるんだような気がする。

 

「うん、おいしいな」

「よろしゅうございました」

 

 ちなみにこのあとは図書室ですごす予定だ。

 

 作戦名は当然、『読んでるあいだはお話ししなくていい作戦』!

 

 令嬢らしい話題ができるようになるまでは、これでなんとか乗り切るしかない……。


 

* * *

* * *



 最初の数回は綱渡りなお茶会をすごしたものの、心を入れ替えて取り組んだ勉強も着実に進み、私は公爵令嬢として恥ずかしくない知識とふるまいを身につけていった。

 いつのまにかギデオン殿下との会話も増えて、月に一度のお茶会は楽しいものになった。

 

 

 そして、二年後。

 

 今日はいよいよ、学園の入学式。

 在学生のなかで最も地位の高いギデオン殿下が、新入生の前で挨拶した。

 ゲームでも見た光景だ。

 

 ギデオン殿下は入学式後、王宮へ帰ろうとしたところで、学園内で迷子になったエリーネに出会うのだ。

 

 私はそっとイベントの起こる場所へ行ってみた。

 そこにはちゃんとエリーネがいて、ギデオン殿下に困ったような顔を向けている。

 

 ギデオン殿下は背中を向けていて表情はわからないけれど、ゲームのとおり、エリーネに学園を案内することになったみたい。

 エリーネが嬉しそうな笑顔を見せた。やわらかそうなベージュの髪がさらりと揺れ、あたりの空気がキラキラと光ってすら感じられる。

 

 さすが、ゲームヒロインはかわいいわね。

 ギデオン殿下も心奪われるでしょう。

 

 ――ズキン。

 

「?」

 

 なんだろう、今の。胸が苦しくなったような……。

 ここから訪れる試練への緊張かしら。

 

 エリーネと親しくなったギデオン殿下は私と距離をとるはず。

 でもそれでいい。ギデオン殿下を追わない。エリーネに手を出さない。おとなしく暮らして、円満に婚約解消。

 それが平穏に生きるための唯一の道すじだ。

 

 ――と思ったのに。

 

 

「また新しいお菓子を作ったんだね。……うん、おいしい」

「????」

 

 ギデオン様はいまだに公爵家にいらっしゃる。

 お茶会はもういいと思って招待を出さなかったら、『今月のお茶会はいつ?』と催促のお手紙が届いてしまった。

 

「これはなんていうお菓子なんだい?」

「これは、レアチーズケーキです」

「焼かないチーズケーキか。味が濃厚でおいしい。フェレシアはいろんなことを考えるね」

 

 私が考えたわけではなく、前世にあったものを再現しているだけなのですが……。

 

 それよりも、なぜわざわざお茶会に?

 

「あと三年か。まだまだ長い。待ちきれるかな」

「三年?」

 

 不思議なことを言うギデオン殿下に首をかしげると、殿下はフッと息を漏らしてほほえんだ。

 

「フェレシアと結婚できるまでだよ。卒業までは待たないとね」

 

 出会った瞬間に前世の記憶を取り戻させたほどの美形が、目を細めて私を見つめている。

 包み込むようなやさしい視線が、春の日差しのように私にそそがれた。

 

「え……っ、あ、はい」

 

 婚約の解消は?

 とは聞けず、顔を赤くして背すじをのばした私を、ギデオン殿下は楽しそうに見つめていた。

 

* * *

 

 週明け、私はどこかふわふわした気持ちで学園へ登校した。

 

 ギデオン殿下が……私と結婚したいと思ってくださっている。

 エリーネと出会えば、ギデオン殿下は自動的に彼女と恋に落ちるのだと思っていた。でもそれは違ったようだ。

 

 私が言動を改め、嫌われなくなったおかげで、婚約破棄や断罪は遠ざかった。

 同時に、ギデオン殿下との未来が見えてきた……?

 

 けれど、そんなことが許されるのだろうか――。

 

 

「あんた、ちゃんとシナリオどおり動きなさいよ!!」

 

 ……許されなかった!!

 

 特別教室が並ぶ校舎は、本校舎と違って、放課後にはほとんど人がいない。

 そんな場所で、私はエリーネに怒鳴られていた。

 

「あんたも転生者なのよね!? 悪役令嬢のくせに大人しくしちゃって! あんたが動かないとあたしに注目が集まらないでしょ!!」

 

 空気が輝くみたいにかわいいと思った顔が、般若の表情になっている。

 

「え、ええと……その――キャアッ!」

 

 何をどう言えばいいのかと悩んでいるうちに、エリーネは私の肩をつかみ、壁に押しつけた。

 背中を打ちつけた衝撃が胸まで伝わって、私は咳込む。

 

「いい、嫌がらせよ。殿下やみんなの前で、あたしを叩くのよ。やらないとどうなるかわかってるわね?」

 

 手を離さないまま顔を近づけて、ギロリとエリーネは私を睨んだ。

 

 相手の反論を許さない、流れるような恫喝→要求→トドメのひと睨みのコンボ。

 

 こ、このやり口……豪の者だ……!!

 

 おののく私を残し、エリーネはさっさと教室を出ていった。私は言い返すこともできずに、「やらないとどうなるんだろう……」と震えざるを得ない。

 

 ……が!!

 

 お察しのとおり、私も転生者。

 そして彼女がヒロインの座を望むように、私だって平穏な生活を望むのだ。断罪されるとわかっていて嫌がらせなんてするわけがない。

 

 いったん、エリーネの主張は無視させていただく――。

 

* * *

 

「あんた、あたしのことナメてんの!?!?」

 

 ……許されなかった!!

 

 一か月後。

 ふたたび、せっかくのかわいいキャラデザを台無しにする怒りっぷりで、エリーネは私の前に現れた。

 

 なるべく目立たないように、でも人目のある場所を移動するように気をつけていたのだけれど。少しぼんやりしたあいだに一人きりになってしまったところを捕まった。

 

「ナメてないですけど……」

「口答えすんじゃないわよ!!」

 

 エリーネは怒り心頭だ。

 

 この一か月、エリーネはたくさんの罪を私になすりつけようとしてきた。

 ノートを破かれたとか、突き飛ばされたとか、暴言を吐かれたとか、紳士淑女の貴族社会では眉をひそめるような仕打ちを受けたと主張した。

 

 が、そもそも私が『地位を鼻にかけたワガママ公爵令嬢』から『なるべくひっそりと暮らす公爵令嬢』にキャラチェンジしていたため、クラスメイトたちの第一声は「フェレシア様がそんな酷いことを!」ではなく「フェレシア様が……そんなことを……?(困惑)」となり、話題はいまいち盛りあがらず、エリーネの企みは外れた。

 

「あの、私を悪役令嬢にするのはやめてもらえませんか? 普通に恋愛ってできないんですか?」

 

 なるべく低姿勢に、縦ロールやツリ目が圧を感じさせないようにおどおどした表情を作りながら私は尋ねた。

 もし万が一また本性丸出しのエリーネと遭遇したら言おうと思っていたことだ。

 

 攻略対象キャラクターの好感度をあげるだけなら、私はいらないんじゃないか、と。

 

「ほら、ギデオン殿下とのイベントもあったじゃないですか。手作りクッキーをプレゼントする……」

 

 けれど、私の問いは火に油を注いでしまったらしい。

 エリーネの目はますますつりあがった。

 

「あんたが余計なことをしたせいで発生しなかったんでしょ!! 入学式の日のお礼にって、持っていったわよ、キーアイテムの手作りクッキー!! 高位貴族にはない素朴さで心に残る、ってエピソードだったのに……!! ギデオン様はなんて言ったと思う!?」

 

『ぼくの婚約者もお菓子が好きでね。大きなシュークリームを口いっぱいにほおばるんだ。公爵令嬢らしくはないけど、かわいくて……だからこれは受けとれないよ。ごめんね』

 

 ギデオン殿下は、そうおっしゃったのだという。

 

「……!!」

 

 顔が赤くなっていくのがわかる。

 大きなシュークリームをお茶会に出していたのは婚約してからしばらくのこと。

 純粋においしいと思っていたのと、両手で持ってかぶりつくスタイルは口数が少なくなるお菓子だと確信していたせいだ。

 

 結局令嬢らしいふるまいができていなかったのだと思えば恥ずかしいけれど……。

 

 あのときから、ギデオン殿下は私のことを想っていてくださったのだろうか。

 

「……なによ……」

 

 エリーネの低い声に私は我に返った。

 

 据わった目は私を見ているようで見ていない。

 

 両親と同じ目だ、と思った。

 理想どおりにいかない現実を受け入れられない。誰かに責任を押しつけないと気がすまない。

 

 そして、見下した相手には、容赦なく手をあげる。

 

「やっぱりナメてるんじゃない、あたしのこと……!! もういい、あんたなんか人前に出られないようにしてやる!!」

 

 エリーネの手に、魔力が渦を巻いた。高密度の魔力は青白い光を放ち、周囲の景色を歪ませる。

 攻撃魔法だ。

 

 ハッと気づいたときには遅かった。

 奇声をあげながら、エリーネが魔法を放つ。

 

 ――ああ、いけない。

 

 考える前に体が動く――()()()()()()()()()()()()

 

 大振りな攻撃魔法をかわすと、私はエリーネのふところに身を低くして飛び込んだ。

 

「!?」

 

 驚いたエリーネの視線が私をとらえるよりも早く、立ちあがる勢いを借りて上方向の肘テツをくり出す。

 

「ぐばアッ!!」

 

 開いた口から泡を吹き、白目を剥いたエリーネが崩れ落ちる。

 そのまま沈黙したエリーネの首すじに手をあて、念のため脈が止まっていないことを確認し、私は思った。

 

 令嬢教育の一環で、ストレッチをしておいてよかった。

 体の柔らかさがあれば、下から上への肘テツはいい。首、喉仏、顎、どこに当たっても急所に突きをお見舞いできる――。

 

「すごい一撃だったね」

 

「ぎゃあああああああああ!!!!」

 

 数秒前のエリーネよりも激しい悲鳴をあげて、私は振り向いた。

 

 そこには、ギデオン殿下が。

 柔らかな金髪をどこからともなく吹いてきた風にそよがせ、麗しいお顔にほほえみを浮かべてお立ちあそばしていた。

 

「み、見……ッ!?」

 

「見ちゃったね」

 

 ギデオン殿下の口角がわずかにあがる。

 まるでいたずらの見つかった子どものように。

 

 でも、いたずらどころではない現場を見られたのはこっちのほうだ。

 

 サーッと血の気が引く。

 

 前世の私は、両親との軋轢からグレた。

 眼鏡を投げ捨て、おさげだった髪を染め、ピアスを開けて、わざと乱暴な言葉遣いをしたり、ガサツな態度をとったり――。

 

 日々を喧嘩三昧ですごしたり、した。

 

 その記憶を取り戻したとき、私は確信した。

 徹底的に令嬢の振る舞いを身につけて、以前の言動の癖を消さなければ。

 

 いつか素が出て、社会的に死ぬ。

 

 そして今、エリーネの攻撃により、その「いつか」がやってきたのだった。

 

「あ……あの……婚約は、破棄でしょうか……」

「破棄? どうして?」

 

 ぷるぷる震えながら尋ねるわたくしに、ギデオン殿下は首をかしげた。

 

「だって、今……」

「先に手を出したのはエリーネのほうだろう。君は、ぼくを守ろうとしただけ」

「え? ――な……っ!」

 

 ギデオン殿下が壁を指さす。

 そちらへ目を向けて、私は驚きに声をあげた。

 ギデオン殿下が立っている近くの壁は、中央が丸くへこみ、放射状に亀裂が走っていたからだ。

 

「何か変だとは思っていたんだ。やけに馴れ馴れしくて、おまけに君を睨んでいたし」

「睨んで……」

 

 私すら気づいていなかったエリーネの本性に、ギデオン殿下はいち早く気づいていたらしい。

 

「エリーネは意味不明なことを口走り、ぼくがいる場で攻撃魔法を使った。ぼくの命を狙ったのかもしれないね。君は鮮やかな身のさばきで、魔法すら使わずにエリーネを戦闘不能に追い込んだ。賞賛されることはあっても、婚約破棄なんてことにはならないと思うけど?」

 

 いけしゃあしゃあと言うギデオン殿下に、私は開いた口がふさがらない。

 エリーネの攻撃を私に向けたものでなく、ご自身に対してだとすることでエリーネの罪を確定し、私を無罪放免としてくださるおつもりなのだとはわかるけれど。

 

 どこから見られていたのだろうと思ったら、もしかして最初からですか?

 

 ギデオン殿下がパチンと指を鳴らせば、従者たちが駆け寄ってきてエリーネをひっ捕らえていった。

 それを見送って、ギデオン殿下はふたたび私に向きあった。

 

「念のために、直接はっきりと言っておくね。ぼくは君のことが好きだよ」

 

 ギデオン殿下がわたくしの手をとり、口づける。

 甘い声と仕草に、青かった顔に血がめぐり、頬が一気に熱を持つのがわかった。

 

「ワガママな公爵令嬢と政略結婚なんてごめんだと思っていた。でも自分の目で見た君は、多忙なぼくのことを思いやって、居心地のいい場所をくれるやさしい女の子だった」

 

 そのやさしい女の子は、先ほど目の前で肘を喉に入れましたが……。

 

「おいしいって笑う君に、楽しそうに本を読む君に、ずっと前から心奪われていたんだよ。……逃がさないから」

 

 ギデオン殿下がほほえむ。

 もしかして、私はかなりのシナリオ改変を起こしてしまったのだろうか。

 だってギデオン殿下がこんな――不敵で、鋭い、それでいて甘い視線を向けてくるなんて、知らなかった。

 

「逃げられそうに、ないです……」

 

 思わず本音を漏らせば、ギデオン殿下は満足げに頷いた。

お読みいただきありがとうございました!

王道(?)な悪役令嬢転生ものでした。

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