表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/28

はじまりの日のお話 3

はるか昔、世界がまだ光と影のあわいにあったころ。


人々は大地の声を聴き、花は空の歌を覚えていた。


その丘に、一人の女がいた。蒼の魔女と呼ばれたその人は、


水のような瞳に未来を映し、風のような手で命を癒した。


彼女が歩むところ、白き花が咲き、


その花は光を抱きながら虹の色を宿した。


やがて彼女の前に、一人の人の女が現れた。


彼女は民を護りたいと願い、剣を取り、声を上げた。


蒼の魔女はその心を見て、微笑み、言った。


「ならば、あなたにこの丘と、この花を授けましょう。


 その志が絶えぬ限り、花もまた咲き続けるでしょう」


こうして一つの国が生まれた。


女王は白き花を王冠に飾り、魔女はその背に風を残して去った。


しかし時が流れ、人は力を恐れ、魔女の名を封じた。


白き花は枯れ、代わりに青の花が咲いた。


それを人々は“サファイリウム”と呼び、国の名をそこから得た。


伝承は語る。


いつの日か、再び白き花が咲くとき、


蒼の血と白き力は再び出会い、


眠れる魔法が目を覚ますと――。


(サファイリア建国神話 ―『蒼と白のちぎり』より)



――少なくとも”この国では”そう伝えられている。


サファイリアは、代々女王が治める国である。


王家の血筋は「蒼の魔女」の血を引くとされ、女王だけが青い瞳と微かな魔力を宿すと言われているが、他の王族や貴族たちをはじめ、今は国中どこを探しても誰ひとり魔法など使えない。


名産品は宝石と植物だ。あまり詳しくはないけれど、王城中にあしらわれている青い石や、それとよく似た色あいの花がきっとそれなのだろう。


花の名前はサファイリウムといって、国の名前はそこからきているらしい。

美しいだけではなく、薬や香料にも加工できるうえ、お守りにもなる。

まさにサファイリアの象徴ともいえるだろう。



女王だけが持つ青い瞳。

それが、ネルダをとらえて離さなかった。


ーー伝承は、ただの物語。

そのはずだった。


正真正銘この国の第一王位継承者である王女メアリーレインの片思い。

それは一使用人が聞くには過ぎるものである。


仲間内では、そういった話のひとつやふたつ、けして珍しくはないだろう。

多くは使用人同士だが、たまに出入りの行商人に熱をあげているメイドもいる。

それに、料理長と副調理長のように、城内で恋に落ち、今では夫婦で王城の厨房を切り盛りしている例もある。


しかし王女の相手となると、訳が違ってくるだろう。


「まだお受けするとは言っていませんが、一応、念のため、聞いておきたいことが……」


ネルダの問いかけに、王女は愛らしい青の瞳を片方だけ、いたずらに閉じた。


「相手は誰かって? それは秘密」


(まあ、そうですよね……)


それ以上は追及することなどできようもなく、押し黙る。


「……ネル、そんなに重く考えないでちょうだい。何も媚薬で篭絡したいとか、そういうことじゃないの」

「びやく」

「やだごめんなさい。子どもにはまだ早い話よね」


ネルダは今年十五になる。子どもというほどの年齢ではないし、その上王女とは一つか二つしか年が違わなかったはずだと、記憶をたどる。


「わたくし、今のところはまだ割と自由じゃない? だからね、少し試してみたいだけ」


言葉とは裏腹に、うつくしい金糸のようなまつ毛がつるりとした頬に影を落とす。

寂しげな横顔を見て、これ以上は詮索すべきではない、と彼女は理解した。


「……わかりました」

「ネル……!」

「喜ぶのはまだ早い、です。私に魔法の知識も才能もないのは本当なので。ただ……」

「ただ?」


ネルダは少し考えてから、勇気を出して青の瞳を見つめ返した。


「ひとつだけ、お願いしてもよろしいでしょうか?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ