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「夏雪君っ、学校は」

「何事かと思ったから、早退してきました」

ポケットのヒヨコを撫でる。

廊下の引戸からぴょこっ、とポンポンのついたニット帽子の地蔵がのぞき、すぐに引っ込む。

「あやつめ、密告(たれ)こみおったな!」

月弧が舌打ちする。


部屋の惨状に色々思うところや言いたいことがあったろうが、夏雪は先に傍らに連れた青い髪の女の子を紹介した。

「雀女さん、この子はイス・セマンダ。骨董品屋さんの娘さんだよ」

「ごきげんよう、異界人の方。わたしは我が主の八番目の記憶人形、イスト・セマンダ」


「はち? え、人形……って」

困惑しかない雀女に月弧が説明してくれる。

「骨董品屋の主人の(かさね)は長命の魔術師でな、長く生きすぎて頭が混乱するから、ある程度記憶が溜まると、記録にして人形に移して管理しておる」

「???」


「連絡が取れたのだな」

「うん、彼女と帰り道で会ったからちょうどタイミングが良かったよ」

「なんとかなりそうなのか?」

「ええ、恐らくその鏡は我が主人の手に依るものです」

「へッ?」

「なぬっ、雀女をとんだ事態に巻き込んだ鏡とやらはお前の主が作ったのか?!」


青い髪の少女が無表情で頷く。

「はい。実益のない中途半端な効能、情に流されたかと思われる機能停止、適当にいじったら異界に飛ばされるという安全装置と危機管理への考慮の無さ、如実に情緒不安定な我が主の手による特徴を有しています」

(なんかすごい辛辣(しんらつ)……!)


「何より、彼女がここに来たことがその証左かと。寿命を迎えると道具たちは帰巣本能で主の元へ帰ってきます。へっぽこですが、道具には好かれるので」

「雀女さんのお祖母さんの実家も調べたけど存在自体無かったから、鏡が骨董品屋さんの所へ帰ろうとして、雀女さんが巻き込まれてこっちへ来てしまったというのが、事態の真相みたいだね」


「それで、雀女は元の場所へ帰してやれるのか?」

「主は只今、出先で引きこもりに陥ったので、当分帰りませんが問題はありません。該当記憶、関連記憶は所持しております。鏡を再構築して、彼女の記憶を解析させてもらえば、早急になんとかいたしましょう。記憶を確認させて頂くので、額に触れさせて頂いても宜しいでしょうか?」

月弧さんがわたしの背中を優しく叩いて彼女の方へ促す。

「良かったな、雀女。うちに帰れるぞ」

「あ、あのッ、」

「はい?」

「戻ったら わたし、月弧さんや夏雪君のことちゃんと覚えてる?」

「雀女……」


「記憶の保持をお望みですか? 混乱を避けるために消すつもりでしたが、お望みならば叶えましょう。ただし、誰にも話すことはできませんが」

「手間をかけるな」

「そもそもは主人の不手際ですので。では、明朝に」

明日?!

早すぎるっと叫ぼうとする間に、すうっと少女は消えてしまった。

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